転勤をしないコースを選択する社員の給与を減額する制度変更は可能か

人事労務

 転勤をしないコースを選択する社員の給与を減額する制度変更は可能でしょうか。また、そのような制度を設ける場合にはどんな留意点があるでしょうか。

 転勤をしないコースを選択する社員の給与を減額する制度変更は可能です。ただし、その選択が、労働者の真に自由な意思によることの担保として、企業側は下記の対応をとる必要があるでしょう。

  1. 制度内容の明示
  2. 不利益変更面における十分な説明の上での同意
  3. 受け皿の制度に関する規定の整備
  4. 限定に伴う合理的な範囲での均衡を考慮した処遇差に留めること

 さらに、厚生労働省は、労働者のワーク・ライフ・バランスの支援等のため、いわゆる無限定正社員から多様な正社員への転換制度を設ける場合、対象者のキャリア形成支援等のため、いわゆる無限定正社員への再転換制度を併せて設けることが望ましい、と指導しています。

解説

目次

  1. 限定正社員制度の普及
  2. 雇用管理上の留意事項への留意点
    1. 労働者に対する限定の内容の明示
    2. 均衡処遇
    3. 転換制度について
  3. 事業所閉鎖や職務の廃止等の場合の対応について

限定正社員制度の普及

 地域限定正社員1への関心やニーズは、新卒段階の学生の間にも広がっていることが、最近報告されています。独立行政法人労働政策研究・研修機構「大学生・大学院生の多様な採用に対するニーズ調査」(平成29年12月26日)によれば、就職活動開始時に地域限定正社員への応募意向がある割合(「是非応募したい」と「(限定のない一般の正社員と)処遇に大きな差がなければ応募したい」の合計)は、学生合計で約72.6%であり、とりわけ女性の文系学生では約85.3%と、応募意向のある割合が相対的に高く、応募意向のある学生の現在の居住地域は、約64.9%が東京・名古屋・大阪の三大都市圏だとされています。
 

 政府は、「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日閣議決定)および「規制改革実施計画」(同閣議決定)において、職務等に着目した多様な正社員モデルの普及・促進を図るため、有識者懇談会を立ち上げ、労働条件の明示等、雇用管理上の留意点についてとりまとめのうえ、周知を図ることとしました

 それを踏まえ、厚生労働省では、平成25年9月に有識者を参集して「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」を設置し、多様な正社員にかかる雇用管理上の課題と留意事項等について検討していましたが、平成26年7月11日、同懇談会が、多様な正社員の普及に向けた政策提言となるべく、いわゆる限定正社員の処遇全般に関する報告書を公表しています(以下、「本報告書」。全文は「「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」参照)。

 厚生労働省は、本報告書を踏まえて、平成26年7月30日、「多様な正社員に係る『雇用管理上の留意事項』等について」(基発0730第1号)(以下、「多様な正社員通達」)を発出し、同報告書内容の周知を図るとともに、同報告書「別紙1 雇用管理上の留意事項」(以下、「雇用管理上の留意事項」)と併せて、「別紙2 就業規則、労働契約書の規定例」で多様な正社員の好事例や就業規則の規定例の周知を図るなど、企業や労働者への情報提供や助言等に積極的に取り組むことを都道府県労働局に指示しました。その際、雇用管理上の留意事項に記載された労働契約法の解釈等についても、後述2で紹介するように、実際上にも有意義な一定の見解を示しており、実務での多様な正社員制度の構築・活用の際には、それらの点にも留意することが必要と考えます。

 しかし、上記「別紙2 就業規則、労働契約書の規定例」は、同報告書自体が、繰り返し指摘しているように、あくまで「例示」に過ぎず、各企業としては、これらだけでは具体的な検討が難しいかと思われます。

 そこで、本稿は、本報告書を基に、企業が実際に、いわゆる無限定正社員から「多様な正社員」の典型例である地域限定正社員を導入し給与を減額する際に留意すべきポイントを中心として、解説しようとするものです(限定正社員制度全体への留意点や規定例については、岩出誠『「多様な正社員」の就業規則、労働契約書と実務ポイント-「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告を受けて』労務事情1283号(2014年10月15日付)33頁以下参照)。

雇用管理上の留意事項への留意点

 多様な正社員通達は、本報告書の雇用管理上の留意事項に記載された労働契約法の解釈等について、おおむね、以下のような指摘をしています。前述の通り、実際上にも有意義な見解であり、実務で多様な正社員制度の構築・活用する際には、それらの点にも留意することが必要です。ただし、下記のうち、「望ましい」とされる点については、解釈が分かれる場合もあり、各企業の規模・体質・構造・業界動向・業況・地域性等に応じて、独自の工夫が可能かつ必要です。

労働者に対する限定の内容の明示

 まず、転勤、配転等の際の個別労働関係紛争の発生を未然に防止する等の観点から、職務や勤務地等に限定がある場合には、限定の内容についてできる限り明示することが重要です。

 雇用管理上の留意事項では、「労働契約法第4条では、労働契約の内容はできるだけ書面で確認するものとされており、勤務地、職務、勤務時間の限定についても、この確認する事項に含まれる」としています。この点につき、労働契約法施行通達(厚生労働省「労働契約法の施行について」(基発0810第2号)(平成24年8月10日))において、労働契約法4条2項の「労働契約の内容」とは、有効に締結または変更された労働契約の内容であるとしていることから、勤務地、職務または労働時間に限定がある場合に、当該限定があることについても同条の「できるだけ書面により確認する」対象となることに留意が必要です。

 なお、労働契約法施行通達によれば、労働契約法4条2項による書面確認の対象となる場面には、労働契約の締結または変更されて継続している間の各場面が広く含まれ、これは労働基準法15 条1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時よりも広いものであるとしています。このため、使用者と労働者の間で勤務地、職務または労働時間に限定がある労働契約を締結する場合のほか、いわゆる正社員(従来の正社員)と多様な正社員(勤務地、職務または労働時間が限定された正社員)との間で転換が行われる場合も、労働契約法4条2項による書面による確認に含まれます。

均衡処遇

 次に、多様な正社員を含む労働者の納得感を高め、その意欲や能力の発揮を図る等の観点から、多様な正社員といわゆる無限定正社員の間の処遇の均衡を図ることが重要です。

 多様な正社員は勤務地、職務または労働時間の限定の程度が様々であることから、多様な正社員の賃金等の処遇について、いわゆる無限定正社員と比較していかなる水準が望ましいか一律に判断することは難しいのですが、企業ごとに労使で十分に話し合い、納得性のある水準とすることが望まれます。

 なお、雇用管理上の留意事項では、「労働契約法第3条第2項では、労働契約は就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきとしているが、これには、いわゆる正社員と多様な正社員の間の均衡も含まれる。同項を踏まえて、多様な正社員についていわゆる正社員との均衡を図ることが望ましい」としています。

 すなわち、労働契約の基本的な理念および労働契約に共通する原則を規定する労働契約法3条のうち、2項は様々な雇用形態や就業実態を広く対象とする「均衡考慮の原則」を規定していることから、多様な正社員といわゆる無限定正社員の間の処遇の均衡にも、かかる原則は及ぶものであることに留意が必要です。

 ただし、無期労働者間の処遇差の問題であるため労働契約法20条(将来的には「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」(平成5年法律第76号)に移行予定)や、平成28年12月20日公表の「同一労働同一賃金ガイドライン案」の規制は受けません。

転換制度について

(1)雇用管理上の留意事項の指摘

 非正規雇用の労働者から多様な正社員への転換、いわゆる正社員と多様な正社員の間の転換のいずれについても、個別労働関係紛争の発生を未然に防止しつつ、人材活用を図っていく観点から、転換ルールを就業規則等に定め、社内制度として明確にすることが望まれます。

 特に、本稿のメインテーマであるいわゆる無限定正社員と地域限定正社員との間の転換については、労働者のワーク・ライフ・バランスの支援等のため、いわゆる正社員から多様な正社員への転換制度を設ける場合、対象者のキャリア形成支援等のため、いわゆる正社員への再転換制度を併せて設けることが望まれます

 そのため、雇用管理上の留意事項では、「労働契約法第3条第3項では、労働契約は労働者及び使用者が仕事と生活の調和に配慮しつつ締結し、又は変更すべきものであることを規定しており、これには転換制度も含まれる。同項を踏まえて転換できるようにすることが望ましい」と指摘しています。

労働契約法3条3項は様々な雇用形態や就業実態を広く対象とする「仕事と生活の調和への配慮の原則」を規定していることから、いわゆる正社員と多様な正社員との間の転換にも、かかる原則は及ぶものであることに留意が必要です。

出典:厚生労働省・都道府県労働局「勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて

(2)本報告書での検討事項

 なお、本報告書での検討事項も参考になりますので、以下に紹介しておきます。

①就業規則等の必要性

 転換の仕組みについては、就業規則等で定めず運用で実施するよりも、社内制度として明確化を図ることにより、紛争の未然防止に資するほか、労働者による活用が促進されると考えられています。

②転換制度の応募資格、要件

 他方、労働者が自由に何度でも転換できるようにすると、企業における長期的な要員計画が立てにくくなったり、人材育成投資に応じた期待に即して人材活用できなくなる等の影響を生じかねないと考えられます。

 企業ヒアリングによれば、企業においては、

  • 労働者による転換の応募資格として一定の年齢・役職に達したことを必要とする
  • 転換の時期や回数について制限を設ける
  • 本人の申出に加えて所属長の推薦や面接・試験等の要件を課す

等の例が多くみられました。また、応募資格や企業側の面接・試験等を必要とせずに労働者の希望による転換を認める企業もみられましたが、その場合でも、転換先のポストが確保されることを条件とするなどの社内制度が設けられています。

 こうした事例を参考に、企業ごとの事情を踏まえつつ、転換制度の応募資格、要件、一定期間中の回数、実施時期等についても制度化することを雇用管理上の留意事項としていくことが考えられます。

③ 企業側の事情により転換させる場合の留意点

 新規事業の立ち上げ等、企業側の事情により転換させる場合、多様な正社員からいわゆる無限定正社員への転換の際には、勤務地の変更など労働者の負担を伴う場合も多く、また、いわゆる正社員から勤務地限定等の多様な正社員への転換の際には賃金の低下を伴う場合も多くなっています。このように、転換は重要な労働条件の変更となることから、本人の同意が必要であることに十分留意すべきです。

 いわゆる無限定正社員から多様な正社員に転換する場合に、勤務地、職務、勤務時間が限定されることのみを理由に、ただちに「キャリアトラックの変更」として、いわゆる無限定正社員とはキャリアトラックを区分し、職務の経験、能力開発、昇進・昇格のスピード・上限等に差を設ける企業も多いようです。

 しかし、勤務地、職務、勤務時間が限定されても、その範囲や限定される期間によっては、いわゆる無限定正社員だった場合と比べて能力(生産性)に大きな差が生じない場合もあり、そうした場合にまでキャリアトラックの変更として、いわゆる無限定正社員とキャリアトラックを区分することは、紛争の未然防止、多様な正社員のモチベーションや生産性の維持・向上等の観点から、必ずしも望ましいものではありません。また、労働者に転換制度の活用を躊躇させることも考えられます。

 限定の種類、範囲、期間、時期等によっては、キャリアトラックの変更として扱うのではなく、「労働条件の変更」として扱うのが適切な場合もあると考えられます。そのような場合には、いわゆる無限定正社員とあえてキャリアトラックを区分せず、きちんとした人事 評価を行うことを前提に、職務の経験、能力開発、昇進・昇格のスピード・上限に差を設けない、あるいは差をできるだけ小さくすることが考えられます。加えて、いわゆる無限定正社員と多様な正社員の間の転換・再転換を行う場合は、転換・再転換の要件を緩やかに設定して、転換・再転換が容易にできるようにすることが望ましいでしょう。

 なお、各企業において労使で話し合い、転換制度を設定するにあたって、

  • 男女雇用機会均等法により、昇進、職種の変更にあたって合理的な理由なく転居を伴う転勤に応じることを条件とするのが間接差別にあたること
  • 男女雇用機会均等法により、コース別雇用管理を行う場合に、その必要性やコース区分間の処遇の違いの合理性について十分に検討し、性別によって異なる取扱いがなされないよう適正に運用すること
  • 育児・介護休業法により、3歳に満たない子を養育する労働者等からの申出により所定労働時間の短縮等の措置を講じたことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとされていること

に留意することが必要です。

④賃金の格差の限界

 さらに、転換に際しての場合に限らず、本報告書は、いわゆる無限定正社員と勤務地限定正社員との賃金格差につき次の通り指摘していることに留意すべきです。

 すなわち、いわゆる無限定正社員と地域限定以外に職務内容の変わらない場合で、いわゆる無限定正社員の中に転勤しない者がいるときには、賃金水準の差は大きくしない方が多様な正社員の納得が得られやすくなります。他方、いわゆる無限定正社員について海外転勤など負担が大きい場合には、賃金水準の差を一定程度広げた方がいわゆる無限定正社員の納得が得られやすくなります。

 このため、いわゆる無限定正社員と多様な正社員の間で賃金の差を合理的なものとして賃金水準の差への納得性を高めるため、たとえば、同一の賃金テーブルを適用しつつ、転勤の有無等による係数を乗じたり、転勤手当等の転勤の負担の可能性に対する支給をすることも考えられると指摘しています。

(3)労働者の真に自由な意思の証明

 上記「③企業側の事情により転換させる場合の留意点」でも、「転換は重要な労働条件の変更となることから、本人の同意が必要であることに十分留意すべき」とされていましたが、設例のように「転勤をしないコースを選択する」場合に「労働者の真に自由な意思」による選択であったかが問われる場面が増えています。たとえば、不利益な変更への同意につき、真に自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを求める山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日判決・労判1136号6頁)の法理を、募集時に援用した福祉事業者A苑事件(京都地裁平成29年3月30日判決・労判1164号44頁)等があります。

参照:「退職金制度を変更・廃止するには

 そして、この「真に自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すること」の内容は、上記「2-1労働者に対する限定の内容の明示」や 「2-2均衡処遇」、「2-3転換制度について(1)雇用管理上の留意事項の指摘」等を踏まえて、その選択が、労働者の真に自由な意思によることの担保として、

  1. 制度内容の明示
  2. 不利益変更面における十分な説明の上での同意
  3. 受け皿の制度に関する規定の整備
  4. 限定に伴う合理的な範囲での均衡を考慮した処遇差に留めること

が必要でしょう。

事業所閉鎖や職務の廃止等の場合の対応について

 なお、補足ですが、地域限定社員となった場合、事業所閉鎖や職務の廃止等にともなう整理解雇について、雇用管理上の留意事項では、勤務地や職務の限定が労働契約等で明確化されていればただちに解雇が有効となるわけではなく、裁判例をみても整理解雇法理を否定するものではないことを示したうえで、整理解雇法理またはこれに準拠した枠組みで判断する例が多い傾向がみられるとし、解雇の有効性は人事権の行使の実態や労働者の期待に応じて判断される傾向があることを示しています。

 したがって、多様な正社員の整理解雇をめぐる個別労働関係紛争を未然に防止する観点から、使用者は、事業所廃止等に直面した場合、配置転換を可能な範囲で行うことが求められます

参照:「希望退職や早期退職者優遇措置を導入する場合の留意点

 さらに、雇用管理上の留意事項では、「能力不足解雇について、能力不足を理由に直ちに解雇することは認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格等が必要とされる傾向がみられる。他方、高度な専門性を伴う職務限定では、警告は必要とされるが、教育訓練、配置転換、降格等が必要とされない場合もみられる」と指摘しています。

 よって、前述と同様の観点から、使用者は、改善の機会を与えるために警告を行うとともに、可能な範囲で教育訓練、配置転換、降格等を行うことにより解雇を回避できないか留意することが必要です。


  1. 就業する地域が特定されているか一定の範囲内にあらかじめ決められている働き方の正社員 ↩︎

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