特許権の譲渡に関する留意点(特許権譲渡契約)

知的財産権・エンタメ

 当社は新製品の開発のために有益と思われる特許権を第三者から譲り受けることを検討していますが、特許権を譲り受けるにあたって、どのような点に注意し、どのような契約書を作成するとよいでしょうか。また、権利化されていない発明に関する、特許を受ける権利を譲り受ける場合の注意点を教えてください。

 特許権および特許を受ける権利は、いずれも譲渡することができます。しかし、これらは目に見える物とは異なり、ある発明を独占的に実施することができる権利、およびかかる独占権を取得することができる権利であることから、特許庁や譲渡人等から必要な情報を収集して、譲渡対象である特許権や特許を受ける権利の存在、内容等を調査し、判明した事実やリスクに即した契約書を作成することが必要です。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 譲渡対象特許権についての調査・確認
    1. 特許権に関する情報収集
    2. 特許異議・無効審判の確認
    3. 専用実施権・通常実施権の確認
    4. 登録原簿の確認
  3. 譲渡対象特許権の譲渡手続き
  4. 特許権譲渡契約書
    1. 移転登録手続きに対する譲渡人の協力義務
    2. 譲渡対象特許権に関する表明・保証
    3. 譲渡対象特許権を実施するための技術指導等
  5. 特許を受ける権利を譲り受ける場合
  6. 最後に

はじめに

 製品開発にあたり第三者が保有する特許権を活用する方法には、第三者から当該特許権について専用実施権や通常実施権の許諾を受ける方法の他に(特許権の実施許諾を受ける場合の留意点は「特許ライセンス契約の留意点」を参考にしてください)、当該特許権を第三者から譲り受ける方法があります。

 しかし、自ら発明して権利化した特許発明とは異なり、第三者の特許発明は、それに関する情報が手元にはないことから、譲り受けにあたっては慎重に検討する必要があります。以下、特許権譲渡契約を締結する前に調査・確認すべき事項、特許権の譲渡手続き、特許権譲渡契約書に規定すべき事項に分けて説明していきます。

譲渡対象特許権についての調査・確認

特許権に関する情報収集

 まず、特許権そのものに関する情報を収集することが必要です。たとえば以下の点を、登録原簿等の関係書類を取り寄せたり、権利者からヒアリングしたりして調査することが必要です。  

  • 特許権者が誰か
    (譲渡人が対象特許権を保有しているのか、すでに第三者に譲渡されていないか等の確認)
  • 共有者がいるのか
    (共有されている特許権全部を取得する場合には、その共有者も特許権譲渡契約の当事者に加える必要がありますし、持分のみの譲受けの場合であれば、その共有者の同意を取得するが必要です(特許法73条1項))
  • 譲渡対象特許権の存続期間が何年か
    (譲渡価格の決定に大きく影響することになります)
  • 年金は継続して支払われているのか
    (年金が未払いであれば権利消滅のリスクがあります)

特許異議・無効審判の確認

 また、対象特許について、第三者から特許異議(特許法113条)が申し立てられていたり、無効審判(特許法123条)が請求されていたりしないかについても確認することが必要です。これらの申立て等がなされている場合には、特に慎重に、特許が取り消されていないか、あるいは無効になるリスクがないか、対象特許の内容を精査することになります。  

専用実施権・通常実施権の確認

 さらに、譲渡対象特許権に設定されている専用実施権や通常実施権が存在するのか否かについての確認も必須です。専用実施権は登録が効力発生要件ですので(特許法98条1項2号)、登録原簿を調査すれば明らかになります。

 他方、通常実施権は登録が効力発生要件ではないことから、特許権者からのヒアリングや通常実施権の設定契約のレビューをして確認することが必要です。なお、特許権が譲渡された場合であっても、通常実施権者は特許権の譲受人に対抗することができる(特許法99条)とされているため、通常実施権の存在を知らずに特許権を譲り受けた場合には、予期せず、自分以外の第三者が譲渡対象特許権を実施できる状況が発生してしまいますので、注意が必要です。

登録原簿の確認

 最後に、譲渡対象特許権に質権(特許法95条、特許法98条1項3号)や譲渡担保権が設定されている場合も考えられますので、やはり登録原簿を確認することが不可欠です。

譲渡対象特許権の譲渡手続き

 特許権の譲渡は、その移転登録が効力発生要件となっています(特許法98条1項1号)。また、上記のとおり、共有されている特許権の一部を譲り受ける場合は、共有者の同意が必要になりますし(特許法73条1項)、共有特許権の全部を譲り受ける場合にはその共有者も含めて特許権譲渡契約の当事者として契約し、移転登録手続きを行うことが必要です。

 なお、譲渡対象特許権に専用実施権や通常実施権が設定されている場合であっても、特許権者は、専用実施権者や通常実施権者の同意を得ることなく譲渡することが可能です。

特許権譲渡契約書

 譲渡対象特許権についての調査・確認ができれば、譲渡契約を準備することになります。特許権の譲渡のために必要な基本的な事項(契約当事者、譲渡対象特許権の特定、譲渡する旨、譲渡期日、価格、支払期日等)を規定することはもちろんですが、以下のような規定を特許権譲渡契約に設けることが有益です。

移転登録手続きに対する譲渡人の協力義務

 上記のとおり、特許権の譲渡はその移転登録が効力発生要件です(特許法98条1項1号)。特許権の移転登録手続きは、特許庁に対して、譲渡証書を添付書類として添付した移転登録申請書を提出して行います。

 その移転登録申請書や譲渡証書には、原則として、特許権の譲渡人と譲受人の両者が記名・押印することが必要となりますので、譲渡人の協力が必要になります(単独申請の場合であっても、譲渡人に単独申請承諾書を作成してもらう必要があります)。それゆえ、それらの作成にあたって譲渡人が協力する旨を記載しておく必要があります。

譲渡対象特許権に関する表明・保証

 譲渡対象特許権の調査・確認の結果によって異なりますが、たとえば、共有者が存在しないこと、譲渡対象特許権に専用実施権や通常実施権が設定されていないこと、質権や譲渡担保権が設定されていないこと等、譲渡対象特許権に関して得られた情報に間違いがないことについて譲渡人に表明し、保証してもらうことが考えられます。

 また、特許権譲渡契約では、対象特許を無効にすべき無効審判や取消決定が確定した場合に譲渡人が瑕疵担保責任を負わない旨の規定を設けることが一般的です。その場合には、譲受人は、対象特許の無効や取消しを理由とした契約解除や損害賠償請求ができないことになるため、少なくとも、第三者から対象特許について特許異議が申し立てられておらず、無効審判が請求されていないこと、および、それらを前提としたクレームを受けておらず、協議・交渉が行われていないこと等を表明し、保証してもらうことが考えられます。

 さらに、対象特許が職務発明に基づくものである場合には、譲渡人の有効な職務発明規定に基づき支払われるべき報奨金がすべて支払済みであることについて表明し、保証してもらうことが有益です。

譲渡対象特許権を実施するための技術指導等

 譲渡対象特許権を譲り受けたとして、それを実施するためのノウハウが必要となる場合には、譲渡対象特許権の譲渡後一定期間、譲渡人が譲受人に対して技術指導等することを定める規定を設けることが考えられます。

特許を受ける権利を譲り受ける場合

 上述のとおり、特許を受ける権利も譲渡することができますが、その特許を受ける権利が出願前のものか、出願後のものかによって必要な手続きが異なります。出願後の特許を受ける権利の譲渡であれば特許庁長官への届出が効力発生要件(特許法34条4項)となります。他方、出願前の特許を受ける権利を譲渡する場合には、譲受人が対象特許の出願をすることが第三者に対する対抗要件とされています(特許法34条1項)。

 また、特許を受ける権利に関する譲渡契約の場合には、権利化されなかった場合であっても支払済みの対価を返金しない旨の規定が設けられることが通例であることに留意するとともに、譲渡人の出願手続きに対する協力義務を定めることが必要です。

最後に

 上記のように、特許権等を確実に譲り受けて、譲受人が負担するリスクを最小限にするためには、譲渡対象となる特許権や特許を受ける権利について慎重に調査・確認し、それに応じた各種規定を特許権譲渡契約に設けることが必要です。

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