賃金を支払うときに注意すべきポイント
人事労務当社は学生のアルバイトを多く雇用していますが、毎月の給料の支払いは、全員銀行口座振込とし、支払日は毎月第4金曜日としています。労働時間は30分単位で計算しており、遅刻・早退は1分の場合でも30分カットしています。また、未成年の従業員の給料については、親に支払うことにしていますが、何か問題はあるでしょうか。
賃金の支払方法については、労働基準法で定められています。賃金は原則として、①従業員本人に、②現金支給で、③支払期日を特定して、支払わなければなりません。質問の内容では、労働基準法に違反する可能性もあるので注意してください。
また、実際に労働した時間にもかかわらず、端数をカットする事はできませんが、毎日の労働時間を分単位で足し上げ、1か月合計後、合計時間数から30分未満の端数を切り捨てることは可能です。
時間給の場合であっても、時間外労働、休日労働の割増賃金は必要になりますので、この点も注意が必要です。
解説
目次
賃金とは
労働の対価として従業員に支払う金銭には、法律によって様々な名称が付けられています。
労働基準法では「賃金」(労働基準法11条)、所得税法では「所得」(所得税法28条)、健康保険法・厚生年金法では「報酬」(健康保険法3条の5、厚生年金法3条の3)と、それぞれ呼ばれています。
いずれにしても、労働の対価として使用者が労働者に支払うものであって、本質は同じものです。
賃金の支払いに関する原則
労働基準法24条では、賃金の支払いについて以下の5原則が定められています。違反した場合には 30万円以下の罰金 となります(労働基準法120条)。
通貨払いの原則
賃金は通貨で支払うことが原則となっています。通貨とは日本銀行券や貨幣をいいます。このように賃金が現金払いが原則でありむしろ口座振込は例外の取り扱いとなっており、労働者の同意を得て、労働者が指定する銀行等の本人名義の口座へ振り込むことが要件となります。
直接払いの原則
賃金は直接労働者本人に支払わなければなりません。労働者の委任状を受けた任意大輪に支払うことは認められていません。また、労働基準法59条は、未成年者は独立して賃金を請求できるとしており、労働者の親権者や後見人等の法定代理人に対して支払うことはできません。質問では未成年の従業員の賃金を親に支払っていますが、これは法律により禁止されています。
全額払いの原則
賃金はその全額を支払わなければなりません。賃金の一部を控除して支払うことは禁止されています。
ただし、次のような例外があります。
- 法令に別段の定めがある場合
所得税の源泉徴収、住民税、社会保険料、労働保険料などを控除する場合 - 労使協定がある場合
購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内貯金、旅行積立金、組合費等、事理明白なものについてのみ、労使協定が締結されれば、賃金から控除することができます。
さらに、遅刻や早退、欠勤等があった場合に、労働の提供がなかった限度で賃金を支払わないときは、控除ではなく違反とはなりません。質問では遅刻・早退を30分単位でカットしていますが、これは労働の提供がなかった限度を超えて控除しているため、全額払いの原則に反することになります。
毎月1回以上払いの原則
賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。ここでいう「月」とは歴月をいうので、毎月1日から末日までの間に、1回は支払いを行う必要があります。つまり少なくとも毎月締め切り日と支払日を定めることになります。基本給のみならず、諸手当も同様です。
なお、これらの原則は、次の賃金には適用されません。
- 臨時に支払われる賃金(臨時的、突発的なものに限る)
- 賞与(定期または臨時に、原則といて労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないもの)
- 1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
- 1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
- 1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当
毎月1回以上ですので、「毎週日曜締めで月曜日に支払う」という週払いももちろん合法です。
支払日は、当月の労働に対する賃金を当月に支払う必要はなく、不当に長い期間でない限り、締切後ある程度の期間を経てから支払うこと(たとえば、翌月払い)も差し支えないとされています。
一定期日払いの原則
賃金は毎月一定の期日を定めて支払わなければなりません。一定期日とは、期日が特定される必要があるため、「毎月15日から20日までの間」や「毎月第2土曜日」のように変動するような期日の定めは認められず、「毎月15日」とか「毎月末日」というように特定する必要があります。
設例の場合では、「毎月第4金曜日」を給与の支払日としており、これでは月7日の範囲で変動してしまうため、「毎月15日」や「月の末日」などのように特定の期日を定める必要があります。
時間給の場合の割増賃金
時間給計算の場合も、労働基準法が適用されるので、法定時間を超えて労働させる場合には36協定を締結する必要があります(労働基準法36条)。
また、時間給計算の場合も、1日の労働時間が8時間を超えた段階で、125%割り増しにしなければなりません(労働基準法37条)。
こちらについては、「従業員は何時間働かせることができるのか(労働時間に関する法規制)」をご覧ください。
また、毎日学校帰りに3時間程度アルバイトに来るような場合にも、7日連続して勤務した場合には、7日目は休日労働扱いとなり、135%の割り増しになります(一定の就業規則等により変形労働時間などを定めている場合は除きます)。
なお、18歳未満の場合には、時間外、休日、変形労働時間制もとる事ができません。こちらは、中卒者や高校中退者等であっても同じなので注意が必要です。
就業規則の例
賃金の支払方法については、就業規則や労働条件通知書に必ず記載しなければならない事項となっています。下記の就業規則規定例を参考に明文化するようにしましょう。
(賃金の計算期間及び支払日)
第〇〇条 賃金は、毎月〇〇日に締め切って計算し、翌月〇〇日に支払う。ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う。
(賃金の支払と控除)
第〇〇条 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。
2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。
3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
① 源泉所得税
② 住民税
③ 健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
④ 労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居料、財形貯蓄の積立金及び組合費
出典:厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」より一部抜粋
学生アルバイトの労働条件に関する動向
最後に、学生アルバイトに関する最近の動向に触れます。
未成年者であっても、給与支払については同じですが、学生アルバイトの場合には、「口頭での労働条件の提示」、「法定労働時間を超えても、時給を割り増しして支払わない」などの問題があります。
平成27年12月に、「学生アルバイトの労働条件」について、塾や飲食店などに厚生労働省と文部科学省が要請を出したばかりですので、今一度、労働基準法に満たない労働条件でないか確認が必要です。
参考:厚生労働省「学生アルバイトの労働条件の確保について要請しました」
