役員報酬に関する開示

コーポレート・M&A
村松 頼信弁護士 祝田法律事務所

 役員報酬についてどのような開示を行う必要がありますか。

 役員の報酬等に関する開示事項は、株主総会参考書類、事業報告または有価証券報告書によって異なっており、各根拠規定に照らして記載事項を検討する必要があります。株主総会に役員の報酬等に関する議案が付議された場合の説明義務の範囲は、これらの書面の記載事項が一応の基準となります。また、コーポレートガバナンス・コードに沿って取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するにあたっての方針と手続を決定した場合も一定の開示が必要となります。

解説

目次

  1. 株主総会に役員報酬に関する議案を上程する場合、どのような開示や説明が求められるか?
    1. 株主総会参考書類の記載事項
    2. 事業報告の記載事項
    3. 有価証券報告書の記載事項
    4. 株主総会における説明義務の範囲
  2. コーポレートガバナンス・コードに関連して、役員報酬に関してどのような開示が必要となるか?

株主総会に役員報酬に関する議案を上程する場合、どのような開示や説明が求められるか?

 株主総会に役員の報酬等に関する議案が付議する場合、株主総会参考書類での記載事項および株主総会での取締役の説明義務の内容は以下の1-1および1-3のとおりです。また、そうした場合に限らず、事業報告では以下の1-2の事項を記載する必要があります。

株主総会参考書類の記載事項

 株主総会参考書類には、以下を記載する必要があります。

  1. 報酬等の算定の基準
  2. 議案が既に定められている報酬額、算定方法または報酬等の内容を変更するものであるときは、変更の理由
  3. 取締役の員数
  4. 退職慰労金に関する議案であるときは、退職する各取締役の略歴
  5. 監査等委員会設置会社である場合において、監査等委員会の意見があるときは当該意見の概要

 上記1報酬等の算定の基準としては、どのような判断過程をたどって報酬議案に記載された報酬等が算定されたのかを理解できる程度の内容とする必要があります(会社法施行規則82条1項)。
 また、社外取締役に関する上記1~3の事項は、社外取締役以外の取締役と区別して記載する必要があります(会社法施行規則82条3項)。
 さらに、監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とで報酬等に関する議案を区別する必要があることから(会社法361条2項)、上記1~5の事項の記載も区別する必要があります(会社法施行規則82条の2)。

事業報告の記載事項

 事業報告には、当該事業年度において役員に支払われた報酬等を、取締役および監査役ごとに区分してそれぞれの総額と員数を記載するとともに、当該事業年度において支給されまたは支給される見込みの額が明らかとなった報酬等も記載する必要があります(会社法施行規則121条4号・5号)。
 また、各会社役員の報酬等の額またはその算定方法に係る決定に関する方針を定めているときは、当該方針の決定の方法およびその方針の内容の概要も記載する必要があります(会社法施行規則121条6号)。
 なお、使用人兼務取締役の使用人としての給与等については、原則として事業報告への記載は不要ですが、使用人分給与等が多額である場合には、会社役員に関する重要な事項(会社法施行規則121条11号)として記載することが求められます。

有価証券報告書の記載事項

 有価証券報告書の記載事項は、上記1-2の事業報告の記載事項とおおむね同様であり、最近事業年度に支給され、または支給される見込みの額が明らかとなったものについて、取締役、監査役および社外役員の区分ごとに報酬等の総額、報酬等の種類別(基本報酬、ストックオプション、賞与および退職慰労金等の区分)の総額および対象となる役員の員数を記載する必要があります。
 また、主要な連結子会社の役員としての報酬等も含めた報酬等の総額が1億円以上である役員については、氏名、役員区分、報酬等の総額および報酬等の種類別の額を記載する必要があります。
 使用人兼務取締役の使用人としての給与のうち重要なものがある場合は、総額、対象となる役員の員数および内容を記載する必要があります。
 役員の報酬等の額または算定方法の決定に関する方針を定めている場合には、当該方針の内容および決定方法を記載し、そうした方針を定めていない場合にはその旨を記載する必要があります。

株主総会における説明義務の範囲

 株主総会では、金額が確定していない報酬等(業績連動型報酬など)、金銭ではない報酬等(ストックオプションなど)を新設・改定する場合、それらの新設・改定に関する議案を株主総会に上程した取締役は、その算定方法を相当とする理由を説明する必要があります(会社法361条4項)。
 また、株主総会で、株主から役員の報酬等に関連する質問がされた場合、説明義務の範囲は上記1-1の株主総会参考書類、1-2の事業報告の記載事項および1-3の有価証券報告書の記載事項に加えて、金額が確定していない報酬等や金銭ではない報酬等の相当性に関する説明義務が一応の基準となり、それに付随して、報酬体系の基本方針やその概要、報酬水準の概括的な内容についても説明義務の範囲に含まれると考えられます。
 なお、個別の役員の報酬額については説明義務の範囲に含まれませんが、上記1-3のとおり、有価証券報告書で個別の報酬等の金額が開示される役員については回答することも考えられます。

コーポレートガバナンス・コードに関連して、役員報酬に関してどのような開示が必要となるか?

 コーポレートガバナンス・コードでは、会社の意思決定の透明性・公平性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するにあたっての方針と手続を開示することが求められています(原則3-1.(ⅲ))。こうした経営陣幹部・取締役の報酬等についての決定方針・手続を定めた場合には、以下の各開示が必要となります。

  1. 事業報告において、報酬等の方針の決定の方法および方針の内容の概要に記載する必要があります(会社法施行規則121条6号)。

  2. 有価証券報告書において、報酬等の方針の内容と決定方法を記載し、報酬等の方針の内容および決定方法を定めていない場合にはその旨を記載する必要があります。

 また、報酬等の決定方針・手続を定めた場合には、コーポレートガバナンス・コードの原則3-1.(ⅱ)で要求されている「コーポレートガバナンスの基本方針」の中で、報酬等についての決定方針と手続の概要を明記することも考えられます。

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