セクハラの判断基準と企業が対応するべきこと
人事労務社内でセクハラを防ごうという動きがあるのですが、どのようなことをするとセクハラになるのでしょうか。職場において男性社員が女性社員を食事に誘うことはセクハラになるのでしょうか。また、会社としてどのような対応を検討するべきでしょうか。
セクハラ(セクシュアルハラスメント)は、一般的には相手方の意に反する性的な言動を意味します。職場であってもなくても、男性が女性を食事に誘うことは、具体的には個別判断になりますが、たとえば、断られても何度も誘うような場合にはセクハラになる可能性が高いと考えられます。
職場におけるセクハラについては、男女雇用機会均等法上、対価型セクハラと環境型セクハラという2つの類型に整理され、当該類型にあたるセクハラについて事業主に対応措置を講ずることが義務づけられています(男女雇用機会均等法11条1項)。
解説
※本QAの凡例は以下のとおりです。
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律:男女雇用機会均等法
- 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号):指針
- 「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号):通達
セクハラとは
セクハラの概念については、多様な観点があり一定していませんが、一般的には相手方の意に反する性的な言動を意味します。
このうち、労務管理上問題となる「職場におけるセクハラ」について、男女雇用機会均等法では、次の2つの類型として整理されています(指針。なお、本稿においては、男女雇用機会均等法上のセクハラについて論述します)。
対価型セクシュアルハラスメント | 職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること |
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環境型セクシュアルハラスメント | 職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること |
出典:「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 (平成18年厚生労働省告示第615号) |
ここでいう「性的な言動」とは「性的な内容の発言」および「性的な行動」を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を意図的に流布すること、性的冗談、からかい、食事・デート等への執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと等が含まれ、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画(ヌードポスター等)を配布、掲示すること、強制わいせつ行為、強姦等が含まれます(指針および通達)。
なお、セクハラには、男性から女性に対するものだけでなく、女性から男性に対するものおよび同性に対して行われるものも含まれます。
セクハラの判断基準
「性的な言動」がどのようなものか、また、どのような場合に「就業環境に支障が生じる」ことになるのかについて、通達は、「労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となること(後述します)を考えると一定の客観性が必要である」としています。さらに、「具体的には、セクシュアルハラスメントが男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には『平均的な女性労働者の感じ方』を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には『平均的な男性労働者の感じ方』を基準とすることが適当である」としています。
また、通達は、「就業環境の支障」について、一般的には意に反する身体的接触によって精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境に支障が生じることになり得、継続性または繰り返しが要件となるものであっても、明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態または心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合には、就業環境に支障が生じていると判断し得るとしています。
事業主の講ずべき措置
男女雇用機会均等法は、事業主は、職場においてセクハラが発生しないよう、また発生した場合に適切に対応できるよう、「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定し(男女雇用機会均等法11条1項)、これを受けて、指針において事業主の講ずべき10項目の措置が定められています。
(1)事業者の方針の明確化およびその周知・啓発 |
① | セクハラの内容、それがあってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発 | |
② | 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発 | ||
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
③ | 相談窓口の設置 | |
④ | 相談に対する適切な対応 | ||
(3)職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応 |
⑤ | 事実関係の迅速かつ正確な確認 | |
⑥ | 被害者に対する適正な配慮の措置の実施 | ||
⑦ | 行為者に対する適正な措置の実施 | ||
⑧ | 再発防止措置の実施 | ||
(4)上記(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置 |
⑨ | 当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知 | |
⑩ | 相談、協力等を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の定めと周知・啓発 | ||
出典:「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 (平成18年厚生労働省告示第615号) |
おわりに
どのようなことがセクハラになるか、どこまでやったらセクハラなのかは、具体的には個別判断にならざるをえませんが、セクハラの発生を防ぐため、あるいはコミュニケーションに不必要な委縮が生じることを避けるためには、事例を数多く把握し、役員従業員に具体的に周知、啓発する等の措置を取っていくことが重要です。
これに関しては、厚生労働省の「セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ」や、少し古いですが、法務省の「企業における人権研修シリーズ セクシュアル・ハラスメント」が、具体例や対応措置について分かりやすく記載されており、非常に参考になると思います。
また、具体例については、公的組織内部向けのものではありますが、人事院のセクハラ確認チェック(「セクシュアル・ハラスメントとは」)も参考になると思います。

三宅坂総合法律事務所
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