新聞記事をコピーして社内で利用することの問題点

知的財産権・エンタメ

 私の会社では、社内ミーティングの際に業務に関係する新聞記事を参考資料としてコピーして配布したり、当社の商品が紹介された新聞記事をコピーしてファイルし、営業活動に利用しています。いずれもコピーの部数は10部以内と少ないのですが、このような利用は許されるでしょうか。

 著作権法には、私的使用目的であれば、使用する本人は、著作権者の許諾を得なくても著作物のコピー・写真撮影・録音・録画・翻案などができるという規定がありますが、業務上のコピーは私的使用目的にはあたらないと一般的に考えられています。検討目的での利用や引用などの場合には許諾は不要ですが、利用が認められていない場合には許諾を得て利用するようにしましょう。

解説

目次

  1. 新聞記事の著作物性
  2. 著作権法の権利制限規定
  3. 私的使用のための複製(著作権法30条1項)
  4. 本件で適用される可能性のあるその他の権利制限規定
    1. 許諾を得る検討の過程における利用(著作権法30条の3)
    2. 引用(著作権法32条1項)
  5. 許諾を得る方法

目次

  1. 新聞記事の著作物性
  2. 著作権法の権利制限規定
  3. 私的使用のための複製(著作権法30条1項)
  4. 本件で適用される可能性のあるその他の権利制限規定
    1. 許諾を得る検討の過程における利用(著作権法30条の3)
    2. 引用(著作権法32条1項)
  5. 許諾を得る方法

新聞記事の著作物性

 客観的な事実や事象はそれ自体では著作物として保護されていないため、「いつ、どこで、誰が、何をした」という事実の骨子のみが記述されているようなごく短い新聞記事であれば、創作性がなく著作物として保護されない場合もあります。

 しかし、ある程度の長さを持つ記事であれば、たとえ客観的に事実を伝えることのみが目的であっても、素材の選択や、事実の配列、表現などに著作者の創作的な工夫が発揮されており、著作物として保護される可能性が高いでしょう。したがって、客観的な事実のみを伝える新聞・雑誌等の記事であっても、基本的に著作物として保護されていると考えておくことが必要です。

 参考:「著作物にあたらないものの種類と、利用をする際の注意点

著作権法の権利制限規定

 著作権法には多くの権利制限規定が設けられており(著作権法30条ないし50条)、一定の場合には、著作権者等に許諾を得ることなく著作物に利用できることが規定されています。現時点では、日本の著作権法には米国著作権法のフェアユース規定のように汎用性のある包括的な条文はないため、権利制限の適用を受けるためには、特定の権利制限条項の要件を充足することが必要になります。

私的使用のための複製(著作権法30条1項)

 著作権法30条1項は、私的使用目的のための複製は権利者の許諾を得なくても可能であると規定しています。私的使用目的であれば、使用する本人は、著作物のコピー・写真撮影・録音・録画・翻案などができます。著作権法30条1項によってコピー行為が許容されるための要件は以下の2つです。

(1)私的使用を目的とすること
(2)複製の手段が、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」によるものでないこと


 私的使用の意味について、「少数のコピーなら大丈夫」と考えている人も多いようですが、著作権法の条文が定める「私的使用」の範囲は「個人的又は家庭内その他これに準じる限られた範囲」という狭いものであり、たとえ1部のみのコピーであっても、業務上のコピーは私的使用目的にはあたらないという見解が、判例・通説と言われています(舞台装置設計図事件・東京地裁昭和52年7月22日判決 ・無体集9巻2号534頁)など)。

私的使用のための複製

 新聞記事を切り抜いて回覧する場合には記事の複製行為がないので本条の問題にはなりませんが、コピーして配布する場合は原則として許諾を得る必要があることになります。

 ちなみに、私的使用目的であれば著作物の翻訳・編曲・変形・翻案を行うことも可能ですが、公衆送信(アップロード)には適用がないことに注意してください。私的使用目的で新聞記事を写真撮影することはできますが、これをSNSにアップしたりすると、公開の規模にもよりますが、原則として著作権(公衆送信権)を侵害することになります。新聞記事を紹介したい場合は、ネット上の正式な記事にリンクを貼ったり、twitterの「公式リツイート」、Facebookの「シェア」などを活用するか、4-2に述べる「引用」にあたるような方法で行うようにしましょう。

 なお、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」というと、たとえ私的利用目的でも、コンビニエンスストアに置いてあるコピー機を利用してコピーすることはダメなのか、と思ってしまいますが、著作権法附則5条の2は、この点について「当分の間、これらに規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする」と規定されており、コピー機は、「専ら文書又は図画の複製に供するもの」に該当するため、問題ないと考えられます。ちなみに、自動複製機器とは、ビデオデッキなど、複製の機能を有し、その機能に関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器を意味します。もし、レンタルビデオ店に、DVDを自動的にリッピングしたりコピーを焼いたりできる装置が置いてあれば、そのような機器を利用してコピーを複製することは、たとえ私的利用目的でも違法ということになります。

本件で適用される可能性のあるその他の権利制限規定

許諾を得る検討の過程における利用(著作権法30条の3)

 新聞記事をプレスリリースや商品パンフレットの中で使用したいと考えている場合、必ずしも社内の検討段階で著作権者の許諾を得ておく必要はありません。プレスリリースやパンフレットの内容が確定して社内で承認されてから許諾を得ようと考えているのであれば、プレスリリースやパンフレットの内容検討のために必要と認められる限度において新聞記事を利用することが可能です。ただし、検討の目的を超えて使用したり、許諾がないまま実際に使用すると著作権侵害となるので、社内の関係者で情報を共有しておく必要があります。

引用(著作権法32条1項)

 新聞記事の利用の方法によっては、「引用」として記事の利用が認められる可能性もあります。「引用」に該当するためには、①公表された著作物を使用していること、②「公正な慣行」に合致すること、③報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること、が必要とされています。

 その他、過去の裁判例では、④主従性(自己の著作物が主であり、引用された著作物が従であること)や、⑤明瞭区分性(引用部分が明瞭に区別されていること)が必要とされてきましたが、知財高裁は、美術鑑定書事件知財高裁平成22年10月13日判決・判時2092号135頁)において、「引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要」と述べたうえで、引用の成否は、(1)利用の目的、(2)方法、(3)態様、(4)利用される著作物の種類や性質、(5)利用される著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない、と判示しました。今後は、このような総合的な判断手法がスタンダードになっていく可能性が高いと思われます。

許諾を得る方法

 業務上の目的でコピーする場合には原則として許諾が必要、と言われても、コピーのために毎回権利者を捜して連絡をとって許諾を得ることには負担を感じる人が多いでしょう。このような場面における権利処理を行う団体として、「公益社団法人日本複製権センター(JRRC)」があります。(1)日本国内の著作物でJRRCが管理している著作物であり、(2)譲渡を目的としない複製やファックス送信など所定の利用形態であって、対象範囲が小部分・少部数であれば、著作権者から個別の許諾を得ることなくJRRCとの契約で一括して権利処理ができるという仕組みです。毎回許諾を得る労力を考えれば、特に企業にとっては利用価値のある制度といえるでしょう。

 なお、ビジネス上の利用頻度が高い日本経済新聞はJRRCの管理外ですが、ビジネス上で日本経済新聞の記事を利用する場合について独自のサービス(記事利用・リプリントサービス)を提供しています(参照:日本経済新聞「記事利用・リプリントサービスのご案内」)。

 これらのサービスも上手に利用して、著作物を適切に利用することを心がけてください。

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