データ提供型契約の法的論点
IT・情報セキュリティデータ提供型契約において、派生データの取扱いなど、注意すべき法的論点があると聞いたことがあります。どのような点に注意すべきか教えて下さい。
データ提供型契約において、派生データの利用権限の有無、範囲および対価、提供データから創出された知的財産権の帰属および利用権限の有無、範囲、対価、提供データの品質等に問題があった場合の法的責任、提供データの利用目的の限定といった点に注意すべきです。
解説
はじめに
「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が、2018年6月15日に経済産業省から公表されました(以下「経産省ガイドライン」といいます)。
経産省ガイドラインでは、データの法的性質、データの不正利用を防ぐ手段、データ契約の類型、各契約類型の法的論点を幅広く記載していますが、データ編だけでも180頁ほどあり、非常に長いので、本稿ではガイドラインの中から、データ提供型契約の法的論点に関する部分を抽出して説明します。
データ提供型契約とは
データ提供型契約とは、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが「保持」しているという事実状態について契約当事者間で争いがない場合において、データ提供者から他方当事者に対して当該データを提供する際に、当該データに関する他方当事者の利用権限その他データ提供条件等を取り決めるための契約を言います(経産省ガイドラインより)。
ここでいう「保持」とはデータに対して適法をアクセスできる事実状態のことを意味している点には注意が必要です。
データ提供型契約の法的論点
以下では各論点をデータ取引の基本形であるデータ提供型契約の法的論点として整理していますが、各論点はデータ提供型契約以外の契約類型であるデータ創出型契約、データ共用型契約でも問題になることがあります。
派生データの利用権限
派生データとは、データ利用契約によって提供されたデータをデータ受領者が契約の目的の範囲内で加工・分析・統合等することによって初めて生じるデータを言います(経産省ガイドラインより)。
データには所有権が観念できず、知的財産権による保護や契約(黙示の合意を含む)による制限がない限り、当該データに事実上アクセスできる者が自由に当該データを利用できるという原則があります。
派生データはデータ受領者側で生じるものであり、データ受領者は派生データに事実上アクセスできることが多いと想定されるため、契約による制限がない限り、データ受領者は自由に派生データの利用ができることが多いと思われます。
逆にいうと、データ提供者が、派生データに事実上アクセスできる立場になく、特段の合意がなければ、データ提供者は派生データを利用することができないことになります。
もっとも、派生データは、データ提供者が提供したデータを分析・加工等することによって生み出されたデータであり、データ提供者のノウハウ等が含まれることもありますので、データ提供者の立場に立てば、データ受領者による自由な派生データの利用に対して制限をかけていく必要があることもあります。
そのような場合は、どのような派生データについて、だれが、どのような目的および方法で、どの地域で、いつまで利用する権限があるのか、その利用に対価が生じる場合はいくらなのかを契約で明確に決めておく必要があります。
非常にざっくりとしたパターン分けをしますと、以下の4つがあると考えられます。
- データ提供者に派生データの利用を認めないパターン
- データ提供者に派生データの利用を非独占的に許諾するパターン
- 派生データの利用権限の有無について契約書では明示せずに別途協議で定めるパターン
- 派生データの利用権限をデータ提供者・データ受領者の双方がもつパターン
提供データから創出された知的財産権
提供データを加工・分析・編集・統合等したことによって創出された知的財産権を、以下では便宜的に「派生知的財産権」と呼びます。
派生知的財産権の場合、派生データと異なり、その帰属について法律で定められたデフォルト・ルールがあります。
たとえば、特許権であれば、特許を受ける権利を有している者が取得しますし、著作権であれば著作者が取得することになります。
そのため、データ利用契約において、派生知的財産権について何ら規定がなければ、この法律で定められたデフォルト・ルールに従って、派生知的財産権の帰属が決まることになります。
通常、提供データを分析・加工等して知的財産権を創出するのは、データ受領者側である場合が多いと想定されますので、デフォルト・ルールに沿った場合、派生知的財産権はデータ受領者に帰属する場合が多いと思われます。
もっとも、派生知的財産権も、派生データと同様、データ提供者のデータがなければ創出されないことから、データ提供者側が、派生知的財産権についての帰属や持分、利用権を求めることがよくあります。
そこで、データ提供者が派生知的財産権についての帰属・持分や利用権を求める場合は、派生知的財産権は誰に帰属するのか、どのような派生知的財産権について、だれが、どのような目的および方法で、どの地域で、いつまで利用する権限があるのか、その利用に対価が生じる場合はいくらなのかを契約で明確に決めておく必要があります。
派生知的財産権に関するパターン分けは、派生データのところで述べた4点と基本的に同じです。
ただし、著作権を共有にした場合、当該著作権の譲渡に他の共有者の同意が必要となることはもちろん(著作権法65条1項)、著作権の自己使用についても他の共有者の同意が必要になる点(著作権法65条2項)は注意すべきと言えます。
このように著作権の共有の場合は、派生知的財産権の利用に大きな「足かせ」が伴いますので、安易に共有としないことが重要です。
提供データの品質
データ提供型契約において、提供データの品質等に問題があって、データ受領者が契約の目的を達成できずに、データ提供者に対して提供データの品質等について法的責任を追及することがあります。
提供データの品質等に問題がある場合の具体例については以下の表をご覧ください。
データの正確性 | 【データの正確性がない場合の具体例】 時間軸がずれている、単位変換を誤っている、検査をクリアするためにデータが改ざんまたはねつ造されている |
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データの完全性 | データが全て揃っていて欠損や不整合がないこと |
データの有効性 | 計画された通りの結果が達成できるだけの内容をデータが伴っていること |
データ提供型契約が有償契約である場合、データの品質等について問題があれば民法上の瑕疵担保責任(改正後の契約不適合責任)の適用があると考えられます。
もっとも、提供データの品質等の問題といっても様々な内容があります。
そのため、提供データの正確性、完全性、有効性、安全性、第三者の知的財産権の非侵害等について、データ提供者がデータの品質についてどの範囲で責任を負うのか契約で明確にしておくことが重要です。
実務上は、データ提供者が提供データの品質について一切保証しない旨の規定を契約書で定めることもよくありますが、契約書でこのような規定を謳っても、データ提供者の故意または重大な過失により提供データの品質に問題があったような場合であれば、データ提供者は提供データの品質について免責されないと考えられます(民法572条類推適用)。
提供データの目的外利用
提供データのデータ受領者による不正利用を防ぐために、重要な規定が目的外利用禁止規定です。
データ提供者の立場からすると、データ提供の目的を限定的に規定して(たとえば、工場の稼働効率の向上の目的でのみ提供データを利用する)、目的外利用禁止規定も契約で謳い、さらに、データ提供者のデータ受領者に対する監査条項、データ受領者のデータ管理状況の報告条項なども謳えば、データ受領者が契約の目的に反して、提供データを第三者に提供する可能性を減少させることができると考えられます。
したがって、データ提供者の立場からすれば、データ提供の目的を限定的に規定しておくことが、自社のデータの保護につながります。
他方、データ受領者の立場からすると、データ提供の目的が限定的に規定されてしまうと、提供データを利用したビジネスが制限されることになりますので、そのビジネスにおいて必要となる提供データの利用が契約の目的の範囲内の利用になるように、データ提供の目的を柔軟に規定していくことが求められます。
このようにデータ提供者とデータ受領者で、データ提供の目的の規定の方向性が逆になりますので、契約交渉において調整が難しくなる場面の1つとなりえます。
契約の交渉の場面において、データ提供者がデータ提供の目的を限定的にすることを望んだ場合、データ受領者としては、たとえば、以下の方法で、データの横展開についてデータ提供者の理解を得るという方法が考えられます。
- データの横展開を認めてくれるのであれば、サービスの利用料金を安くする
- データの横展開を認めてくれるのであれば、他のデータ提供者から得られたデータに基づく知見も提供する
- データの横展開を認めてくれるのであれば、その横展開によって得られた利益の一部を還元する
まとめ
データ提供型契約において、下記の4点が重要になります。
- 派生データの利用権限を契約で定めない場合、データ提供者に派生データの利用権限が認められない場合も多いため、派生データの利用権限の有無、範囲、対価等を契約で明確にしておくこと
- 派生知的財産権についても、同様に、その帰属や利用権限の有無、範囲、対価等について契約で明確にしておくこと
- データ提供型契約が有償契約であれば、提供データの品質等について問題があった場合に、民法上の瑕疵担保責任(改正後の契約不適合責任)を追求することができると考えますが、その「品質等」としてどのようなものが含まれるのかが不明確なため、契約で明確に定めておくこと
- 提供データの提供の目的を限定的にするか否かは、データ提供型契約において重要な点ですので、よく交渉してその目的を明確にすること

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