株式移転とはどのような手法か、またどのような場面で用いられるか

コーポレート・M&A

当社は同業種のA社との間で、経営の効率化を図るために統合を検討しています。一方で、社風や賃金体系等も少なからず違うことから、現時点で合併して1つの会社となることにも抵抗があります。どのような方法が考えられるでしょうか。

共同株式移転の方法によることが考えられます。株式移転とは、ある会社がその発行済株式の全部を新たに設立する会社に取得させること、いわゆる持株会社を設立することをいい、2社以上の会社が共同で親会社を設立することを共同株式移転といいます。株式移転の場合は、その株主が変更となるだけで、事業やその権利・義務等について直接的な変動は生じませんので、一定の独立性を確保した上で経営統合を行うことができます。

解説

目次

  1. 株式移転の意義
  2. 株式移転が用いられる局面
    1. 経営統合目的としての株式移転
    2. 持株会社(ホールディングカンパニー)体制移行目的としての株式移転

株式移転の意義

 株式移転とは、一または二以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる会社法上の組織再編行為をいいます(会社法2条32号)。すなわち、完全親子会社関係を実現するための組織再編行為です。
 株式交換も、株式移転同様、完全親子会社関係を実現するための組織再編行為ですが、株式移転の場合は、完全親会社となる会社が新たに設立される会社であるのに対し、株式交換の場合は、完全親会社となる会社が既存の会社である点が異なります。

 なお、株式交換については「株式交換とはどのような手法か、またどのような場面で用いられるか」をご参照ください。

株式移転が用いられる局面

 株式移転とは、設例のように複数の会社が経営統合を行う場合の他、持株会社(ホールディングカンパニー)体制に移行するために用いられるケースが多く見られます。

経営統合目的としての株式移転

 設例のように、株式移転の方法により複数の会社が両社の完全親会社となる会社を設立し、この持株会社が両社の経営をコントロールすることにより経営統合を図るケースがあります。このように複数の会社を当事者とする株式移転を共同株式移転と言います。
 経営統合の手法として合併が用いられることもありますが、合併の場合X社およびY社が1つの会社に統合する(新設合併の場合は新たな会社が設立され、吸収合併の場合はX社またはY社いずれかが存続会社となります)のに対し、株式移転による経営統合の場合X社およびY社の完全親会社としてZ社が設立されZ社がX社およびY社の発行済株式の100%を保有することとなり、X社およびY社の会社組織そのものには変更がないため、一定程度の独立性を維持することが可能となります。イメージ図は下記の通りです。

経営統合目的としての株式移転

持株会社(ホールディングカンパニー)体制移行目的としての株式移転

 たとえば、子会社を複数有する事業会社が単独で株式移転を行い、持株会社(ホールディングカンパニー)を設立し、この持株会社の傘下に事業会社を集約するという目的で株式移転が行われるケースも多く見受けられます。この場合、前記の経営統合目的としての株式移転の場合と異なり、1つの株式会社による株式移転単独株式移転)として行われることが一般的です。イメージ図は下記の通りです。

持株会社(ホールディングカンパニー)体制移行目的としての株式移転

 このような持株会社体制への移行は、資金調達、M&A、新事業展開等についてのグループ全体の経営戦略の策定および経営管理の機能に特化した会社を持株会社とし、その傘下の事業会社を事業遂行に集中させ、経営効率を向上させることを主たる目的として行われます。したがって、上記の図のように、株式移転後において、グループ会社である事業会社の株式を持株会社に全て集約し、持株会社に子会社管理業務を集中させるケースも少なからず見受けられます。また、持株会社および数社の中核会社により子会社管理業務を行うケースもあります。

 なお、かかる持株会社体制移行目的での株式移転は、多数の子会社を保有する上場会社が行う例も多く見受けられます。この場合、この上場会社の既存株主には、株式移転により新たに設立される株式会社の株式が割り当てられることとなります。株式移転により新たに設立される株式会社は本来であれば非上場会社として原則通り新規上場の審査を受けて上場基準をクリアすることが必要ですが、このような株式移転の場合、簡易な手続による上場(いわゆるテクニカル上場)が認められています。

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