データ利用契約の類型について
IT・情報セキュリティデータ利用契約について色々な類型があると聞きました。データ利用契約の類型について教えて下さい。
データ利用契約には、①データ提供型契約、②データ創出型契約、③データ共用型(プラットフォーム型)契約の3つの類型があり、データ提供の法的性質には、(1) データの利用許諾、(2) データの譲渡、(3) データの相互利用許諾と3つの類型があります。
解説
目次
はじめに
「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が、2018年6月15日に経済産業省から公表されました(以下「経産省ガイドライン」といいます)。
経産省ガイドラインでは、データの法的性質、データの不正利用を防ぐ手段、データ契約の類型、各契約類型の法的論点を幅広く記載していますが、データ編だけでも180頁ほどあり、非常に長いので、本稿ではガイドラインの中から、データ利用契約の類型に関する部分を抽出して説明します。
下記のようにデータ利用契約には、①データ提供型契約、②データ創出型契約、③データ共用型(プラットフォーム型)契約の3つの類型があります。
そして、データ提供の法的性質には、(1)データの利用許諾、(2)データの譲渡、(3)データの相互利用許諾と3つの類型があります。
以下、それぞれの類型および法的性質について説明をします。
データ利用契約の類型
経産省ガイドラインでは、データ利用契約を以下の3つの類型に整理しています。
- データ提供型契約
- データ創出型契約
- データ共用型(プラットフォーム型)契約
データ提供型契約とは
データ提供型契約とは、取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが「保持」しているという事実状態について契約当事者間で争いがない場合において、データ提供者から他方当事者に対して当該データを提供する際に、当該データに関する他方当事者の利用権限その他データ提供条件等を取り決めるための契約を言います(経産省ガイドラインより)。
ただし、データに対する所有権、占有権が観念できない以上、ここでいう「保持」とは、データに対して適法にアクセスできる事実状態のことを意味している点には注意が必要です。
データ創出型契約とは
データ創出型契約とは、複数当事者が関与することにより、従前電磁的に存在しなかったデータが新たに創出されるという場面において、データの創出に関与した当事者間で、データの利用権限について取り決めるための契約を言います(経産省ガイドラインより)。
データ提供型契約との違いは、以下の通りです。
項目 | データ提供型契約 | データ創出型契約 |
---|---|---|
契約締結時の提供データの存在 | すでに存在している | 存在していない |
提供データに対する契約締結時 の事実上のアクセス可能性 |
データ提供者のみにある | データが創出されていないので 問題にならない |
データ共用型(プラットフォーム型)契約とは
データ共用型(プラットフォーム型)契約とは、異なる企業グループに属する複数の事業者がデータをプラットフォームに提供し、プラットフォームが当該データを集約・保管、加工または分析し、複数の事業者がプラットフォームを通じて当該データを共用または活用するための契約を言います(経産省ガイドラインより)。
データ提供の法的性質
データ提供の法的性質には、以下の3つの類型があると考えられます。
データの利用許諾
データの利用許諾とは、データ提供者が「保持」するデータについて、データ受領者に利用権限を与えつつ、データ提供者も当該データについての利用権限を失わない類型のことを意味します。
ここでいう「保持」とは、データに対して適法にアクセスできる事実状態のことを意味していることは上記のとおりです。
データの利用許諾には、契約の相手方であるデータ受領者のみにそのデータの利用権限を与える独占的利用許諾と、契約の相手方以外にもそのデータの利用権限を与えることを許容する非独占的利用許諾がありますので、契約を締結する際には、そのどちらの契約であるのかを明らかにしておくことが重要です。
データの譲渡
次に、データの譲渡とは、データ提供者が「保持」するデータについて、データの利用をコントロールできる地位を含む当該データに関する一切の権限を譲受人に与え、データ提供者は当該データに関する一切の権限を有さない類型のことを意味します。
一般的に「譲渡」というと、所有権などの権利の移転を言いますが、データは民法上の所有権等の対象にはならないため、データの所有権等の権利を移転させる意味での「譲渡」ではない点に注意が必要です。
データの利用許諾において、データ提供者がデータ受領者に対してデータの利用権限を与え、データ提供者が当該データについての一切の利用権限を有さないという合意をすることも可能であり、そのような場合をデータの利用許諾の類型の中に含めて理解する考え方もあります。
しかし、このパターンはデータの「譲渡」として整理したほうが理解しやすいと思われますので、あえて「譲渡」と整理しています。
データの共同利用(相互利用許諾)
最後に、データの共同利用(相互利用許諾)とは、契約当事者が二者(甲と乙)の場合であれば、甲が「保持」するデータについて契約によってその利用権限の全部または一部を乙に与え、他方、乙が「保持」するデータについて契約によってその利用権限の全部または一部を甲に与える類型のことを意味します。
データの共同利用(相互利用許諾)は、契約当事者が三者以上になることもありますが、三者以上になったとしても同様です。
このデータの共同利用(相互利用許諾)の類型では、甲・乙のそれぞれが「保持」するデータについて、相手方に利用権限を与える契約ですので、甲乙それぞれにおいて、自分が「保持」するデータと、相手方から利用権限を与えられたデータの双方を有することになりますので、甲乙それぞれのデータのコンタミネーションが生じる可能性が高まります。
したがって、データの共同利用(相互利用許諾)においては、データの分別管理を規定したり、データにアクセスできる従業員を限定したりすること等を通じて、秘密保持義務の内容をより厳しくしておくことがお勧めです。
まとめ
以上より、データ利用契約には、①データ提供型契約、②データ創出型契約、③データ共用型(プラットフォーム型)契約の3つの類型があり、そして、データ提供の法的性質には、(1)データの利用許諾、(2)データの譲渡、(3)データの相互利用許諾と3つの類型があります。
それぞれの契約類型において、どの利用許諾、譲渡、相互利用許諾のいずれの類型でデータを提供するのかを検討し、当該ケースにおいて最善の組み合わせを選ぶことが重要です。

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