公開買付けが強制される取引

ファイナンス
山川 和也弁護士 弁護士法人北浜法律事務所

 公開買付け(TOB)が必要となる取引には、どのようなものがありますか。

 公開買付け(TOB)制度の主な趣旨は、特定の株主が会社の支配権を獲得することで、少数株主が不利益を受けることを防止するとともに、適切な情報開示を行い、公平な売却の機会を確保することで株主間の平等を図ることにあります。よって、買付け等※1を行った株主の株券等所有割合※2が5%や3分の1を超える場合など、会社の経営や株価形成に一定の影響力を持つことになる場合には、他の株主にも情報を共有し、売却機会を提供する必要が生じるため、公開買付けが必要となります。

※1 買付け等とは、①株券等の買付けその他の有償の譲受け、②その他これに類するものとして政令で定めるもの(例えば、株券等の売買の一方の予約)です(金融商品取引法27条の2第1項柱書、同施行令6条3項3号)。
※2 株券等所有割合とは、発行会社の総議決権数+買付者および特別関係者が保有する潜在的な議決権数(新株予約権など)を分母とし、買付者および特別関係者が買付け等後に所有する株券等の議決権数を分子として算出する割合です。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 5%ルール
  3. 3分の1ルール
  4. ToSTNeT取引等に関する規制
  5. 急速な買付け
  6. 他者の公開買付期間中における買付け
  7. まとめ

はじめに

 金融取引所が開設している市場(以下「取引市場」といいます)“内”で株券等の取得を行う場合、各取引が株価に反映され、他の株主にも売却の機会が確保されるとともに、取引所の諸規制が及ぶため、不適切な取引に対しては取引停止等の措置も可能となります。

 他方、取引市場“外”の取引においては、これらの規制が及ばず、他の株主が認識しない間に特定の株主が支配権を獲得し、他の株主に売却の機会が提供されず、株主間の平等が害される等の懸念があります。そこで、このような懸念が生じる取引について、他の株主への情報開示と売却の機会を確保するため、公開買付け(take-over bid以下「TOB」といいます)が強制されることとなります。TOBの制度概要については、「TOBの対象となる有価証券とは」をご参照ください。

 以下では、TOBが強制される具体的な取引を説明します。

5%ルール

 実務上、株券等所有割合にして5%以上を保有する株主は、会社の経営や株価形成に影響を及ぼすと考えられています。そこで、取引市場外で、株券等の買付け等を行った後に、株券等所有割合が5%を超える場合には、原則として、当該買付け等はTOBによらなければなりません(金融商品取引法27条の2第1項1号)。

 ただし、5%を超える場合であっても「著しく少数の者からの買付け等を行う場合」、すなわち、当該買付け等を行う相手方の人数と、当該買付け等を行う日の前60日間に取引市場外で行った買付け等の相手方の人数との合計が10名以下の場合(これを「特定買付け等」といいます)には、TOBによらなくても買付け等を行うことができます(金融商品取引法施行令6条の2第3項、第1項4号)。

3分の1ルール

 会社法上、株主総会の特別決議を成立させるには、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となるため(会社法309条2項柱書)、特定の株主の株券等所有割合が3分の1を超える場合には、当該株主によって特別決議を否決することができます(いわゆる「拒否権」といいます)。このように、特定の株主が会社の経営に強い影響力を及ぼす可能性のある取引については、他の株主にも十分な情報を提供し、公平な売却の機会を確保する必要があります。

 よって、前述の著しく少数の者からの買付け等である「特定買付け等」に該当する場合であっても、 買付け等の結果、株券等所有割合が3分の1を超える場合には、当該買付け等はTOBによらなければなりません(金融商品取引法27条の2第1項2号)。

ToSTNeT取引等に関する規制

 ToSTNeT(東京証券取引所の市場のうち立会市場以外の市場)取引等による買付け等であっても、当該買付け等の後における株券等所有割合が3分の1を超える場合には、当該買付け等は、TOBによらなければなりません(金融商品取引法27条の2第1項3号)。

 立会外取引などは、取引市場内の取引に該当するため、前述の趣旨からすると、TOBの対象とはならないように思われますが、取引市場内の取引であっても、ToSTNeT取引等の場合は、実質的に相対取引(市場を介さずに当事者同士で行う売買)に近い取引方法となっており、TOB規制の潜脱となりかねないため、本規制が設けられています。

急速な買付け

 前述の3および4のルール(以下、併せて「3分の1ルール等」といいます)は、全て、取引市場外取引やToSTNeT取引等を通じて株券等所有割合が3分の1を超える場合を想定しているため、これらの取引方法を通じて、株券等所有割合の3分の1未満まで株券等を取得し、残りを取引市場内で買付けることで3分の1超の株券等を取得した場合には、形式的には3分の1ルール等には該当しないことになってしまいます。このように取引市場外取引と取引市場内取引を組み合わせることで3分の1ルール等が潜脱されることを防ぐため、一定の要件を満たす取引は「急速な買付け」としてTOBによることが求められる規制が平成18年の金融商品取引法の改正によって設けられました。

 具体的には、以下のいずれの要件も満たす場合には、「急速な買付け」としてTOBによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項4号、同施行令7条2項ないし4項)。

  1. 3か月以内に
  2. 10%を超える株券等の買付け等(取引市場内外やTOBの有無を問いません)または新規発行による取得を行い
  3. 2の取得のうち、5%を超える株券等の取引市場外での買付け等またはToSTNeT取引等による取得が含まれており(TOBまたはTOBの適用除外となる買付け等による取得を除きます)
  4. 取得後に、株券等所有割合が3分の1を超える場合

急速な買付け

 上記要件を満たす場合、株券等所有割合が3分の1を超える際の買付け等のみTOBが必要となるのではなく、一連の取引全てがTOBによらなくてはならないと解されており、 3か月以内に行われた上記の取引全てが規制の対象となる点に留意が必要となります。  

 なお、実質的特別関係者※3を用いて、本規制を潜脱することを防ぐために、買付者による取得と実質的特別関係者による取得を合算して、上記要件を満たす場合にも、TOBによらなければならないとされています(金融商品取引法27条の2第1項6号、同施行令7条7項)。

※3 実質的特別関係者とは、買付者との間で、①共同して当該株券等を取得もしくは譲渡し、もしくは、②当該株券等の発行者の株主としての議決権その他権利を行使すること、または③当該株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡もしくは譲り受けることを合意している者です(金融商品取引法27条の2第7項2号)。

他者の公開買付期間中における買付け

 他者がTOBを行っている期間(公開買付期間中)に、その株券等の株券等所有割合が3分の1を超えている株主が、5%を超える株券等の買付け等を行う場合には、TOBによらなければなりません(金融商品取引法27条の2第1項5号、同施行令7条5項及び6項)。

 これは、公開買付者が、公開買付期間中はTOB以外での株券等の買付け(別途買付け)を禁止されているところ(金融商品取引法27条の5)、他の買付者にも同様の規制を及ぼし、買付者間の平等を図る趣旨で本規制が設けられました。

まとめ

 以上のように、TOBが強制される取引は様々であり、それらの内容は、金融商品取引法だけでなく政令や内閣府令において規定されているため、当該取引にTOBが強制されるか否かを判断するためには関連法規まで確認する必要があります。

 また、TOB規制の該当性については、形式的にはTOBが強制される取得行為に該当しない場合であっても、実質的に規制の趣旨を潜脱しないようにするため、TOBが必要とされる場合も考えられます。具体的には、発行会社の株券等を所有している別法人の持分を間接的に取得する場合(いわゆる「間接取得」の場合)等に、金融庁からTOBの必要性を指摘された過去事例も存在しており、TOBの要否を判断するに当たっては、金融庁から公表されているQ&A(金融庁総務企画局「株券等の公開買付けに関するQ&A」など)等を参考にしつつ、当該スキームが実質的にTOB規制の趣旨に抵触するか否かを判断する必要があります。

 よって、スキームの内容によっては、TOBの要否の判断が難しい場合も考えられますので、適宜、弁護士等の専門家にご相談されるのが望ましいと思われます。

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