長時間労働、賃金不払いなど刑事処分の対象となる労働基準法違反行為

人事労務

 最近、従業員の長時間労働に関する問題などで企業が責任を問われるケースをよく目にします。どのような行為をすると、労働基準法の刑事処分の対象となるのでしょうか。

 労働基準法に罰則が定められた違反行為は、多く存在しています。近年、刑事事件として立件されることの多いものには、①賃金・退職金の不払、②36協定の限度時間を超えて時間外労働に従事させた、休日労働をさせたという事案など労働時間・休日に関するもの、③時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金を支払わない行為があげられます。

解説

目次

  1. 決して特異ではない労働基準法違反行為が、刑事罰の対象となっている
  2. 刑事罰の対象となる行為
    1. 問題となることの多い行為の例
    2. 長時間労働撲滅へ向けた取り締まりの強化

決して特異ではない労働基準法違反行為が、刑事罰の対象となっている

 平成29年10月、東京簡易裁判所が大手広告代理店に対して労働基準法違反の罪で50万円の罰金刑を科す判決を言い渡しました(東京簡裁平成29年10月6日判決)。この事件は、長時間労働や悪質なパワーハラスメントにより従業員の尊い命が奪われた大変痛ましい事件であったことから、社会的にも大きな関心を集めましたが、この裁判で裁かれた行為は、人の生命を奪ったこと自体やパワーハラスメントといった問題ではなく、いわゆる36協定に定める時間外労働時間の上限時間を超えて労働させたという、労働基準法違反でした。36協定の限度時間を超えて、従業員が時間外労働に従事するという事態は、決して特異なことではなく、しっかりとした労務管理を行わなければ、どのような会社でも起こり得る問題です。このように、人事労務において決して特異とはいえない労働基準法違反行為が、法律上は刑事罰の対象となっていることは、ご存知ない方も多いようです。

 厚生労働省の作成する「平成27年労働基準監督年報」によれば、平成27年中に、労働基準監督官が司法処分として検察庁に送検した件数は966件であり、そのうち労働基準法違反が402件で全体の41.6%を占めています。また、労働基準監督官の送検した被疑者のうち42.5%が起訴されているそうです。このように、必ずしも特異ではない労働基準法違反により、現実に会社に刑罰が科される可能性があるということを指摘することができます。

 本稿では、そのような労働基準法違反と刑事処分について説明します。

刑事罰の対象となる行為

問題となることの多い行為の例

 では、具体的にどのような行為が刑事罰の対象となるのでしょうか。
 労働基準法に罰則が定められた違反行為は、実は大変多く存在しています。紙幅の関係上ここでは、そのすべてを列挙するわけにはいかず、近年、刑事事件として立件されることの多いものを取り上げて説明します。

 全国の都道府県の労働局は、管内において取り扱った労働基準法違反の案件について、送検の状況を公表しています。東京労働局が発表したところでは、平成28年度に労働基準法違反で送検した件数が多かった上位3つは、次のとおりでした(参照:厚生労働省東京労働局「平成28年度司法処理状況の概要について」(2017年5月23日))。

  1. 賃金・退職金不払(労働基準法23条、24条、最低賃金法4条等)
  2. 労働時間・休日(労働基準法32条、35条)
  3. 割増賃金不払(労働基準法37条)

 ①賃金・退職金不払(労働基準法23条、24条、最低賃金法4条等)は、たとえば、会社の自動車で交通事故を起こしたから、その修理費用相当額を毎月の従業員の賃金から違法に控除する場合、あるいは、ある従業員の営業成績が振るわないから月給を一方的に減らす場合など、法律上賃金を全額支払わなければならないのに支払わなかった行為が、これに該当します。労働基準法24条は、賃金全額払いの原則を定めており、これに違反する行為に対しては、30万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

 また、②労働時間・休日(労働基準法32条、35条)は、先述した大手広告代理店等の事案と同様で、36協定の限度時間を超えて時間外労働に従事させた、休日労働をさせたという事案がその典型です。労働基準法32条、35条違反は、6か月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑が科される可能性があります。なお、冒頭でご紹介した広告代理店の事案は、罰金50万円が科されており、30万円を超えていますが、これは複数の違反行為を処罰の対象としているためと思われます。

 さらに、③割増賃金不払(労働基準法37条)は、時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金を支払わない行為が労働基準法37条に違反するというもので、6か月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑が科される可能性があります。

 他にも、送検された事案の中には、労働基準監督官の臨検に際し、担当者が虚偽の記載をした日報を提出した場合等の労働基準法120条4号違反の事案もあります(参照:厚生労働省東京労働局「労働基準関係法令違反に係る公表事案」)。こうした検査妨害行為は、上記①ないし③と比べて件数は少ないものの、毎年複数件が送検されているようです。

 以上が、刑事責任が問題となることが多い労働基準法違反行為です。

長時間労働撲滅へ向けた取り締まりの強化

 上記2-1で述べた中でも、特に②の労働基準法32条、35条違反については、現在、厚生労働省が過重労働撲滅を目標に掲げその取り締まりを強化しています(厚生労働省「過重労働解消キャンペーン」)。

 そのような取り組みの一環として、厚生労働省は「過重労働撲滅特別対策班」(通称「かとく」)を組織し、難しい大企業の立件にも力を入れています。平成28年に、36協定の限度時間を超えて時間外労働に従事させた罪で、多店舗展開する量販店や、大手クレジットカード会社が、罰金50万円の略式命令を受けましたが、それらの案件は、「かとく」が立件したものです(厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します」(2017年1月17日))。

 今後も、厚生労働省や各都道府県の労働局(労働基準監督署)は、違法な長時間労働に対して、厳しい取り締まりを行うことが予想されます。

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