指名委員会等設置会社における監査委員および監査委員会の職務
コーポレート・M&A会社法には、指名委員会等設置会社における監査委員と監査委員会の職務として、どのようなものが規定されていますか。
会社法においては、指名委員会等設置会社における監査委員会の職務として、①執行役および取締役の職務執行の監査および監査報告の作成、②会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定が規定されています。監査委員会が行う執行役・取締役の職務執行の監査については、内部統制システムを用いた組織的監査が想定されていますので、独任制の監査役とは異なり、監査のための権限は原則として監査委員会あるいは監査委員会が選定する監査委員が行使することとされています。もっとも、緊急を要するものなど、各監査委員が単独で行使できる権限もあります。
解説
目次
指名委員会等設置会社における監査委員会
指名委員会等設置会社においては、指名委員会・監査委員会・報酬委員会が設置されますが(会社法2条12号)、監査委員会の委員は、過半数が社外取締役であることに加え(会社法400条3項)、委員全員が会社の執行役、使用人もしくは会計参与、または子会社の業務執行取締役、執行役、使用人もしくは会計参与でないことが要求されます(会社法400条4項)。
会社法は、監査委員会の職務として、①執行役および取締役の職務執行の監査および監査報告の作成、②会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定を規定しています(会社法404条2項)。
【会社法が規定する監査委員会の職務】
このうち、①の執行役および取締役の職務執行の監査については、内部統制システムを用いた組織的監査が想定されています。そのため、指名委員会等設置会社の取締役会は、内部統制システムの整備に関する決定を行うことが義務づけられ(会社法416条1項1号ホ)、指名委員会等設置会社における取締役会は、監査委員会の求めがない場合でも、監査委員会の職務を補助すべき取締役および使用人に関する事項、その取締役および使用人の執行役からの独立性に関する事項等、監査委員会の職務の執行のために必要な事項を決定する必要があります(会社法416条1項1号ロ、会社法施行規則112条1項1号・2号)。
このように、監査委員会では、独任制の監査役とは異なり、組織的監査が想定されているため、監査のための権限は原則として監査委員会あるいは監査委員会が選定する監査委員が行使することとされています。もっとも、緊急を要するものなど、各監査委員が単独で行使できる権限も存在します。
各監査委員が単独で行使できる権限
取締役会への報告義務
監査委員は、執行役・取締役が不正の行為をし、もしくはそのおそれがあると認めるとき、または法令もしくは定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(会社法406条)。このような報告については、緊急性があることから、各監査委員の義務とされています。
執行役・取締役の違法行為の差止請求権
執行役・取締役の行為に法令・定款違反またはそのおそれがあり、その行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあるときには、監査委員はその執行役・取締役に対し行為の差止めを求めることができます(会社法407条1項)。これも緊急性に鑑みて、各監査委員の権限とされています。
執行役からの報告受領権限
執行役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合にはただちに監査委員に報告する義務があります(会社法419条1項)。このような報告を受ける権限についても緊急性があることから、各監査委員の権限とされています。
株主等からの提訴請求を受ける権限等
取締役が会社に対して訴えを提起する場合の訴状の送達先は監査委員とされ(会社法408条2項)、株主代表訴訟等の提訴請求の受領等を受ける権限は各監査委員が有するとされています(会社法408条5項)。これらが各監査委員の権限とされているのは、訴状の送達や提訴請求等を行う時点でどの監査委員が会社を代表するかが決定されていない可能性があるためです。
職務の執行に関する費用の償還請求等
監査委員は、監査委員会の職務執行に関して、支出した費用の償還等を請求することができます(会社法404条4項)。
監査委員会の権限
監査委員会の権限には、監査委員会の決議に基づき監査委員会によって行使されるものと、監査委員会が選定する監査委員によって行使されるものがあります。
監査委員会が行使する権限
(1)計算書類および事業報告ならびにそれらの付属明細書の監査、監査報告の作成
監査委員会は、事業年度ごとに計算書類および事業報告ならびにそれらの付属明細書を監査し(会社法436条2項)、監査報告を作成しなければなりません(会社法404条2項1号)。監査委員会の監査報告は、監査委員会の決議によって形成されますが(会社法412条1項)、各監査委員は、その監査報告の内容が自己の意見と異なるときは、監査報告に自己の意見を付記することができます(会社法施行規則131条1項後段、会社計算規則129条1項後段)。
(2)会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定
監査委員会は、株主総会における会計監査人選任、解任および不再任の議案の内容を決定する権限を有します(会社法404条2項2号)。
なお、会計監査人に職務怠慢、非行または心身故障があった場合には、監査委員全員の同意により、監査委員会が会計監査人を解任することができます(会社法340条6項・1項・2項)。
また、会計監査人が欠けた場合には、監査委員会が一時会計監査人を選任しなければなりません(会社法346条8項・4項)。
(3)会計監査人の報酬等の決定の同意
取締役が会計監査人の報酬等を定める場合には、監査委員会の同意を得る必要があります(会社法399条4項・1項)。
(4)執行役・取締役に対する監査委員会への出席要請
監査委員会は、執行役・取締役に対して、監査委員会への出席および監査委員会が求めた事項についての説明を要請することができ、執行役・取締役にはこれに応じる義務があります(会社法411条3項)。
(5)会計監査人からの報告受領
会計監査人は、その職務を行うに際して執行役・取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく監査委員会に報告する必要があります(会社法397条5項・1項)。
監査委員会が選定する監査委員が行使する権限
(1)業務財産調査権・子会社調査権
監査委員会が選定する監査委員は、執行役、取締役および支配人その他の使用人に対し、いつでも、その職務の執行に関する事項の報告を求めることができ、また、会社の業務および財産の状況の調査をすることができます(会社法405条1項)。
また、監査委員会が選定する監査委員は、職務遂行に必要がある場合には、子会社に対しても報告の徴収や調査を行うことができます(会社法405条2項)。
選定された委員による権限行使は、監査委員会の意思決定に従って行うことが想定されており、監査委員会の決議があるときは、これに従わなければならないとされています(会社法405条4項)。
(2)訴訟における会社の代表権限
会社と執行役・取締役(執行役・取締役であった者を含む。)との間の訴訟については、原則として、監査委員会が選定する監査委員が会社を代表する権限を有します(会社法408条1項2号)。また、会社が株式交換等完全子会社の旧株主による責任追及訴訟または最終完全親会社等の株主による特定責任追及訴訟の対象となり得る訴訟を提起する場合等についても、同様に監査委員会が選定する監査委員が会社を代表する権限を有します(会社法408条3項・4項)。
(3)会計監査人に対する報告請求権
監査委員会が選定した監査委員は、その職務を行うために必要があるときは、会計監査人に対し、その監査に関する報告を求めることができます(会社法397条5項・2項)。
(4)会計監査人の解任の報告等
前記3-1(2)のとおり、会計監査人に職務怠慢、非行または心身故障があった場合には、監査委員全員の同意により、監査委員会が会計監査人を解任することができますが(会社法340条6項・1項・2項)、かかる解任を行った場合には、監査委員会が選定した監査委員が、その旨および解任の理由を解任後最初に招集される株主総会で報告する必要があります(会社法340条6項・3項)。
監査委員会が行使する権限 | 監査委員会が選定する監査委員が行使する権限 |
---|---|
|
|
監査委員全員の同意を要する場合
取締役等の会社に対する責任の一部免除等
執行役・取締役(監査委員を除く)・特定責任に関する完全子会社等の取締役等の会社に対する責任を一部免除する場合等には、監査委員全員の同意を要します(会社法425条3項3号、426条2項、427条3項)。
会計監査人に職務怠慢、非行または心身故障があった場合の解任
会計監査人に職務怠慢、非行または心身故障があった場合には、監査委員会が会計監査人を解任することができますが(会社法340条6項・1項)、かかる解任には監査委員全員の同意が必要とされています(会社法340条6項・2項)。
株主代表訴訟・特定責任追及訴訟において会社が被告取締役等に補助参加することの同意
株主代表訴訟において被告取締役(監査委員を除く。)・執行役を補助するため、または株式交換等完全子会社の旧株主による責任追及訴訟もしくは最終完全親会社等の株主による特定責任追及訴訟において株式交換等完全子会社・完全子会社等の取締役・執行役を補助するために、会社がこれらの訴訟に補助参加する場合には、監査委員全員の同意が必要とされています(会社法849条3項3号)。

弁護士法人大江橋法律事務所
- コーポレート・M&A
- 事業再生・倒産
- 危機管理・内部統制
- 競争法・独占禁止法