特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質

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 審決等取消訴訟について教えてください。

 審決等取消訴訟とは、審決取消訴訟と決定取消訴訟の総称で、特許庁における特許異議申立てや審判の結果に対する不服申立手続です。当事者系審判の審決取消訴訟に関しては、行政事件訴訟法上の法的性質について争いがありましたが、現在では、少なくともその実質において抗告訴訟としての性質を有するものと解されています。

解説

目次

  1. 審決等取消訴訟とは
  2. 審決等取消訴訟の対象とならない事項
  3. 審決等取消訴訟の法的性質

審決等取消訴訟とは

 特許制度における審決等取消訴訟とは、審決取消訴訟と決定取消訴訟の総称です。これらの訴訟のうち、審決取消訴訟とは、特許審判における審決について不服を申し立てる訴訟のことをいいます。もう一つの決定取消訴訟とは、特許異議申立てにおける取消決定に対する訴訟のほか、異議申立書、審判請求書、再審請求書または訂正請求書の却下の決定に対する訴訟のことをいいます。

審判制度の概要と運用の図

出典:特許庁審判部「審判制度の概要と運用」(平成30年度)

審決等取消訴訟の対象とならない事項

 特許異議申立てにおいて特許を維持する決定がなされたときや、拒絶査定不服審判や訂正審判で請求が認められたときは、これに対する不服申立てをすることはできません。特許権者は、自らの請求が認められた以上不服申立ての必要はなく、また、特許異議の申立人や第三者には、別途特許無効審判という方法が用意されているからです。  

審決等取消訴訟の法的性質

 審決等取消訴訟は、行政庁である特許庁の審決や決定を取り消すことを目的とする訴訟であるため、民事訴訟法ではなく、行政事件訴訟法の規律を受けます。また、特許法にも固有の規定が置かれています。

 行政事件訴訟法の適用にあたり、適用法条を特定するためには、同法に規定されたどの訴訟類型にあたるかが問題となります。

 この点、特許異議申立てにおける取消決定、拒絶査定不服審判や訂正審判といった査定系審判(原則として、特許庁と特許権者との間で手続が進められる)の審決に対する取消訴訟が抗告訴訟(行政事件訴訟法3条)に該当することには争いがありません。

 しかし、特許無効審判や延長登録無効審判といった当事者系審判(審判請求人と被請求人(特許権者)との間で手続が進められる)の審決に対する取消訴訟は、①私人が対立当事者となるため、当事者訴訟(同法4条)であると考える通説と、②抗告訴訟(同法3条)であると考える説とが対立していました。

 もっとも、現在では、形式的には当事者訴訟であるとしても、その実質は抗告訴訟であるという考え方が有力になっており、最高裁判所も、商標登録無効審決の取消判決に関するものながら、抗告訴訟に固有の規定である行政事件訴訟法32条1項が適用されることを前提とした判断を示しています最高裁平成14年2月22日判決・民集56巻2号348頁)。

「特許法上の審決等取消訴訟」に関する参考記事:
  1. 特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質(当記事)
  2. 審決等取消訴訟の提起と訴訟要件
  3. 審決等取消訴訟の審理
  4. 審決等を取り消す判決の効力

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