名誉毀損とは 成立要件や損害賠償、不法行為による慰謝料の仕組み
IT・情報セキュリティ 公開 更新インターネットによる事実や情報の発信について名誉毀損が成立する事例が増えていると聞いています。インターネットを利用するにあたって、うっかり名誉毀損に該当することのないよう、名誉毀損を行ってしまった場合の法的責任や、その成立要件について教えてください。
名誉毀損とは、他人の名声や信用といった人格的価値について社会から受ける評価を違法に低下させることをいいます。名誉毀損にあたる行為を行った場合、損害賠償や謝罪広告の掲載を求められる場合があるほか、刑事責任を追及される可能性もあります。もっとも、一定の場合には、他人の社会的評価を低下させる行為を行ったとしても、名誉毀損としての責任を問われない場合があります。
解説
身近になった名誉毀損
かつて、名誉毀損の加害者となり得たのは、マス・メディアや著名人等の、公に向けた情報の発信力を有する一部の人たちが中心でした。
しかし、現代においては、いわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やインターネット上の掲示板等を通じて、誰でも不特定多数に向けて情報や自らの意見を簡単に発信することができ、それにより、マス・メディア等に限らず誰もが名誉毀損の加害者にも被害者にもなってしまうリスクを抱えています。
また、インターネットによる事実や情報の発信は、非常に手軽・便利である一方、拡散する速度が非常にはやく、名誉毀損にあたる表現行為を一度行ってしまうと、回復不可能なまでに被害・損害が深刻化するリスクを有しています。
本稿では、どのような行為に名誉毀損が成立し、また、名誉毀損に該当してしまった場合に加害者はどのような法的責任を負わなくてはならないのかについて解説します。
なお、本稿では、特に断りのない限り、民事法上の名誉毀損を念頭に解説いたします。
名誉毀損に伴う法的責任
名誉毀損を行った者(以下「加害者」といいます)は、名誉毀損を受けた者(以下「被害者」といいます)等から、どのような法的責任を追及される可能性があるでしょうか。
民事上の責任
(1)損害賠償請求
名誉毀損行為は、民法上、不法行為にあたり、被害者は、加害者に対して、財産的損害や精神的苦痛に対する損害賠償を求めることができます(民法709条、710条)。
多くの名誉毀損の事案においては、精神的苦痛に対する賠償、いわゆる慰謝料の請求がなされていますが、裁判で認められる慰謝料の額は、名誉毀損の態様により大きくばらつきがあります。
西口元ほか編著『名誉毀損の慰謝料算定』(学陽書房、2015)によれば、平成15年から平成26年までに公刊された名誉毀損の裁判例における慰謝料の平均認容額は180万円、中央値は100万円であり、認容額が高額になる傾向がある名誉毀損の類型として、当該名誉毀損の態様が当該職業に対する致命的な影響を与えるもの、被害者が犯罪行為等に関与したかのような印象を与えるもの、行為が執拗であるもの、名誉毀損の媒体がマス・メディアであるものがあげられています。
(2)謝罪広告の掲載等
損害賠償請求のほか、被害者は、加害者に対して、名誉を回復するのに適切な処分を求めることができます(民法723条)。代表的な名誉回復措置としては、謝罪広告や取消広告、訂正広告を、加害者のウェブサイトや、当該名誉毀損記事が掲載された週刊誌、日刊紙などへ掲載することがあげられます。ただし、金銭的な賠償を認めることにより賄える程度の損害については、謝罪広告等の掲載までは認められないことが多いものと思われます。
(3)差止めまたは削除請求
損害賠償や謝罪広告以外にも、被害者は、加害者に対して、名誉毀損となる表現の差止めや削除を求めることができます。差止めまたは削除請求は、①人格権に基づいて行う場合と、②上記(2)で述べた民法723条に基づいて行う場合とが考えられますが、民法723条の名誉回復措置として請求する場合、被害者は加害者の故意または過失を立証する必要があることから、一般的には、人格権としての名誉権に基づく妨害排除請求として差止めや削除の請求がなされることが多いように見受けられます。
刑事上の責任
刑法では、名誉毀損罪(刑法230条)が定められており、これに違反した場合には3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金が科される可能性があります(名誉毀損罪は親告罪であり、刑事訴追にあたっては告訴権者(被害者やその法定代理人等)による刑事告訴がなされていることが前提となります)。
なお、後記3-1で述べるとおり、名誉毀損による民事上の責任は意見・論評を述べる場合にも発生しますが、刑法の名誉毀損罪は、事実を適示した場合にしか成立せず、事実の適示を伴わない場合には、法定刑のより軽い侮辱罪(刑法231条)が問題となるにとどまります。
名誉毀損の成立要件
名誉毀損とは、他人の名声や信用といった人格的価値について社会から受ける評価を違法に低下させることをいいます。
社会的評価の低下
(1)社会的評価の低下の判断方法
ある表現が他人の社会からの評価を低下させるものであるかどうかは、「一般読者の普通の注意と読み方」を基準に判断されます(最高裁昭和31年7月20日判決・民集10巻8号1059頁)。
社会的な評価を低下させる表現であるかどうかの判断は、必ずしも容易ではありません。たとえば、犯罪、不倫、セクハラやパワハラへの関与があったかのような印象を与える表現は、比較的容易に社会的評価の低下が認定されやすい一方、離婚の事実など、時代によってその事柄への評価が変容するものもあります。
表現を行う媒体や発信者が、社会的評価の低下の判断に影響を与える場合もあります。たとえば、インターネットの掲示板は読者も半信半疑で閲覧しているとして社会的評価の低下を厳しく見る裁判例もあります。
また、民事法上は、事実の摘示を伴わず、意見や論評を述べるにとどまるものであっても、他人の社会的評価を低下させるに足りるものであれば、名誉毀損が成立します。後記3-2で述べるとおり、事実を示すものか、意見や論評を述べるものかによって違法性を否定する要件が変わりますので、その点は注意が必要です。
(2)同定可能性
ある人の社会的評価が低下したといえるためには、その表現が誰に関するものなのか、読み手や聞き手において特定(同定)可能である必要があります。
同定可能性の判断にあたっては、問題となる表現だけでなく、その前後の文脈や関連投稿の内容、当該掲示板の閲覧者の属性等が加味されます。そのため、被害者が無名の人物であってフルネームが表示されていなくても、一定の予備知識・情報を持っている人であれば表現の内容からその被害者を特定することができ、そのような人が当該表現行為の受信者において相応の数に及ぶようなケースでは、同定可能性が肯定される場合があります(東京高裁平成13年2月15日判決・判タ1061号289頁参照)。
(3)公然性
名誉毀損は、あくまで「社会的」な評価を低下させる行為について法的責任を負わせるものですので、原則として、特定少数人にのみ向けられた表現行為については成立せず、不特定または多数人に対し向けられたものであることが必要です。もっとも、当該表現行為が特定少数人に向けられた場合でも、不特定多数人に伝わる可能性があれば、名誉毀損は成立することがあります。たとえば、閲覧できる人の範囲が限定されたSNSへの投稿について、それ以外の人に情報が伝えられる可能性があることを理由に社会的評価の低下を認めた裁判例もあります(東京地裁平成27年2月17日判決)。
違法性が否定されないこと
ある表現が、特定の人の社会的な評価を低下させるものであった場合、原則として違法ですが、名誉権と同様に重要な憲法上の権利である表現の自由や知る権利(憲法21条1項)との調整から、違法性が否定される場合があります。
(1)事実の摘示か、意見論評か
名誉毀損の類型には、事実の摘示によるものと、意見や論評によるものがあり、いずれの類型に該当するかにより違法性を否定する要件が異なります。
(2)事実の摘示による名誉毀損の場合に違法性を否定する事由
事実の摘示による名誉毀損の場合、以下の3つの要件を満たした場合には違法性が否定され、名誉毀損は不成立となります。
- 名誉毀損の行為が公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
- 専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
- 摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)または③’加害者においてその事実が真実であると信ずるに足りるについて相当の理由があること(真実相当性)
「① 公共性」については、裁判例上、政治家等の公的な職業についている人についてだけでなく、宗教団体や有名企業の幹部など社会的な影響力を及ぼす地位にいる者についても比較的広めに認められており、「① 公共性」が認められた場合には、原則として「② 公益目的」についても認められています。
「③ 真実性」および「③’ 真実相当性」について、裁判の場においては、当該表現の重要な部分について真実であることまたは真実であると信ずるに足りる相当の理由があることを加害者側で立証しなくてはなりません。「③ 真実性」は、裁判時に証明できれば足りるのに対して、「③’ 真実相当性」については、表現行為を行った時点で、確実な資料・根拠に照らして相当な理由があったことを証明しなければなりません。
(3)意見・論評による名誉毀損の場合
意見・論評による名誉毀損の場合、以下の4つの要件を満たした場合に、違法性が否定されます。
- 意見・論評が公共の利害に関する事項に係ること(公共性)
- 意見・論評の目的が専ら公益を図るものであること(公益目的)
- その前提としている事実が重要な部分において真実あることの証明がある(真実性)か、または、③’ 真実と信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)
- 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
①~③の要件に関する考え方は、事実の摘示による名誉毀損の場合と共通または類似していますが、④については、表現方法の執拗性、表現の内容、被害者側の属性や挑発行為等の事情を加味して判断されます。
他の権利侵害との関係
名誉毀損と同様に、他人の表現による被害が問題となることが多い案件として、プライバシー権の侵害があげられます。プライバシー権も、名誉権と同様に法律上保護される利益の一つであり、侵害された場合には、名誉毀損の場合と同様に損害賠償の請求等が認められ、裁判においてもしばしば並列して主張されます。
一方で、プライバシー権侵害については、真実性の立証がなされても違法性が阻却されない(むしろ真実である場合の方がプライバシー権侵害の程度が大きい場合がある)等の違いもあります。
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『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版』
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