「時間単位年休」の導入における注意点
人事労務当社では、従業員の多様な事情・希望にあわせて年次有給休暇を有効活用し、年次有給休暇の消化率を高めるべく、時間単位で与える年次有給休暇(以下、「時間単位年休」といいます)を導入したいと考えていますが、導入・運用において、どのような点に注意すべきでしょうか。
時間単位年休を導入するには、事業場の労使協定において、①時間単位の年休を与えうる対象労働者の範囲、②時間単位の年休として与えうる年休の日数、③②の年休日数について1日の時間数、④1時間以外の時間を単位として年休を与えることとする場合にはその時間数、を定めるべきこととされています(労働基準法39条4項、労働基準法施行規則24条の4)。
また、労使協定の締結によって時間単位年休を実施する場合には、労働基準法89条1号の「休暇」として時間単位年休に関する事項を就業規則に記載する必要があります。
解説
時間単位年休の趣旨
時間単位年休とは、平成22年4月施行の改正労働基準法により導入された、事業場の過半数代表との労使協定により、1年に5日分を限度として、時間単位での年次有給休暇の取得を認める制度のことをいいます。
また、労使協定によって時間単位年休を実施する場合には、就業規則への記載も必要となります(労働基準法89条1号)。
時間単位年休の趣旨は、まとまった日数の休暇を取得することによって、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりのある生活の実現にも資するという年次有給休暇の趣旨を踏まえつつ、年休消化率が5割を下回る水準で推移している昨今の状況に鑑みて、仕事と生活の調和を図る観点から、より柔軟な年次有給休暇の取得を可能とし、その有効活用を図るという点にあると考えられます。
もっとも、当該労使協定は、個々の労働者に対して時間単位による年休の取得を義務づけるものではなく、時間単位により取得するか日単位により取得するかは、労働者の意思によるものとされています。
労使協定に規定されるべき内容
労使協定に規定されるべき内容 1 は以下のとおりです。
(1)対象労働者の範囲(労働基準法39条4項1号)
たとえば、一斉に作業を行うことが必要とされる業務など、時間単位の年休取得になじまない仕事をしている労働者があり得るため、時間単位年休の付与が事業の正常な運営と両立しない場合には、時間単位年休の対象者から除外することが可能です。
ただし、年次有給休暇の利用目的は労働者の自由であることから、たとえば、育児を行う労働者に限定するなど、利用目的によって時間単位年休の対象労働者の範囲を定めることはできません。
(2)時間単位年休の日数(労働基準法39条4項2号)
まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨に鑑み、時間単位年休の日数は年間5日分が上限とされています。
前年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数・残時間数が翌年度に繰り越されている場合でも、当該繰り越し分も含めて5日以内になります。
(3)時間単位年休1日の時間数(労働基準法施行規則24条の4第1号)
1日分の年次有給休暇が、何時間分の時間単位年休に相当するかを定める必要があります。これは、対象労働者の所定労働時間数を基に定めることになりますが、所定労働時間数に1時間に満たない時間数がある労働者にとって不利益にならないようにする観点から、時間単位に切り上げて計算します。
たとえば、所定労働時間が7時間45分で5日分の時間単位年休を与える場合は、7時間45分を8時間に切り上げます。その結果、時間単位年休は40時間(8時間×5日=40時間)となります。
(4)1時間以外の時間を単位とする場合の時間数(労働基準法施行規則24条の4第2号)
時間単位年休の取得単位を1時間以外の時間単位とする場合は、2時間、3時間など、その時間数を規定します。
労働基準法施行規則24条の4第2号において、「1日の所定労働時間数に満たないものとする」とあるのは、1日の所定労働時間数と同じまたはこれを上回る時間数を取得単位にすることは、時間単位年休の取得を事実上不可能にするものであることから、そのような労使協定の定めはできないことを確認的に規定しているものです。
具体例
(1)残日数・残時間数の管理
【所定労働時間が8時間で、20日の年休があり、時間単位で5日まで取得できるとしている場合】
残日数 (うち時間単位で取得可能な日数) |
残時間数 | |
---|---|---|
最初 | 20日(5日) | |
3時間の年休取得 | 19日(4日) | 5時間 |
1日の年休取得 | 18日(4日) | 5時間 |
6時間の年休取得 | 17日(3日) | 7時間 |
5時間の年休を5回取得 | 14日(0日) | 6時間 |
14日の年休を取得 | 0日 | 6時間 |
6時間の年休取得 | 0日 | 0時間 |
(2)繰越しについて
導入・運用上の注意点
時間単位年休を導入、運用するうえでの注意点 2 3 は以下のとおりです。
(1)賃金(労働基準法39条7項)
時間単位年休の1時間分の賃金額は、①平均賃金、②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、③標準報酬日額に相当する金額(これは、健康保険法40条1項に規定する標準報酬月額の30分の1に相当する金額をいいます。ただし、この場合、労使協定の締結が必要となります)をその日の所定労働時間で除した額になります。①~③のいずれにするかは、就業規則等に定めることが必要です。
(2)時季変更権との関係(労働基準法39条5項)
時間単位年休についても、使用者の時季変更権の対象となります。
もっとも、時季変更権は、年休の取得「時季」を変更するものであるため、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、その反対は、認められません。
また、事業の正常な運営を妨げるか否かは、労働者からの具体的な請求について個別的、具体的に客観的に判断されるべきものであり、あらかじめ労使協定において時間単位年休を取得することができない時間帯を定めておくことや、所定労働時間の中途に時間単位年休を取得することを制限すること、1日において取得することができる時間単位年休の時間数を制限することは、認められません。
参照:「年次有給休暇に関する基本的な留意点」
(3)計画年休との関係
時間単位年休は、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与える制度であるため、時間単位年休を計画年休(労働基準法39条6項)の対象とすることはできません。
(4)時間単位年休を取得できる事業場からできない事業場へ異動した場合
労働者の年休取得の権利が阻害されないように、異動の際は日単位に切り上げる等の措置を労使間で協議して定めておくことが考えられます。
(5)半日単位の年次有給休暇との関係
時間単位年休の導入以前から、半日単位(午前・午後で区分または所定労働時間の2分の1が想定されます)での年次有給休暇についても、年休取得の促進に資することから、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意し、かつ、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取り扱うものとする、とされていました 4 。
もっとも、半日単位の年次有給休暇は、時間単位年休とは区別されるものであり、年次単位年休を導入した平成22年4月施行の改正労働基準法においても、その取扱いに変更はありません。また、半日単位の年次有給休暇を取得しても、時間単位で取得できる時間数に影響を与えるものではありません。
まとめ
時間単位年休によって、多様化する労働者の働き方のニーズにあわせて年休を小刻みに取得し、労働から解放された自由な余暇時間を享受することで、年休の消化率の改善とワークライフバランスの向上が図られることが望まれます。
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厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(基発第0529001号平成21年5月29日)労働基準局長通達11-14頁 ↩︎
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厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(基発第0529001号平成21年5月29日)労働基準局長通達11-14頁 ↩︎
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厚生労働省「改正労働基準法のあらまし」23-27頁 ↩︎
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労働省(当時)「年次有給休暇の半日単位の付与について」(基監発第33号平成7年7月27日)通達 ↩︎

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