パートタイム労働者の正社員への転換を推進する措置

人事労務
鷲野 泰宏弁護士 丸の内総合法律事務所

 事業主に義務付けられているパートタイム労働者の正社員への転換を推進する措置ですが、具体的に誰に対しどのような措置を講ずればよいのかわかりません。必要とされる措置の具体的内容を教えてください。
 また、正社員というからにはフルタイムの正社員でなければならないのでしょうか。

 パートタイム労働法13条では、パートタイム労働者から正社員への転換を推進するため、すべてのパートタイム労働者(アルバイト契約、パート契約、嘱託再雇用契約などの契約態様を問わない)に対し、以下の4つのいずれかの措置を講じることが事業主に義務付けられています。

  1. 正社員募集時における募集内容の周知
  2. 正社員のポストの社内公募時における応募機会の付与
  3. 正社員へ転換するための試験制度の構築
  4. その他の正社員への転換の推進措置

 また、ここでいう正社員には、いわゆるフルタイム正社員のみならず、ショートタイム正社員(短時間正社員)も含まれます。

解説

目次

  1. 措置の具体的内容について
    1. ①正社員募集時における募集内容の周知
    2. ②正社員のポストの社内公募時における応募機会の付与
    3. ③正社員へ転換するための試験制度の構築
    4. ④その他の正社員へ転換の推進措置
  2. 措置の対象となるパートタイム労働者とは
  3. 転換の対象となる正社員とは

※本QAの凡例は以下のとおりです。

  • パートタイム労働法:短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律


措置の具体的内容について

①正社員募集時における募集内容の周知

 事業主が講ずべき措置とされている1つめは、正社員の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用するパートタイム労働者に周知することです(パートタイム労働法13条1号)。
 応募の機会を付与することが目的ですので、パートタイム労働者に募集内容を周知すれば足り、実際に応募したパートタイム労働者を採用するか否かについては、事業主の判断に委ねられます。また、周知の方法も、パートタイム労働者が募集期間経過までに知ることのできるものであれば、特に限定されていません。

 ただし、周知したのみで応募を受け付けないとか、新卒者のみならずパートタイム労働者にも応募資格があることが容易にわからない方法で周知するなど実質的に応募の機会を付与したとは認められないような場合には、この措置を講じたとは認められないものと思われます。

②正社員のポストの社内公募時における応募機会の付与

 事業主が講ずべき措置とされている2つめは、正社員のポストへの配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用するパートタイム労働者に応募する機会を付与することです(パートタイム労働法13条2号)。
 応募の機会を付与することが目的ですので、正社員のポストの社内公募時にパートタイム労働者にも応募資格を付与すれば足り、実際に応募したパートタイム労働者を採用・配置するか否かや、パートタイム労働者を正社員に優先して採用・配置することまで義務付けられているものではありません

 ただし、パートタイム労働者であることのみをもって採用・配置の選考から外すなど実質的に応募の機会を付与したとは認められないような場合には、この措置を講じたとは認められないものと思われます。

③正社員へ転換するための試験制度の構築

 事業主が講ずべき措置とされている3つめは、一定の資格を有するパートタイム労働者を対象とした正社員への転換のための試験制度を設ける措置です(パートタイム労働法13条3号前段)。
 いわゆる登用試験を設ける措置であり、正社員登用の機会を付与することが目的ですので、一定の資格としては、勤続年数であるとか、職務に必要となる専門資格であるとか、社内外における客観的な成果などが想定されます。

 ただし、以下のような場合には、この措置を講じたとは認められないものと思われます。

  • 著しく長い勤続年数としたり、正社員でも保有していないような専門資格を必要としたりするなど、必要以上に制限的な資格を定めることで当該資格を満たすパートタイム労働者が出てこないような場合
  • 登用試験の内容が必要以上に厳しい内容となり合格するパートタイム労働者が出てこないような場合

④その他の正社員へ転換の推進措置

 事業主が講ずべき措置とされている4つめは、①~③以外の正社員への転換を推進するための措置です(パートタイム労働法13条3号後段)。
 正社員への転換を推進するためのものであれば上記①~③の措置以外の措置であっても構わないことになります。たとえば、正社員として必要な能力を獲得するための教育制度(社内での教育訓練プログラムの構築のほか、社外で実施される教育訓練プログラムへの参加費用の負担などを含む)を構築することなどが想定されます。

 ただし、新卒者以外に正社員を採用しないなどいかなる教育制度を構築しても正社員となる機会が付与されることがないような事業所の場合には、この措置を講じたとは認められないものと思われます。

措置の対象となるパートタイム労働者とは

 パートタイム労働法13条においては、措置の対象となるパートタイム労働者制限を設けていません。このため、パートタイム労働者である限り、アルバイト契約であるとか、パート契約であるとか、嘱託再雇用契約であるなどの契約態様は問われません

 参考:「パートタイマーとはどのような労働者をいうか

転換の対象となる正社員とは

 パートタイム労働法13条においては、「通常の労働者」(いわゆる正社員)への転換を推進する措置を講ずることを事業者に義務付けています。ここでいう「通常の労働者」とは、「正社員」などいわゆる正規型の労働者が配置されていればその者が該当し、正規型の労働者がいない場合には、フルタイムの基幹的労働者が該当することになります。

 正規型の労働者であれば「通常の労働者」と認められますので、必ずしもフルタイムの勤務態様である必要はなく、たとえば、最近になって採用事例の増えてきたいわゆるショートタイム正社員(短時間正社員)も、正規型の労働者である以上、「通常の労働者」と認められます。なおここでいう短時間正社員とは、他の正規型のフルタイムの労働者と比較し、その所定労働時間が短い正規型の労働者であって、次のいずれにも該当する者であるとされています。

ア 期間の定めのない労働契約を締結している者

イ 時間当たりの基本給および退職金等の算定方法等が同一事業所に雇用される同種のフルタイムの正規型の労働者と同等である者

 詳細は、厚生労働省のパート労働ポータルサイト「短時間正社員制度導入支援ナビ」をご参照ください。

短時間正社員の仕組み

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