土壌汚染等に関する瑕疵担保責任を制限する特約の効力が否定される場合があるか
不動産工場跡地を売却するにあたって、買主との間で売主の瑕疵担保責任を免除する特約を合意したのですが、契約締結後に土壌汚染が判明し、買主から浄化費用を請求されました。買主は、特約で土壌汚染の責任まで免責したつもりはなく、売った土地に汚染があった以上、売主の責任だと主張しています。特約に合意しながら、請求が認められることがあるのでしょうか。
瑕疵担保責任を免除する特約を合意した場合であっても、売主が瑕疵の存在について知っていた場合や、土壌汚染がないことを前提として特約が合意されていたような場合には、特約の効力が否定されることがあります。また、契約締結に至る交渉経緯などによっては、特約によって免除される瑕疵の範囲や責任追及できる期間が限定されたり、瑕疵担保責任は免除されても、債務不履行責任や不法行為責任を負う場合があります。
解説
目次
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売却地の土壌汚染等に関して瑕疵担保責任を制限する特約
瑕疵担保制限特約の内容
工場跡地を売却した後に、地中から工場で使用していた有害物質や、油分、コンクリートがらなどが発見されるケースはよく見られますが、その対策費用・処分費用は高額に及ぶ場合があり、売主と買主のどちらが当該費用を負担するかについて深刻なトラブルとなることも少なくありません。
そのため、売主が、売却する土地の土壌汚染や地中障害物についての責任を免れたいと考える場合には、売買契約において瑕疵(民法570条、566条)について責任を負わない旨の特約(「瑕疵担保責任制限特約」などと呼ばれることがあります)を設けておくことが、よく行われています。
土壌汚染等に関する免責特約の具体的な内容としては、①瑕疵担保責任を一切負わないとする条項のほか、②責任を負う対象範囲(平面的範囲や深度)を限定する条項、③責任を負う対象物質・障害物の種類を限定する条項、④瑕疵担保責任を追及できる期間を限定する条項などがあります。
売主は、本件土地の隠れたる瑕疵(土壌汚染を含むがこれに限られない)について、土地の引渡後2年間に限り、本件土地のうち地表から地下1mまでの範囲内の瑕疵について民法570条の担保責任を負うものとし、その瑕疵を原因として買主について生じた一切の損害等について賠償の責めに任ずる。
商法526条の瑕疵の検査・通知義務
もっとも、商人間(企業間)の売買であれば、このような責任追及期間を限定する特約がない場合でも、買主は、商法526条の規定により瑕疵の検査・通知義務を負うため、原則として土地の引渡しを受けてから6か月以内に瑕疵の内容等について売主に通知をしなければ、瑕疵担保責任を追及することはできなくなります。
ただし、契約を締結する際に、当事者間で商法526条が適用されないとする特約を合意することも可能です。また、契約には明記されていなくても、売買契約条項や契約に至る経緯等を考慮して、当事者間に商法526条の適用を排除する黙示の特約があったと認定した裁判例(東京地裁平成23年1月20日判決)などもあるため注意が必要です。
本契約においては、商法526条の規定は適用しないものとする。
特約の効力が否定される場合
瑕疵担保責任制限特約が定められた場合、買主は原則として特約の対象となる瑕疵について売主に対する責任追及はできません。
ただし、これには例外があります。たとえば、①売主が土壌汚染の存在を知っていたような場合、特約の効力は否定されてしまいます(民法572条)。
また、②対象地に存在していた土壌汚染がすでに対策済みであり汚染がないことを前提として瑕疵担保責任制限特約を合意したというような事情がある場合には、特約の合意に錯誤があったとして、その効力が否定されることがあります(民法95条)。
- 売主が土壌汚染の存在を知っていたような場合
- 対象地に存在していた土壌汚染がすでに対策済みであり汚染がないことを前提として瑕疵担保責任制限特約を合意したというような事情がある場合
売主が土壌汚染について知っていた場合
(1) 土壌汚染を「知っていた」場合(「悪意」の場合)
民法では、瑕疵担保責任制限特約があっても、売主が瑕疵の存在を「知りながら告げなかった」場合には、特約の効力が否定され、売主は責任を免れないとされています(民法572条)。法的には、「知っていた」ということを「悪意」といいます。
また、前述のとおり、商人間(企業間)の売買については、買主が土地の引渡しから6か月以内に検査をして瑕疵の内容等について売主に通知をしないと瑕疵担保責任の追及ができなくなりますが、売主が瑕疵について「悪意」であった場合には同条の適用はないとされています(商法526条3項)。
(2) 土壌汚染を知らないことに「重過失」があった場合
では、売主も瑕疵に気付いてはいなかったものの、売主がわずかな注意さえすれば瑕疵があることを簡単に発見できたのに、これを漫然と見逃していたような場合にも、特約は有効となるのでしょうか。このような場合のことを、法的には、「重過失」があったといいます。
この点について、裁判所の判断は分かれています。売主が「悪意」の場合にのみ民法572条に従い特約は無効となるという裁判例(東京地裁平成20年11月19日判決)と、「重過失」がある場合にも特約が無効となるという裁判例があります(東京地裁平成15年5月16日判決)。
特約が錯誤によって無効とされる場合
また、土壌汚染調査を行った上で、売主と買主が、土壌汚染がないことを前提として特約を合意したような場合には、特約が錯誤(民法95条)により無効であると主張されるケースがあり、裁判所において無効と判断される可能性もあります。
契約交渉過程の注意事項
売主としては、売買契約後に土壌汚染が発見された場合に、買主から、売主に「悪意」や「重過失」があった、または対象地に土壌汚染が存在するとは考えていなかったなどと主張され、特約の効力を否定されるような事態を避けることが必要です。そのため、少なくとも買主に対して、必要な最低限度の情報は、事前に提供しておくことが求められます。
特約は有効であるものの適用範囲が限定される場合
瑕疵担保責任制限特約自体は有効とされた場合であっても、契約に至る交渉経緯などの事実関係によって、責任を免れる対象範囲が限定的に解釈され、結果として売主の責任が認められる場合があります。
たとえば、売買契約に瑕疵担保責任を負わない旨の規定が設けられていた事案で、契約交渉の過程で対象地がガソリンスタンドとして使用されていたことを認識していながら地中埋設物の存在を前提に売買契約の代金を減額するなどの話合いがなかったことや、買主の問い合わせに対して売主が地中埋設物を撤去済みであると回答していたなどの事情があったことを理由に、当該特約は既に明らかとなっている地中埋設物のみを指している(問題とされた地中埋設物は特約の対象外である)と判断された裁判例があります(札幌地裁平成17年4月22日判決)。
この裁判例からは、売買契約の文言だけでなく、契約交渉過程における当事者間のやり取りなどについても特約の効力に大きな影響を与えるということが分かります。そのため、契約交渉の際には、後に特約の効力が否定されることのないよう注意して行動するほか、交渉過程を記録し、証拠化しておくような配慮が重要です。
特約は有効であるものの瑕疵担保責任以外の責任が認められる場合
また、特約が有効であるとされ瑕疵担保責任に基づく売主の責任が否定された場合であっても、売主に、これとは異なる法的責任が認められるケースがあります。
裁判例では、瑕疵担保責任制限特約があった事案において、売主に、土地引渡し時までに土壌汚染を浄化して買主に引き渡す信義則上の浄化義務があるとして、浄化義務違反(債務不履行責任)に基づく損害賠償(民法415条)が認められたケース(東京地裁平成20年11月19日判決)や、売主に、信義則上土壌汚染に関する説明義務があるとして、説明義務違反に基づく損害賠償が認められたケース(東京地裁平成18年9月5日判決)などがあります。
瑕疵担保責任制限特約は、「瑕疵担保」責任を免責する特約であり、それ以外の債務不履行責任や不法行為責任までも当然に免責するということにはなりません。売主が、法的責任の性質を問わず一切の瑕疵についての責任を負いたくないのであれば、瑕疵担保責任だけでなく、債務不履行責任や不法行為責任などについても「法的責任いかんを問わず」責任を負わないことを契約に明記しておくべきでしょう。
売主は、本件土地の隠れたる瑕疵(土壌汚染を含むがこれに限られない)について、法的責任いかんを問わず一切の責任を負わないものとする。

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