問題となることが多い、名誉毀損のパターン
IT・情報セキュリティインターネットによる事実や情報の発信について名誉毀損が成立する事例が増えていると聞いています。インターネットを利用するにあたって、うっかり名誉毀損に該当することのないよう、近時問題となることの多い名誉毀損の類型について教えてください。
法人の構成員に対する名誉毀損行為が行われた場合の法人に対する名誉毀損の成否、なりすましによる名誉毀損の成否、犯罪事実の摘示による名誉毀損の成否などが、しばしば問題となっています。
解説
目次
はじめに
「名誉毀損とは 成立要件や損害賠償、不法行為による慰謝料の仕組み」では、名誉毀損の一般的要件について解説しました。
本稿では、近時問題となることの多い名誉毀損の各類型について説明します。なお、本稿において、「名誉毀損」とは、特段の断りのない限り民事法上の名誉毀損を指すものとします。
具体的な類型
名誉毀損の対象者(法人の構成員に対する名誉毀損行為)
法人と個人とは、原則として、異なる法主体として取り扱われます。そのため、ある法人の構成員に対して名誉毀損行為がなされたとしても、そのことをもって当然に当該法人に対しても名誉毀損が成立するということにはなりません。ある会社の代表取締役に対する名誉毀損行為につき、所属会社自体に対する名誉毀損の成立を否定した事例があります(大阪地裁平成29年11月27日判決)。
もっとも、名誉毀損の客体が法人の構成員であり、当該構成員が所属法人における絶対的な存在として認知されている場合等、当該構成員と当該法人との結びつきが極めて強く、当該構成員に対する名誉毀損行為を当該法人に対する名誉毀損行為と同視できる場合には、当該法人に対する名誉毀損が成立する場合があると考えられます(東京高裁平成26年3月19日判決)。
なりすましによる名誉毀損
ある者が他人を装って、当該他人または第三者の社会的評価を低下させるような表現行為についても、名誉毀損が成立します(本稿では、このような名誉毀損の類型を「なりすましによる名誉毀損」といいます)。とりわけ、インターネット上の掲示板やSNS等においては他人になりすますことが比較的容易であることから、この「なりすましによる名誉毀損」がしばしば問題となります。最近も、インターネット上において他人になりすましてなされた、第三者を侮辱・罵倒する内容の表現につき、当該他人の社会的評価を低下させるものとして表現者に対する名誉毀損の成立を認めた裁判例があります(大阪地裁平成29年8月30日判決・判時2364号58頁)。
「なりすましによる名誉毀損」は、特定の者に対する誹謗・中傷行為でなくとも名誉毀損が成立し得る点に注意が必要です。たとえば、実名または匿名の者が人種差別的な表現行為や性差別的な表現行為を行ったとしても、(当該表現行為が特定の者を対象とするものでない限り)当該表現行為について名誉毀損は成立しませんが、実在する他人になりすまして同様の行為に及んだ場合には、当該他人の社会的評価を低下させるものとして、名誉毀損が成立する場合があると考えられます。
犯罪事実の摘示による名誉毀損
対象者が犯罪行為に及んだ旨の事実を摘示する行為は、類型的に、当該対象者の社会的評価の低下を招くものであると考えられています(最高裁平成24年3月23日判決・集民240号149頁)。
もっとも、刑法において公訴提起前の犯罪行為に関する事実を「公共の利害に関する事実」(刑法230条の2第1項)とみなす旨の規定(同条2項)があるのと同様、民事法上も、公訴提起前の犯罪行為については公共性が認められやすい傾向にあります。また、有罪判決が確定した犯罪行為についても、当該有罪判決からさほど時間が経過していないものについては公共性が認められやすい傾向にありますが、一方で、当該有罪判決から相当期間が経過したものについては、プライバシー権や「更生を妨げられない利益」(最高裁平成6年2月8日判決・民集48巻2号149頁)の侵害の観点から違法と評価される可能性があります。
犯罪以外の非違行為に関する事実の摘示による名誉毀損
対象者が非違行為に及んだ旨の事実を摘示した場合、当該非違行為が犯罪行為に該当しない場合であっても、対象者の社会的評価を低下させるものとして、名誉毀損が成立する場合があり、注意が必要です。
裁判例においても、以下に掲げるハラスメントや不倫等に関与した旨の事実を摘示した表現について、社会的評価の低下を認めています。
- 不倫(東京地裁平成28年10月17日判決)
- セクシャルハラスメント(東京地裁平成24年6月12日判決・判時 2165号99頁)
- パワーハラスメント(東京地裁平成29年9月15日判決)
- モラルハラスメント(東京地裁平成28年8月25日判決)
解雇事実の公表による名誉毀損
企業が、ある役員または従業員が行った非違行為を理由として当該役員または従業員を解雇した事実を社内で公開する場合があり得ます。このような解雇事実の公表も、場合によっては名誉毀損に該当します。
当該役員または従業員を解雇した事実のみを単純に公開しただけでは必ずしも対象者の社会的評価を低下させるものであるとは認められない場合があるものの、当該解雇が懲戒解雇であることを明示した場合や、解雇の理由となる具体的事実をあわせて公開した場合には、対象者の社会的評価を低下させる事実の摘示であると判断される可能性が高いため、公表は会社の事務に必要な範囲にとどめておくことが望まれます。
噂による名誉毀損
ある対象者について、確定的な事実として「○○(対象者)について▲▲という噂がある。」「○○(対象者)が▲▲したらしい。」といった、「噂」レベルの情報を摘示することについても、名誉毀損が成立し得ます。この場合の「噂」については、「噂」をされているという事実ではなく、その噂の内容を構成する事実(上記でいうところの「▲▲」部分)を対象として、当該事実の摘示により社会的評価が低下したか否か、および公共性・公益性や真実性を有するかが判断される場合があります(最高裁昭和43年1月18日判決・刑集22巻1号7頁)。
したがって、「噂」だからといって、安易にその「噂」を流布すると当該流布行為について名誉毀損行為が成立してしまうリスクがありますので、要注意です。
新聞やメディア等による名誉毀損
一部の新聞やメディア等においては、一般読者の関心を引くため、過度に誇張された表現が用いられたり、面白おかしく冗談を交えて記載したりすることもあるため、媒体自体の信頼性が低く、当該媒体の記載を閲読した一般読者が当該記載を信用しないなどとして、そのような記載による社会的評価の低下の有無が争われることがあります。
この点について、興味本位の内容の記事を掲載することを編集方針とする新聞に掲載された表現であっても、当該新聞が報道媒体としての性格を有している以上は「記事に幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常であ」るとして、主な読者層の構成およびこれらに基づく当該新聞の性質についての社会の一般的な評価は、名誉毀損の成否を左右するものではない旨を判断した判例があります(最高裁平成9年5月27日判決・民集51巻5号2009頁)。
インターネット上の名誉毀損と「相当の理由」
インターネット上の表現については、これが一般読者にとって信頼性の低い情報であると捉えられる場合が少なくないものの、個人利用者によるインターネット上の表現であるということのみを理由に、一般読者が当該表現中に示された情報を信頼性の低い情報として受け取るとは限りません。最高裁も、インターネット上の表現について当該表現行為の違法性が阻却されるのは、インターネット以外の表現手段を利用する場合と同様、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、個人利用者によるインターネット上の表現についてのみ緩やかな要件を用いるべきではない旨を判示しています(最高裁平成22年3月15日決定・刑集64巻2号1頁)。
インターネット上の情報を流布する際には、安易にその情報を信用するのではなく、その信用性を他の情報等と合わせて吟味することが望まれます。
訴訟活動による名誉毀損
訴状および準備書面の提出等の訴訟活動に伴って対象者の社会的評価を低下させる表現が用いられたとしても、原則として、違法性が阻却され、名誉毀損が成立しません。これは、当該活動が、訴訟の過程における当事者の暫定的あるいは主観的な主張立証活動の一環に過ぎず、許容限度を超えるものについては裁判所による是正の機会が与えられ、反論の機会が制度上保障されていること等によります(東京地裁平成20年12月5日判決)。
もっとも、当事者において故意に、かつ、専ら他人を中傷誹謗する目的のもとに、著しく適切さを欠く非常識な表現により主張したなどの特段の事情がある場合には、訴訟活動の一環といえども違法性が阻却されず、訴状等における事実の摘示について名誉毀損が成立する場合があります(東京地裁平成22年7月20日判決(結論として名誉毀損の成立を肯定))。
また、当事者が訴訟を提起する旨または訴訟を提起した旨を述べるために記者会見を開くことがありますが、そのような会見については、訴状および準備書面の提出等の訴訟活動と異なり、訴訟活動に必要不可欠のものとはいえないため、当該訴訟活動による場合に比して、違法性が阻却される場合は限定されるといえます。
発売元の責任
名誉毀損に該当する表現を記載した書籍等を発売する発売元は、書籍等の内容、定価、発行日および販売部数等の決定について裁量を有しておらず、出版社から、販売業務の委託を受けて販売業務に関与するだけであるため、原則として、このような発売元の販売行為について、名誉毀損は成立しません(大阪地裁平成7年12月19日判決・判時 1583号98頁参照)。
もっとも、書籍の内容が一見して明らかに対象者の名誉を毀損するものであるときや、発売元が何らかの事情から当該書籍が対象者の名誉を毀損するものであることを認識していたときは、発売元についても名誉毀損に関する共同不法行為責任が成立する場合があります(東京地裁平成13年12月25日判決・判時 1792号79頁等)。

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