チャリティコンサートでも著作権使用料を支払う必要があるか
知的財産権・エンタメ大きな災害の被災地のために会社として何かできないかと思い、チャリティコンサートを企画しました。出演するアーティストと司会者には「お車代」のみを支払い、入場料収入はすべて被災地の自治体に寄付する予定です。コンサートの中で各アーティストが多くの曲を演奏しますが、非営利目的の上演・演奏なので著作権使用料を支払う必要はない、と考えて良いでしょうか。
観客から入場料を受け取る場合、チャリティコンサートとはいえ、著作権法上の「営利を目的としてない上演等」(著作権法38条1項)にはあたらず、著作権の処理については、基本的に通常のコンサートと同様に考える必要があります。ただし、入場料をとるチャリティコンサートでも、JASRACなどの著作権管理事業者が特別の使用料減免措置を設けている場合があるので確認してみましょう。
解説
目次
著作権法の権利制限規定
著作権法には多くの権利制限規定が設けられており(著作権法30条ないし50条)、一定の場合には、著作権者等に許諾を得ることなく著作物に利用できることが規定されています。現時点では、日本の著作権法には米国著作権法のフェアユース規定のように汎用性のある包括的な条文はないため、権利制限の適用を受けるためには、特定の権利制限条項の要件を充足することが必要になります。
営利を目的としない上演等(著作権法38条1項)
営利を目的としない上演等が認められる条件
コンサートで演奏される音楽の楽曲や歌詞は著作物です。これを不特定または多数の人々の前で演奏する行為は著作権法上の「演奏」にあたりますので、基本的にはJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)などを通じて利用許可の手続をとる必要があります(著作権法22条)。
もっとも、著作権法には、「営利を目的としない上演・演奏等」は許可なく行えるという規定(著作権法38条1項)があります。学校の文化祭などで生徒のバンドが楽曲を演奏する時に音楽使用料を支払わないで済んでいるのは、この規定があるためです。
これを読んでいる方は、チャリティコンサートならば、当然「営利を目的としない上演・演奏等」にあたる、と思うかもしれません。しかし「営利を目的としない上演等」として認められるための要件は意外と厳しく、
- 営利を目的としない
- 聴衆・観衆から料金を徴収しない
- 実演家に報酬が支払われない
という条件をすべて満たす必要があります。
営利を目的としないこと
営利目的で存在している会社がチャリティコンサートを実施する場合、そもそも「営利目的でない」といえるのか、という問題があります。
たしかに、企業名が特に目立つ形でコンサートの広告を打ったり、コンサート会場で主催企業の商品やサービスを紹介している場合は、チャリティコンサートと銘打っていても営利性が認められる可能性が十分にあるでしょう。
一方で、公演を実施する主体が個人や非営利団体ではない一般企業が主催する場合であっても、特に会社の宣伝目的などが見られず、被災地支援の目的が明確であるならば、「営利目的でない」と認めてよいように思われます。
聴衆・観衆から入場料を徴収しないこと
設問のように、たとえ入場料収益を全額寄付するとしても、観客から入場料を徴収する場合には、「営利を目的としない上演等」にはあたりません。会場内に募金コーナーが設けられていたり、コンサートの前後に参加アーティストが募金箱を持って観客に募金を呼びかけたりするものの、観客がコンサートを聴くことに対して直接の対価を支払う必要がないような仕組みにすれば、「入場料を徴収しない」という要件をクリアできると思われます。
出演者に報酬が支払われないこと
名目はどうであれ、出演者に報酬が支払われる場合は「営利を目的としない上演等」にはあたりません。「お車代」という名目にしても、交通費などの実費と比較して高額の金銭を出演者に支払う場合には、報酬とみなされる可能性があるので注意が必要です。交通費を支払う場合には、実費精算にするか、想定される実費を過度に上回らない金額を渡すようにしましょう。
その他の注意点
チャリティコンサートが、著作権法上の「営利を目的としない上演等」に該当する場合であっても、この規定によって許諾を得ずに行うことが認められている行為は、「公に上演、演奏、上映、口述すること」に限られます。コンサートの模様をテレビ番組として放送したり、企業のホームページにアップしたりすることは条文の適用範囲外です。
また、すでにある楽曲の歌詞を変えて被災地応援ソングを作ったりする行為も、権利者の許諾を得ていない場合には著作権や著作者人格権を侵害することになるので、注意が必要です。
著作権管理団体による減免措置の可能性
音楽については、JASRACなどの著作権管理団体が、被災地支援のために使用料の減額や免除といった特例措置を設けている場合があります。著作権法上の「営利を目的としない上演等」にあたらない場合であっても、何らかの特例措置が認められないか確認してみることをお勧めします。

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