定期建物賃貸借契約における終了通知を遅らせることにより、全賃借人の退去時期をそろえることができるか

不動産

 ビルの各室を定期建物賃貸借にて貸していましたが、ビルを建て替えるにあたり賃料収入の減少を最小限に抑えるため、できる限り、全賃借人の退去時期をそろえたいと考えています。そこで、期間満了の1年前から6か月前までに行うべき終了通知をその時期に出さず、期間満了が一番遅い契約の期間満了時期に合わせて、全賃借人に終了通知を出すことを考えています。この場合、期間満了後に終了通知を出した賃借人に対しても、明け渡しを求めることができるでしょうか。

 期間満了後に終了通知を送付してから6か月が経過すれば、明渡しを対抗することができますが、何ら明渡しを求めることなく放置すれば、新たな賃貸借契約が成立されたと評価されることがあり得るため、改めて、定期建物賃貸借契約を締結しなおすことが望ましいといえます。

解説

目次

  1. 耐震問題への関心の高まりとテナント退去問題
  2. 定期建物賃貸借制度における終了通知に関する規制
  3. 終了通知なく期間満了した場合の争点(予想される賃借人からの反論)
  4. 建替え予定建物における各賃借人の明渡時期の統一化
  5. 実務対応のあり方

耐震問題への関心の高まりとテナント退去問題

 近時、耐震問題への関心の高まりから、耐震性能が欠如し老朽化したビルの建替えの相談を受けることが多くあります。
 ビルオーナーが老朽化したビルを建て替えるにあたって最も頭の痛い問題が「テナント退去問題」です。普通建物賃貸借の場合、賃貸人から賃借人に対し更新拒絶や解約申入れをするためには、いわゆる「正当事由」が必要となります(借地借家法28条)。この「正当事由」を満たすことは容易ではなく、高額な立退料の支払いが求められることもありますし、立退料を支払う申出をしたとしても、必ずしも「正当事由」が満たされるわけでもありません。

 ところが、平成12年3月1日から施行された「定期建物賃貸借制度」においては、この「正当事由」が不要とされ、一定の手続を守ることを条件に、賃貸期間が満了すれば必ず建物を明け渡してもらえます。これにより、ビルオーナーは、賃貸ビルの各フロアを定期建物賃貸借契約により貸し出すか、あるいは、従前の普通建物賃貸借契約を定期建物賃貸借契約に切り替えることにより1、スムーズな建替えが可能となりました。

 もっとも、各フロアの定期建物賃貸借の期間満了時期が一致するとは限らず、場合によっては数年のズレが生じることがあります。最後の定期建物賃貸借契約が終了するまでの間、他のフロアを空きのままとしておくと、その分、空室損失が発生します。そこで、すべての定期建物賃貸借の終了時期を一致させることができれば、ビルオーナーにとって、メリットが大きいことになります。

定期建物賃貸借制度における終了通知に関する規制

 ここで、定期建物賃貸借制度における終了通知に関する規制を整理してみましょう。
 まず、賃貸期間が1年以上の場合、賃貸人は、期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、賃借人に対し、期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知(終了通知)をしなければなりません。この終了通知を怠ると、その終了を賃借人に対し対抗することができません(借地借家法38条4項)。

 ただし、賃貸人が通知期間の経過後、賃借人に対し、終了の通知をした場合において、その通知の日から6か月を経過した後は、その終了を賃借人に対し対抗することができます(借地借家法38条4項ただし書)。

定期建物賃貸借制度における終了通知に関する規制

終了通知なく期間満了した場合の争点(予想される賃借人からの反論)

 この借地借家法38条4項ただし書は、通知期間の経過後、すなわち、賃貸期間満了の6か月前から期間満了日までの間に適用されることは明らかですが、賃貸期間満了後においても適用されるのでしょうか。

 すなわち、終了通知をすることなく定期建物賃貸借契約の期間(1年以上のもの)が満了した場合、賃借人から、普通建物賃貸借契約に転換し「正当事由」がなければ解約申入れできないという主張がなされ、明渡しを拒まれることがあります。

 東京地裁平成21年3月19日判決・判時2054号98頁は、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了し、このことは、契約終了通知が義務付けられていない契約期間1年未満のものと、これが義務付けられている契約期間1年以上のものとで異なることはないとしたうえで、契約期間1年以上のものについては、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対し定期建物賃貸借契約の終了を対抗できないため、賃借人は、明渡しが猶予されるとし、このことは、終了通知が期間満了前にされた場合と期間満了後にされた場合とで異なるものではないと判示しました。

建替え予定建物における各賃借人の明渡時期の統一化

 この東京地裁平成21年3月19日判決を踏まえると、設問のように、ビルの各室を定期建物賃貸借にて貸していたところ、全賃借人の退去時期をそろえるため、期間満了の1年前から6か月前までに行うべき終了通知をその時期に出さず、期間満了が一番遅い契約の期間満了時期に合わせて、全賃借人に終了通知を出せば、すでに期間が満了していた賃借人も、終了通知から6か月が経過すれば、明け渡しを求めることができるという結論になりそうです。

建替え予定建物における各賃借人の明渡時期の統一化(東京地裁平成21年3月19日判決・判時2054号98頁)

 しかし、東京地裁平成27年2月24日判決は、そもそも定期建物賃貸借契約かどうか争いがある事例ではありますが、賃貸期間が経過した後も、賃借人が賃貸部分の占有を継続して賃料の支払いを続けており、賃貸人も明け渡しを求めることなく、再契約の具体的内容を示して賃借人の希望の有無を打診していた等の事案において、賃貸期間が経過して1年後の時点において、書面の取り交わしがなくても、新たな賃貸借の合意が成立したと認定しました。

 このように、賃貸期間が経過した後の賃貸物件の状況や、当事者の振る舞いによっては、新たな賃貸借の合意がなされたと認定されてしまう場合があります。この新たな賃貸借は、契約書面の取り交わしがなく、当然のことながら、普通建物賃貸借となります。

実務対応のあり方

 以上を踏まえると、終了通知を遅らせる方法により各賃貸借の終了時期をそろえるという方法は、新たな普通賃貸借の成立により解約申入れに正当事由が必要となるリスクを伴います。
 このリスクを回避するためには、面倒であっても、改めて、定期建物賃貸借契約を締結し、終了時期を出来る限りそろえるのが望ましいと言えます。賃借人とのトラブルを未然に防ぐことこそが、賃貸人にとって、最大のメリットなのです。


  1. 定期建物賃貸借制度の施工前にされた居住の用に供する建物の賃貸借については、定期建物賃貸借への切り替えが制限されています(附則(平成11年12月15日法153)第3条)。 ↩︎

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