審決等を取り消す判決の効力

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 審決等取消訴訟において、審決等を取り消す判決が確定した場合の効力について教えてください。

 審決等を取り消す判決がなされ、確定すると、その効力は第三者にも及び、特許庁は、審判等の審理を再開し、改めて審決をすることになります。その場合において、特許庁は、判決に示された判断に拘束され、その趣旨に従って審決をしなければなりません。

解説

目次

  1. 取消判決とは
  2. 既判力とその範囲
  3. 拘束力とその範囲
  4. 請求棄却判決の場合

取消判決とは

 特許制度における審決等取消訴訟とは、審決取消訴訟と決定取消訴訟の総称です。その概要については、「特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質」を参照ください。

 裁判所は、審決等取消訴訟が提起された場合において、請求に理由があると認めたときは、特許庁の審決等を取り消す判決をします(特許法181条1項)。審決等を取り消す判決は、一般に取消判決と呼ばれます。

既判力とその範囲

 審決等を取り消す判決が確定すると、既判力が生じ、その判断内容を争うことはできなくなります。民事訴訟における既判力は当事者に生じますが、行政事件訴訟法の適用を受ける審決等取消訴訟の場合、その効力は第三者にも及びます(行政事件訴訟法32条1項)。

 行政事件訴訟法32条1項は抗告訴訟に固有の規定ですので、当事者系審判である特許無効審判や延長登録無効審判に適用があるかは、これらの審判の法的性質との関係で議論があり得るところですが、最高裁平成14年2月22日判決・民集56巻2号348頁は、商標登録無効審決の取消判決に関するものながら、理由中で上記規定の適用を前提とした説示をしています(当事者系審判の法的性質に関する詳細は、「特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質」を参照ください。)。

拘束力とその範囲

 取消の判決が確定すると、特許庁は、判決の認定に拘束され(行政事件訴訟法33条1項)、審判を再開してさらに審理し、審決をすることとなります(特許法181条2項)。審決等が取り消されたことにより、審判請求や異議申立てに対する特許庁の応答がなくなるため、特許庁は、改めて審理し、審決等をしなければならなくなるのです。

 取消判決の拘束力がどの範囲で特許庁を拘束するか、具体的には、判決を覆す新たな証拠が提出された場合に、特許庁が再度取り消された審決と同じ認定判断をすることが許されるか、という問題については争いがありました。この点について、最高裁平成4年4月28日判決・民集46巻4号245頁・「高速旋回式バレル研磨法」事件は、「(取消判決)の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない」と判示し、新規の証拠によって取消判決を覆すことができないことを明らかにしました。

請求棄却判決の場合

 審決等取消訴訟において、請求に理由があると認められないときは、裁判所は、請求を棄却する判決をします。請求棄却の判決が確定したときは、特許庁の審決も確定することとなります。

審決等取消訴訟の判決 確定判決の効果
取消判決 請求に理由があると認めたとき 特許庁は、判決の認定に拘束され、審判を再開してさらに審理し、審決をする
請求棄却判決 請求に理由があると認められないとき 特許庁の審決が確定する
「特許法上の審決等取消訴訟」に関する参考記事:
  1. 特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質
  2. 審決等取消訴訟の提起と訴訟要件
  3. 審決等取消訴訟の審理
  4. 審決等を取り消す判決の効力(当記事)

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