民法改正によって不動産取引はどのように変わるのか

不動産
木村 勇人弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

 平成27年3月31日に国会に提出された「民法の一部を改正する法律案」により民法の改正が予定されているということですが、この改正は、不動産取引(不動産売買契約や不動産賃貸借契約)にどのような影響を与えるのでしょうか。

 今回の民法改正は、①不動産売買契約に関しては、おもに売主の担保責任等、②不動産賃貸借契約に関しては、おもに賃貸借の存続期間や不動産の賃貸人たる地位の移転等について、実務上影響を与えるものと思われます。

解説

目次

  1. 民法改正への動き
  2. 売買契約に関する改正の影響
    1. 売主の瑕疵担保責任の法的性質
    2. 買主・売主が注意すること
  3. 賃貸借契約に関する改正の影響
    1. 賃貸借の存続期間
    2. 不動産の賃貸人たる地位の移転
  4. おわりに

民法改正への動き

 平成27年3月31日、「民法の一部を改正する法律案」が国会に提出されました(未成立であり現時点では施行日も未定です)。
 今回の民法改正のうち、不動産取引、特に売買契約および賃貸借契約に影響があると考えられる主な改正点を紹介いたします。

売買契約に関する改正の影響

売主の瑕疵担保責任の法的性質

 売買契約における売主の瑕疵担保責任の法的性質については、従前より法定責任説(本来的に特定物は現状有姿で引き渡せば足りるのだが、それでは不都合なので立法政策的に売り主に責任を課したものであるとする説)と契約責任説(売主は債務の本旨に従ったものを引き渡す義務があり、目的物に瑕疵があった場合は債務不履行であるとする説)の対立がありましたが、今回の改正により、 契約責任と位置づける ことが明らかになりました。

 その結果、新法では、「瑕疵」という用語は用いられず、その代わり売主に「契約の内容に適合」する目的物の給付義務があることを前提とし、買主の追完請求権(目的物修補請求権、代替物引渡請求権および不足物引渡請求権)が規定されることとなりました(改正民法562条)。
 また、解除・損害賠償については、債務不履行として一般規定に従いなされることになります(改正民法564条)。

買主・売主が注意すること

 上記改正に伴い、買主としては、売主に責任を問うために契約上「瑕疵」に何を含めるかというアプローチではなく、何を「契約の内容」たる目的物の品質・性状として合意すべきかの観点から、売買契約の規定(売買対象の物件の記載等)を検証する必要があると思われます。
 逆に売主としては、給付した目的物に契約の内容との不適合があれば上記のような追完請求権が買主に生じうることをふまえ、物件概要書を含め契約内容と目的物との不整合がないかを検証する必要があると考えられます。
 また、物件に関する表明保証規定との関係では、その趣旨・効果を明確に書き分けるなどの注意が必要と思われます。

賃貸借契約に関する改正の影響

賃貸借の存続期間

改正民法と借地借家法

 賃貸借の存続期間について、現行民法が20年と定めているところ、改正民法604条は、50年と定めています。
 もっとも、建物の所有を目的とする土地の賃借権または地上権や建物の賃借権においては、借地借家法が適用され、同法による存続期間の定めに従うので、改正民法604条の影響はないものと思われます。

再生可能エネルギーでの賃貸借契約

 これに対し、借地借家法の適用がない借地取引、たとえば近時多く組成されている再生可能エネルギー案件では、固定買取期間の20年の敷地利用に加え、工事期間の敷地利用権を確保する必要があるところ、20年を上限とする現行民法下では、工事期間に相当する期間を存続期間とする賃貸借契約を締結し、さらに、当該存続期間満了と同時に20年の賃貸借期間が開始する賃貸借契約を別途締結するなどの手法が取られています。
 改正民法604条により、 再生可能エネルギー設備の敷地を対象とする賃貸借契約につき、工事期間を含むプロジェクト期間全体にわたり存続する長期の賃貸借契約を締結することが可能となり、敷地利用権をより簡易に確保できる ことになると思われます。

不動産の賃貸人たる地位の移転

不動産の賃貸人たる地位の移転の判例法理の明文化

 改正民法605条の2第1項および第3項は、(i) 賃貸借の対抗要件が具備された不動産の所有権を新たに取得した新所有者は、所有権の移転と同時に賃貸人たる地位も承継すること(同条第1項)、(ii) 新所有者が賃借人に対して賃貸人たる地位を主張するためには、不動産の所有権の移転登記を必要とすること(同条第3項)を規定していますが、これは判例法理を明文化したものであり、従来の実務に影響はありません。

賃貸人たる地位の留保

 一方、改正民法605条の2第2項は、新所有者と旧所有者との間で賃貸借契約を締結することを条件に、賃借人の同意がなくとも賃貸人たる地位を旧所有者に留保したままで所有権の譲渡を認める旨を規定しています(この場合、新所有者と旧所有者の間の賃貸借が終了したときは、旧所有者に留保されていた賃貸人たる地位は新所有者に移転することになります)。
 従前は、所有権の移転と共に賃貸人たる地位が移転することを前提に、賃貸人たる地位の留保と同様の効果を得るため、賃借人から個別に同意を得て賃貸人たる地位を新所有者から旧所有者に再度移転させることが行われていました。
 たとえば、不動産証券化取引においてオリジネーター(旧所有者)が信託受託者(新所有者)に所有権を移転した後も引き続きマスターレッシーとして物件をテナントに賃貸する場合、従前は、いったん賃貸人たる地位が信託受託者(新所有者)に移転し、さらに信託受託者(新所有者)が物件をオリジネーター(旧所有者)に賃貸したうえで、テナントの個別の承諾を得て、賃貸人(転貸人)たる地位をオリジネーター(旧所有者)に移転させることが行われていました。

不動産の賃貸人たる地位の移転(従前の民法)

 改正民法下では、 かかるテナントの個別承諾がなくとも、信託受託者(新所有者)とオリジネーター(旧所有者)の間で賃貸借契約を締結することで、賃貸人(転貸人)たる地位を合意によりオリジネーター(旧所有者)に留保することが可能となる と思われます。
 他方、信託受託者(新所有者)がオリジネーター(旧所有者)以外の第三者をマスターレッシーとして介在させたい場合には、改正民法605条の2第2項ではカバーされないため、従来どおり テナントの個別承諾を得て賃貸人(転貸人)たる地位の移転が行われ るものと考えられます。

不動産の賃貸人たる地位の移転(民法改正後)

おわりに

 今般の民法の改正は多岐にわたり、上記はそのうちのごく一部を紹介したものに過ぎないので、今後成立する改正法の内容を全般的に確認した上で、不動産売買契約・不動産賃貸借契約の内容を検証することが必要になると思われます。

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