移籍出向の場合、海外駐在中の日本の社会保険上の取り扱いはどのようになるか

人事労務

 当社の社員を、当社から出向する形で、海外駐在させることにしました。当社との雇用契約はいったん終了し、現地法人と雇用契約を締結する予定です。その場合、駐在中、日本の社会保険(厚生年金・健康保険等)上の取り扱いはどのようになるのでしょうか。

 移籍出向の場合、社会保険資格は当然に喪失することとなります。このため、健康保険については、扶養家族が日本国内に残る場合には国民健康保険への加入または健康保険の任意継続を検討する必要があります。他方、年金については、海外駐在中も合算対象となるため受給資格に影響はありませんが、受給額を増やすために国民年金への任意加入か社会保障協定発行済国での年金制度への加入という方法が考えられます。

解説

目次

  1. 移籍出向時の社会保険資格
  2. 社会保険資格喪失後の健康保険
    1. 国民健康保険への加入
    2. 移籍出向者による健康保険の任意継続
  3. 社会保険資格喪失後の年金
    1. 国民年金への任意加入
    2. 社会保障協定発行済国での年金制度への加入
  4. 帰任後の取扱い

移籍出向時の社会保険資格

 社員を出向により海外駐在させる場合、①出向元企業の従業員としての地位を保持したままで出向先企業の指揮命令に服することとなる「在籍出向か、②出向元企業との労働契約関係を終了させて、新たに出向先企業との間に労働契約を成立させる「移籍出向(転籍)のいずれかの形式を採ることとなります。

 このうち、「移籍出向(転籍)」を行う場合には、日本での出向元企業を退職する扱いとなることから、社会保険資格は当然に喪失することとなります。

移籍出向時の社会保険資格の図

社会保険資格喪失後の健康保険

 移籍出向により社会保険資格を喪失したとしても、当該従業員のみならず扶養家族も海外に同行する場合は、現地の健康保険制度の利用や民間の駐在・赴任保険への加入により、大きな支障はないものと考えられます。なお、出向期間が1年未満である場合には、海外転出届を出さずに国民健康保険に加入することで、海外療養費制度の利用により海外で支払った医療費の一部の払い戻しを受けることも可能です(国民健康保険法54条)。

 もっとも、扶養家族が日本国内に残る単身赴任の場合には、扶養家族の健康保険について、以下のいずれかの対応を検討する必要があります。

国民健康保険への加入

 移籍出向により従業員が健康保険の被保険者資格を喪失した場合、日本国内に残る扶養家族は、国民健康保険に加入することとなります

 移籍出向する従業員については、国民健康保険が日本の市区町村内に住所を有する者を被保険者としているところ(国民健康保険法5条)、出向期間が1年未満で海外転出届を提出しない場合を除き、被保険者とはなりません。

 国民健康保険料については、各市区町村で異なり、所得割・資産割・均等割(被保険者均等割)・平等割(世帯別平等割)といった項目を合算した金額となります。

移籍出向者による健康保険の任意継続

 移籍出向により健康保険の被保険者資格を喪失した場合でも、①資格喪失日の前日までに「継続して2か月以上の被保険者期間」があること、②資格喪失日から「20日以内」に申請すること(20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)の要件を満たせば、2年間に限り、健康保険の任意継続被保険者となることが可能です。

参照:全国健康保険協会「退職後の健康保険のご案内(任意継続)

 健康保険の任意継続を行う場合の保険料は、「退職時の標準報酬月額(28万円超の場合は28万円)×9.79%~  10.47%」(40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者には、介護保険料率1.65%が加算)となり、原則2年間変わることはありません。なお、保険料の料率は都道府県ごとに異なっていますので、詳しくは以下をご参照ください。

参照:全国健康保険協会「平成30年度保険料額表

社会保険資格喪失後の年金

社会保険資格喪失後の年金

 年金を受給するためには、10年以上の資格期間が必要となります(国民年金法26条等)。この点、移籍出向により厚生年金の被保険者資格を喪失した場合であっても、「日本人であって海外に居住していた期間のうち国民年金に任意加入しなかった期間」(20歳以上60歳未満の期間に限る)については、年金の資格期間の合算対象となります。

 参照:厚生労働省「合算対象期間

 もっとも、年金額は納付期間に応じて決定されることから、受給額を増額するために、以下のような方法を採ることが考えられます。  

国民年金への任意加入

 国民年金の被保険者の要件に「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって…」(国民年金法7条1号)との要件があることから、移籍出向した従業員については国民年金の被保険者ではないものの、任意加入することが可能です(国民年金法附則5条1号)。

 この場合、海外転居前に居住している市区町村の窓口で任意加入手続きを行うこととなります。保険料については、国内にいる親族等の協力者が本人の代わりに納付するか、日本国内に開設している預貯金口座から引き落とすかのいずれかによることとなります。

社会保障協定発行済国での年金制度への加入

 移籍出向先の国において日本との社会保障協定が発効している場合(イギリスと韓国を除く)、日本での年金加入期間が現地の年金制度に加入していた期間とみなして通算されることになります。

 このため、社会保障協定発行済国で年金制度へ加入することにより、年金受給のための資格期間が定められている場合でも、現地での受給資格を得て年金を受給することも可能です。

 なお、社会保障協定の詳細については、「在籍出向の場合、海外駐在中の日本の社会保険上の取り扱いはどのようになるか」をご参照下さい。

帰任後の取扱い

 移籍出向により社会保険資格を喪失した従業員が帰任した場合、再び社会保険の被保険者の資格を得ることから、健康保険および厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出する必要があります。

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