業績悪化を理由に賞与を引き下げたり不支給としてもよいか

人事労務
西中 宇紘弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

当社は、就業規則において賞与制度を定め、従業員に対して毎年2回賞与を支給してきました。しかし、近ごろは業績が悪化しており、今般、次回の賞与の支給額を引き下げる、あるいは不支給とすることを検討しています。賃金の引下げや不支給は一方的にすることはできないと認識していますが、賞与については可能なのでしょうか。賞与の性質と合わせて教えて下さい。

賞与は、定期または臨時に労働者の勤務成績に応じて支給されるもので、支給額があらかじめ確定していないものをいい、賞与支給の根拠は労働契約・就業規則・労働協約において定められた賞与制度です。したがって、賞与制度が就業規則に定められている場合に、会社が業績悪化を理由として、賞与の支給額を減額する、または不支給とする措置を一方的にとることができるかどうかは、就業規則に定められた賞与制度の内容によることになります。

解説

目次

  1. 賞与とは
  2. 賞与支給の根拠
  3. 就業規則での定め
  4. 具体的な賞与請求権
  5. 賞与の引下げ・不支給の可否
  6. まとめ

賞与とは

 賞与とは、定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないものをいい、定期的に支給され、かつその支給額が確定しているものは、名称のいかんにかかわらず賞与には当たらないとされています(昭和22年9月13日基発17号)。

 労働基準法上は、賞与も賃金の一種であるとされています(労働基準法11条)。しかし、その支払方法については、毎月払い原則および一定期日払い原則の適用が除外され(労働基準法24条2項ただし書)、また就業規則上も、定めをする場合には必ず記載しなければならない事項(相対的記載事項)とされて(労働基準法89条4号)、使用者に賞与の支給を必ずしも義務付けるものではないなど、通常の賃金とは異なる取扱いがされています。
 すなわち、賞与は賃金の一種ですが、その支給は、法的に義務付けられていないので、支給するかどうかは使用者の任意であり、支給する場合も、使用者は任意に、就業規則等にその支給基準等を定めることができるという整理になります。

賞与支給の根拠

 では、使用者が労働者に対して賞与を支給する根拠はどこに求められるのでしょうか。
 この点につき、裁判例では、賞与は「雇用契約上の本来的債務(賃金)とは異なり、契約によって賞与を支払わないものもあれば、一定条件のもとで支払う旨定めるものもあって、賞与を支給するか否か、支給するとして如何なる条件のもとで支払うかはすべて当事者間の特別の約定(ないしは就業規則等)によって定まる」(名古屋地裁昭和55年10月8日判決・労判353号46頁)とされています。

 すなわち、賞与支払いの根拠は、個別の労働契約に求められ、労働契約、就業規則または労働協約で賞与についてどのように定められているかによって、賞与がいつ、どれだけ支払われるか決まることになります。

就業規則での定め

 賞与については、就業規則(給与規程)において、夏季賞与と年末賞与の2回に分けて、おおよその支給時期と、組合があれば組合と交渉して額を定める旨、そうでなければ、会社の業績等を勘案して(使用者が)定める旨が記載されることが通常です。また、企業業績の著しい低下などがある場合には支給を延期すること、または支給しないことがあると定める場合もあります【厚生労働省モデル就業規則第46条参照】。

 就業規則(給与規程)に、「賞与支給日に在籍する者に限って賞与を支給する」旨の規定を設けて支給対象期間の途中で退職し、その日に在籍しない者には支給しない取り扱いも有効です。判例でも、「賞与支給日に在籍する者に支給する」旨の規定に基づくものであれば、支給日に在籍していない者に対しては、賞与を支給しなくても差し支えないものとしたものがあり(最高裁昭和57年10月7日判決・判時1061号118頁)、この見解は判例上確立されています。
 賞与の額は、基本給にその時々の経済状況で決まる支給率(何か月分)を乗じ、さらに支給対象期間の出勤率および成績係数(成績査定によるもの)を乗じて算定するというのが典型例です。

具体的な賞与請求権

 一般的に賞与は、業績や個人の成績に応じて、使用者が個別的に決定したときに具体的な賞与請求権が発生すると解されています。
 裁判例においても、「賞与について、労働協約、就業規則、労働契約の各定めあるいは労働慣行などにより、支給時期及び額ないし計算方法が決まるなど、右の各支給条件が明確な場合には、労働者は使用者に対し、具体的な賞与請求権を有するというべきであるが、右定め等がなく、支給条件が明確でない場合には、労働者は右の具体的な賞与請求権を有しないと解するのが相当である」(大阪地裁平成9年5月19日判決・労判725号72頁)、とされており、同旨は最高裁も認めるところです(最高裁平成19年12月18日判決・労判951号5頁)。

賞与の引下げ・不支給の可否

 賞与制度が就業規則に定められている場合に、会社が業績悪化を理由として、賞与の支給額を減額し、または不支給の措置を一方的にとることが法律上許されるでしょうか。
 この点は、賞与支給の根拠が就業規則にある以上、就業規則に定められた賞与制度の内容によって結論が変わることになります。

記載例①「賞与は、毎年6月1日及び12月1日に、月額基本給の3か月分を支給する。」

 賞与の支給金額が自動的に算出されることになるので、労働者は支給時期が到来すれば就業規則の定めに基づき具体的な賞与請求権を取得することになり、使用者は、就業規則に定められた基準によって算定される賞与の支給金額を必ず支払わなければならないことになります。したがって、支給額を引き下げたいまたは支給しないこととしたいと考えた場合、使用者は労働者の同意をとるか、就業規則の不利益変更をする必要があることになります。
 就業規則の不利益変更については「年俸制に賃金制度を変更する場合に注意すべきポイント」を参照ください。

記載例②「賞与は、毎年2回支給する。」

 賞与の具体的な金額が定まっていないので、労働者には具体的な賞与請求権が発生せず、使用者は、これまでの支給額から減額して支給しても差し支えないことになります。もっとも、「支給する」とあるので不支給とすることができるかは解釈によります。業績によって支給されるという賞与の趣旨からすると不支給も可能と解釈する余地があると考えます。

記載例③「賞与は、毎年6月及び12月に、会社業績及び従業員の勤務成績を考慮して支給することがある。」

 この就業規則の定めからすれば、会社の業績不振や従業員の勤務成績が不良のときに一方的に賞与の支給額を減額し、または賞与を不支給としても構わないことになります。もっとも、恣意的な査定をして支給金額を不当に低くすれば、人事権の濫用として無効となり、標準金額との差額を支払う必要が生じることもあり得ます。

まとめ

 以上みてきたように、使用者が、業績悪化を理由に一方的に、賞与の支給額を減額したり、不支給としたりすることができるかどうかは、賞与支給の根拠となっている労働契約・就業規則・労働協約でどのように定められているかによって結論が変わることになります。したがって、使用者としては、この点を意識して、賞与制度を定める必要があるといえます。

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