実物不動産以外の形態による不動産投資のメリット・デメリット
ファイナンス実物不動産以外の形態による不動産投資について、取引・流通コストが安くなること以外のメリットはありますか。逆に、デメリットや注意しなければならない事項はありますか。
実物不動産以外の形態による不動産投資には、集団投資が可能になるというメリットがあります。留意事項としては、その投資持分が有価証券に該当することにより金融商品取引法が適用される他、実物不動産形態による不動産投資とは適用される法規制が異なるため、当該法規制に抵触・違反しないように注意する必要があります。
解説
目次
各スキームの種類
不動産の投資スキームには、以下の種類があります。それぞれの特徴については「不動産への投資スキームにはどのような形態があるか」を参照ください。
- 実物不動産
- 実物不動産を信託した信託受益権(以下「信託受益権」といいます)
- 信託受益権を保有する合同会社(以下「GK」といいます)に対する匿名組合出資(以下「TK出資」といいます)(GK-TKスキーム)
- 資産の流動化に関する法律(以下「資産流動化法」といいます)に基づく特定目的会社(以下「TMK」といいます)に対する優先出資(以下「優先出資」といいます)(TMKスキーム)
- 信託受益権を組合財産とする投資事業有限責任組合に対する出資(以下「LLP出資」といいます)
- 不動産特定共同事業法に基づく不動産特定共同事業契約に基づく出資(以下「不動産特定共同事業出資」といいます)
- 不動産投資法人(いわゆるREIT)の投資口(以下「REIT投資口」といいます)
GK-TKスキームによるTK出資の注意点
上記のうち合同会社と匿名組合を用いた、③のGK-TKスキームは広く一般的に活用されているスキームです。
このGK-TKスキームでは、まず、不動産を信託財産として、信託受益権にかたちを変え、この信託受益権をGKに保有させたうえで、このGKに対してTK出資を行います。
なお、投資対象となる財産ですが、実物不動産への投資は不動産特定共同事業法の対象となり(不動産特定共同事業法2条3項、4項)、不動産特定共同事業法の免許その他の規制をクリアする必要があるため、実物不動産を信託受益権化したうえで投資を行うことが一般的です。
GK-TKスキームにおけるTK出資は、金融商品取引法により有価証券と認定されます(金融商品取引法2条2項5号)。したがって、GKによる投資家に対するTK出資への勧誘等・信託受益権への投資等の資金運用が、主として金融商品取引法により規制されます。
まず、TK出資持分が有価証券に該当するため(金融商品取引法2条2項5号)、その募集・私募・勧誘行為は、それを金融商品取引業者(証券会社やその他の第二種金融商品取引業者等)に委託しない場合、第二種金融商品取引業に該当する可能性があり(金融商品取引法2条8項7号、金融庁パブリックコメント回答)、第二種金融商品取引業の登録なしに行うことはできません(金融商品取引法28条2項2号、29条)。
また、TK出資によって集められた金銭の運用を行う行為も金融商品取引業に該当し(金融商品取引法2条8項15号)、当該行為を行う主体は投資運用会社であるのが原則です(金融商品取引法28条4項3号、29条)。さらに、投資対象が不動産信託受益権であることから、不動産関連特定投資運用業に該当し、総合不動産投資顧問業への登録等も追加で必要となります(金融商品取引業者等に関する内閣府令7条7号、13条5号、49条5号)。
しかし、投資運用業および不動産関連投資運用業の各種登録要件を鑑みると、金融商品取引業を適格に遂行する人員構成が必要である他、5,000万円の最低資本金要件をクリアする必要があるなど、非常に高い財産的規制が課せられますので、ペーパーカンパニーであるSPCがこれら要件を満たすことは現実的には不可能です。
そこで、この規制を回避するためには、以下の2つの方法が広く一般的に用いられています。
投資運用会社への一任
TK出資によって集められた資金の運用に関し、金融商品取引業者である投資運用会社に一任する方法です。投資運用会社との間に取り交わす運用契約において一定の事項を規定し遵守する必要があります(金融商品取引法2条8項15号、28条4項、金融商品取引法2条に規定する定義に関する内閣府令16条10項等)。
適格機関投資家当特例業務
金融商品取引法は、集団投資スキームの自己募集・自己運用については、一定の要件の下に、金融商品取引業の登録を必要とせず、届け出のみで行うことができるように例外を設けています。
具体的には、TK出資について、投資家が1名以上の適格機関投資家と49名以下の適格機関投資家以外の者とし、その他投資家が一定の要件を満たす必要があります(金融商品取引法63条、金融商品取引法施行令17条の12、17条の13の2)。
GK-TKスキームについては、金融商品取引法との関係で、上記の各条件を満たすことが必要となりますが、それでも他のスキームと比較すると相対的に簡易な組織・柔軟な運用が可能といえるでしょう。
TMKスキームによる優先出資の注意点
TMKは資産流動化法に基づき設定された特定目的会社であり、あくまで単一の目的のみを行うことを条件として、税法上の優遇措置を受けることができるため、会社として事業できる範囲、遵守する必要がある事項、および他の法律の適用対象外とされる業務等、資産流動化法により規制されます。
資産流動化法が適用される結果、TMKの設立、資産流動化計画の財務局への届出等、スキームの維持管理コストは資産流動化法に基づき厳格に行われます。資産流動化法に基づくTMKスキームとGK-TKスキームとを比較した場合、一般的にいって前者のほうがより制約が厳しいため(作成及び提出を要する書類の範囲、計画の変更の際に同意を取得すべき当事者の範囲、スキームの適用対象の範囲、会社の機関運営の柔軟性等)、スキームの維持管理コストもGK-TKスキームより高額となります。
資産流動化法の適用がある結果、受ける制約等は以下のとおりです。
- TMKによる不動産の追加取得は原則として制限され、また、複数回の物件取得等へのTMKの再利用も制限される。
- 土地のみの取得売却は制限される。反面、不動産の開発計画(土地を取得し建物の請負契約を発注する)を実現することができる。
- 監査法人等による監査(資産流動化に関する法律91条~93条)、その他の投資家保護制度が必要
また、TMKスキームは、パススルー課税が適用されないため、投資家は減価償却を受けられません(不動産投資とは税務面が決定的に異なります)。また、ペイスルー課税(優先出資への配当が費用として税務対象外とされる取扱い)や税務(不動産の登録免許税・法人税等の軽減)の優遇を受けるためには一定の条件を満たす必要があります(ペイスルーについて、配当水準の維持、一定額の特定社債の発行等、租税特別措置法67条の14をご参照ください)。
※「パススルー課税」とは、TMKが組織・法人として課税の対象にならず、優先出資者が持分に応じてTMKの決算の持分相当が課税対象になることをいいます。
※「ペイスルー課税」とは、TMKに組織・法人として課税されるものの、優先出資者に分配すべき利益・損失はTMK自身の利益・損失から控除され、残額のみがTMKの利益・損失として課税対象になることをいいます。パススルー課税、ペイスルー課税とも二重課税を回避できるため、一般論としては投資家に有利な課税方式と言えます。
投資事業有限責任組合契約に基づくLLP出資の注意点
「投資事業有限責任組合」は、投資事業有限責任組合契約によって成立する無限責任組合員および有限責任組合員からなる組合をいいます(投資事業有限責任組合契約に関する法律2条)。
投資事業有限責任投資組合は、従前、非上場の企業の株式等への投資に利用されていたスキームです。無限責任組合員が必要という特徴がある反面、他の組合員は有限責任で足りる点で民法上の組合とは大きな差があります。法制度の制定当初は、投資対象が中小企業等に限定されていましたが、平成16年に大幅な改正があり、投資対象及び出資者の人数に関する規制緩和の結果、上場企業や大企業への投資のみならず、TMKの優先出資証券、REIT投資口、不動産信託の受益権、GK-TKスキームにおけるTK等、不動産投資スキームとしても利用することが可能になりました。
この組合は、主に投資事業有限責任組合法により規制されます。ただし、LLP出資は金融商品取引法上の2項5号の有価証券に該当するため、GPは、原則として金融商品取引業(自己募集の場合は第二種金融商品取引業者、自己運用の場合は投資運用業者)の登録が必要となります。
投資事業有限責任組合法による規制以外の規制は実質的にGK-TKスキームと同様であり、登録が不要となる要件もTK-GKスキームと同様なため、スキームの自由度、設定・維持コストともにGK-TKスキームに劣るケースが多いと予想されます。
投資事業有限責任組合法による主な規制は以下のとおりです。
- 実物不動産への投資は認められない(投資事業有限責任組合法3条)
- 監査法人等による監査(投資事業有限責任組合法8条)、その他の投資家保護制度が必要
- 無限責任組合員が業務執行を行う必要がある(投資事業有限責任組合法7条)
不動産特定共同事業に基づく出資の注意点
「不動産特定共同事業」とは、不動産特定共同事業契約(不動産特定共同事業法2条4項)により、投資家が出資を行い、一定の許可要件を満たした事業者が不動産取引(売買、交換または賃貸借)を営み、収益を投資家に分配する事業主に不動産取引に関して共同事業・出資を行い、収益等を分配する事業をいいます。
この不動産特定共同事業法に該当する場合、事業参加者(投資家)保護の観点から、主に不動産特定共同事業法により規制されます。
不動産特定共同事業法による主な規制は以下のとおりです。
- 投資対象は実物不動産に限定される(不動産特定共同事業法3条)
- 信託受託者が一般的に受託しない瑕疵・遵法性に問題のある不動産の取得が可能
- 監査法人等による監査(不動産特定共同事業法33条、不動産特定共同事業法施行規則26条2項)、その他の投資家保護制度が必要
- 不動産特定共同事業者による運用が必要(不動産特定共同事業法2条4項、5項、6項)
不動産特定共同事業を行う事業者は、一定の欠格事由・許可基準を満たすことが必要とされているため、SPC自体が事業者となることは困難です(主な許可要件は、不動産信託受益権を投資対象とする集団投資スキームの投資運用業者の登録要件と類似のため、金融商品取引法に基づく資産運用会社やREITの資産運用会社が不動産特定共同事業者の許可を取得するケースが増加しています)。
信託受益権形態での取引を行うGK-TKスキームに比べると現物不動産での取引スキームは相対的に取引コストが大きいため利用は限定的ですが、現物不動産への投資を前提とする限り、登録免許税その他の取引コストが軽減されていることから、その利用は増加傾向にあります。
REIT投資口
REIT(不動産投資法人)は、投資信託及び投資法人に関する法律(投資法人法)により設立・運用される主体であるため、投資法人法が適用されます。日本においては、REITの器としては専ら投資法人が選択されています。
REITに対してはパススルー課税が適用されないため、投資家は減価償却を受けられません(不動産投資とは税務面が決定的に異なります)。また、ペイスルーの優遇を受けるためには一定の条件を満たす必要があります(配当水準90%の維持、投資口が公募かつ1億円以上、その他)(租税特別措置法67条の15等)。
上場REITの場合、投資口の流動性は非常に高く、取引コストは非常に小さくなります。
投資信託及び投資法人に関する法律により、ガバナンス(投資主総会や役員会)、情報開示等、投資家保護制度が要求されています。
なお、不動産の開発事案には使用できません。
REITは、開発事案に使用できないその他運用の自由度は低く、かつ、機関設計や業務に対する制約も大きい(投資主総会や役員会の開催が必要、情報開示の充実、会計監査・外部監督役員が必要等)ため、維持コストも大きくなります。反面、恣意的な運用の弊害を防止する効果その他投資家の保護に関する規制が充実しているため、上場・非上場を問わず、資産規模が大きく、投資家数が多いファンドに用いられています。
各スキームに共通する事項
コストと監査
TMKその他のSPCを通じて不動産等を信託財産とする信託受益権への投資を行うというスキームでは、信託報酬、SPCの設立・登記費用、SPC維持管理報酬(会計事務所等への報酬)、弁護士報酬、AM報酬等のコストが発生します。また、TMK等が主体となるスキーム(TMKスキーム、投資事業有限責任組合、不動産特定共同事業等)によっては、監査法人・公認会計士による監査が必要になります。
複雑なスキーム
実物不動産に対する直接投資に比べると、取引形態やスキームが複雑なものになる傾向があり、投資内容の実態が不明確・不明瞭になりケースがあります。実物不動産と同レベルでの実態把握をするためには、当該取引やスキームに詳しい弁護士その他の専門家の助言を得る必要があります。
買主の問題
買主によっては、信託受益権形態での取引ですら実物不動産形態の取引とは実質的に異なる取引と認識される場合や、当該形態での取引を行う理由が不明として回避される場合があります。さらに、投資スキームの持分の取引の場合、信託受益権形態での取引よりも複雑・理由が不明と認識される結果、買主がプロフェッショナルに限定される可能性があります。

三宅坂総合法律事務所
- コーポレート・M&A
- 危機管理・内部統制
- ファイナンス
- 訴訟・争訟
- 不動産