破産者に対する支払債務を税務署に差し押えられた場合の対応
事業再生・倒産 当社は製造業を営んでおり、仕入先であるA社から長年原材料を仕入れてきました。最近、A社の経営が良くないという噂を耳にするようになり、仕入先の変更を検討していた矢先、税務署から「A社の当社に対する売掛債権を差し押えた」旨の通知が届きました。それから1か月ほど経って今度は、裁判所から「A社が破産手続を開始した」旨の通知、およびA社の破産管財人から「売掛債権を破産管財人に支払うよう求める」旨の通知が届きました。
当社としては、税務署または破産管財人のいずれに支払をすればよいのでしょうか。また、どちらにも支払わず供託することはできるのでしょうか。
税務署が滞納者の有する債権に対し差押え等の処分(これを「国税滞納処分」という)を行った場合、差し押えられた債権の債務者(これを「第三債務者」という)は、債権者(滞納者)ではなく税務署に対して債務を弁済しなければなりません。そして、国税滞納処分がされた後に滞納者について破産手続が開始しても、すでに実施されている国税滞納処分は続行します(破産法43条2項)。本件では、税務署から債権差押えの通知が届いたことにより国税滞納処分としての差押えの効力が発生していますので(国税徴収法62条3項)、貴社は破産管財人ではなく税務署に対して債務を弁済する必要があります。また、本件のような場合に供託を行うことはできません。
解説
問題の所在
国税滞納処分とは
国が課す税のうち、関税等を除いた税(これを「国税」(国税徴収法2条1号)という)について納税者に滞納があった場合には、国は裁判所による強制執行手続を介さず直接、滞納者が有する資産を差し押え、国税の回収を図ることができます。また、国税以外の地方税や社会保険料等についても、法律上、国税滞納処分と同様の手続により回収を図ることが認められているものがあります(本稿では、国税滞納処分および国税滞納処分と同様の手続による処分を併せ「国税滞納処分」という)。
本件のように国税滞納処分により滞納者が有する債権が差し押えられた場合には、第三債務者に対し、債権差押通知書が送付されます(国税徴収法62条1項)。差押えの効力は、第三債務者に対し同通知書が送達された時点で発生しますので、送達の後は、第三債務者は滞納者に対し弁済をすることができません(国税徴収法62条2項、3項)。そして、差押えを行った者(本件では税務署)が債権者に代わり当該債権を取り立てる権限を有することになります(国税徴収法67条1項)。
破産管財人の権限
破産者につき破産手続が開始した場合、破産手続開始決定時に破産者が有していた財産は破産財団を構成し、破産管財人がその管理処分権を有します(破産法78条1項)。そのため、破産手続開始決定時に破産者が有していた債権の債務者(第三債務者)は、破産者ではなく破産管財人に対し債務を弁済する必要があるのが原則です。
破産手続開始決定時に国税滞納処分がされている場合
それでは、破産者が有する債権につき国税滞納処分がされていた場合、当該債権の第三債務者は、国税滞納処分を行った行政庁と破産管財人のいずれに対し弁済をすべきなのでしょうか。
破産財団に属する債権について、破産手続開始時に、強制執行や仮差押えがされていたとしても、これらは破産手続開始決定によりその効力を失うのが原則です(破産法42条2項)。しかしながら、破産財団に属する債権について国税滞納処分がすでにされている場合には、この例外として、その後に破産手続開始決定がされたとしても国税滞納処分は続行するとされています(破産法43条2項)。
本件のように破産者であるA社が有する債権について、破産手続開始決定時にすでに国税滞納処分がされている場合には、第三債務者である貴社は、破産管財人ではなく国税滞納処分を行った税務署に対し弁済しなければなりません。破産管財人に対し債務を弁済しても、それは有効な弁済とは認められず、改めて税務署に弁済を行う必要がありますので、留意が必要です。
破産手続開始決定時に国税滞納処分がされていない場合
税務署等は、破産手続が開始してから破産手続が終了するまでの間、破産財団に属する債権について国税滞納処分を行うことはできず(破産法43条1項)、国税等の債権も破産手続内で処理されることとなります。そのため、第三債務者としては、破産手続開始決定時に国税滞納処分がないかぎりは国税滞納処分を意識する必要はなく、破産管財人に弁済をすべきこととなります。
供託との関係
本件のように、国税滞納処分が行われた後に破産手続が開始した場合、第三債務者は税務署に弁済をせず、その代わりに供託することはできるのでしょうか。
国税滞納処分が行われた場合で、かつ、同一の債権について民事上の強制執行手続がされた場合には、供託が認められています(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条の6第1項)。しかし、国税滞納処分がなされた滞納者に対し破産手続開始決定がされただけでは供託は認められていません。そのため、本件でも、第三債務者は、破産手続開始後も国税滞納処分を行った税務署に支払わなければならず、供託はできません。
おわりに
法人個人を問わず、破産者について、本件のように滞納処分と破産手続開始決定が同時期になされることは珍しくありません。そのため、第三債務者としては、このような状況でどのように対応すべきかを理解しておくことは重要なことと考えられます。

弁護士法人大江橋法律事務所

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