無期転換制度と有期雇用との条件比較
人事労務 職場には、同じ業務を行っている有期雇用の従業員が複数名います。そのうち、一部については、もうすぐ無期転換制度に基づいて無期転換する予定で、この従業員については、無期転換後も引き続きまったく同じ仕事を行ってもらうことを考えています。
このような場合、無期転換する従業員については、同じ業務を行う有期雇用の従業員と同じ労働条件のまま(ただし、契約期間の定めの有無は除く)でよいのでしょうか。それとも、両者の労働条件に差異を設けなければならないのでしょうか。
必ずしも、労働条件に差異を設ける必要はありません。ただし、当該従業員と「別段の定め」を行うことで、差異を設けることはできます。
解説
無期転換後の労働条件
労働契約法18条1項は、無期転換後の労働条件について、
と定めています。
すなわち、無期転換制度においては、従業員が無期転換申込権を行使することで、労働契約の期間の定めをなくすという効果が生じますが、労働契約の期間以外の点については、ただちに変更がなされるものではなく、直前の有期労働契約における労働条件がそのまま引き継がれることになります。
よって、会社として、無期転換する従業員について、同じ業務を行う有期雇用の従業員と同じ労働条件のままで良いというのであれば、当該従業員との間で「別段の定め」を行う必要はありません。
他方、無期転換後に労働条件を変える必要がある場合には注意を要します。たとえば、有期労働契約の更新時に、所定労働日や始業終業時刻等の労働条件を定期的に変更していたような場合、「別段の定め」をしないかぎり、直前の有期労働契約における労働条件がそのまま継続してしまう(過去に行っていたような定期的な変更ができなくなってしまう)ことにもなります。このような場合、従前通り定期的に労働条件を変更したいのであれば、「別段の定め」を行いましょう。
別段の定めとは
ここでいう「別段の定め」については、労働協約、就業規則および個々の労働契約(無期労働契約への転換にあたり、従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)を指すものとされています。
このうち、個々の労働契約にて「別段の定め」を置く場合には、当該従業員の真意に基づく合意がなされるよう、会社として十分説明を尽くす等の対応が必要となります。
別段の定めを設けるについて注意すべきこと
「別段の定め」にて設けることのできる労働条件については、制限がないわけではありません。平成24年8月10日付の厚生労働省の通達である「労働契約法の施行について」
(基発0810第2号)によれば、
- 無期労働契約への転換にあたり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないこと。
- 就業規則により別段の定めをする場合においては、労働契約法18条の規定が、労働契約法7条から10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではないこと。
とされています。
したがって、就業規則にて「別段の定め」を設け、直前の有期労働契約における労働条件と比べて不利益な労働条件を設ける場合には、労働契約法の定めに違反しないよう注意を払いましょう。
すなわち、この場合、以下の考え方があり得るところです。
- 無期転換後の無期労働契約は、直前の有期労働契約とは別の新たな契約である等として、労働契約法7条が適用されるという考え方
- 実質的に見て、契約は継続している等として、労働契約法10条が適用される(ないし類推適用される)という考え方
いずれの場合も、当該就業規則の「合理性」が問題となるところ、一般的には、労働契約法7条の「合理性」の方が労働契約法10条の「合理性」よりも緩やかに判断される(「合理性」が認められやすい)ことになっています。

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