営業秘密と他の秘密情報の関係、不正競争防止法と個人情報保護法等の他の法令との関係は

知的財産権・エンタメ

 顧客情報データは、秘密管理性・有用性・非公知性を満たすため、営業秘密に当たるということですが(「営業秘密とは何か」参照)、当社の顧客情報データは、営業秘密に当たるかどうかにかかわらず、大切な秘密情報であることに変わりはありません。また、当社の顧客情報データには、得意先の個人情報が多く含まれているのですが、個人情報保護法の適用関係も気になります。営業秘密と他の秘密情報、不正競争防止法と個人情報保護法等の他の法令との関係はどのようになっているのでしょうか。

 不正競争防止法による保護は、秘密情報のうち、営業秘密だけに与えられますが、営業秘密に当たらない他の秘密情報についても、民法その他の法令による保護を受けるほか、秘密保持契約その他の契約や就業規則等の内部的なルールによって、その保護を義務付けることができます。
 また、個人情報取扱事業者に当たる場合、個人情報保護法が適用されますので、顧客情報データの漏えいには、厳重な注意が必要です。

解説

目次

  1. 不正競争防止法による営業秘密の保護
  2. 営業秘密に当たらない他の秘密情報の保護
    1. 民法による保護
    2. 秘密保持契約その他の契約による保護
    3. 就業規則等による保護
  3. 個人情報保護法や、その他の法令との関係
    1. 個人情報保護法との関係
    2. 不正アクセス禁止法との関係

※本問中の個人情報保護法は(平成27年9月9日法律第65号)の全面施行版に基づき記載しています。

不正競争防止法による営業秘密の保護

 不正競争防止法(以下「不競法」といいます)は、他人の技術開発、商品開発等の成果を冒用する行為等を不正競争として禁止しており、周知性のある、あるいは著名な他人の商品等表示と類似する表示を用いる行為他人の商品形態を模倣する行為と並んで、他人の営業秘密を侵害する行為を禁止しています(不競法2条1項4号〜10号)。
 具体的には、「営業秘密侵害の不正競争行為にはどのような種類があるか」の解説にあるとおり、営業秘密の侵害について、全部で7類型の不正競争行為を定め、営業秘密の保有者に対し、以下の権利を認めています。

 また、営業秘密を侵害する行為のうち、特に違法性の強い9つの行為類型(「営業秘密侵害罪にはどのような種類があるのか」参照)を、営業秘密侵害罪として処罰しています(「営業秘密の刑事的保護」参照)(不競法21条1項1号~9号)。

 さらに、訴訟手続を通じて、営業秘密の保有者の利益が害されないよう、民事訴訟や刑事訴訟において営業秘密を取り扱う際の特別な制度を設けて、これを保護しています(「民事訴訟・刑事訴訟における営業秘密の保護」参照)。

営業秘密に当たらない他の秘密情報の保護

 これらの不競法による保護は、秘密情報のうち、営業秘密だけに与えられるわけですが、営業秘密に当たらない他の秘密情報は、一切法的な保護を受けないのかというと、決してそのようなことはありません。
 民法その他の法令による保護を受けるほか、秘密保持契約その他の契約や就業規則等の内部的なルールによって、その保護を義務付けることができます。また、逆に、営業秘密に当たるからと言って、不競法による保護しか受けないわけではなく、他の秘密情報と同様の保護を、重ねて受けることができます。

 このことを概念図で示せば、以下のとおりとなります。

民法による保護

 営業秘密に当たるものを含めて、他人の秘密情報をみだりに侵害する行為は、不法行為(民法709条)に当たるとして、それによって生じた損害を賠償する責任を生じることになります。なお、「営業秘密の民事的保護(1)‐差止請求権」の解説にあるような差止請求権は、不法行為を理由としては認められませんし、「営業秘密の民事的保護(2)‐損害賠償請求権」の解説にあるような特別な損害額の算定方法や推定規定は適用されません。

秘密保持契約その他の契約による保護

 取引にあたって自社の秘密情報を開示し、あるいは取引相手の秘密情報の開示を受ける場合、それに先立って、秘密保持契約(守秘義務契約、機密保持契約、Confidentiality Agreement(CA)、Non-Disclosure Agreement(NDA)その他、呼び名は様々ありますが、ここでは、「秘密保持契約」の語を用います)を締結するのが通常です。また、極めてシンプルな契約書であっても、大抵の場合には、秘密保持条項が含まれています。
 これらの秘密保持契約書や秘密保持条項(以下「秘密保持契約等」)には、以下の機能があります。

自社の営業秘密について、その秘密管理性や非公知性を維持する機能
自社の営業秘密を含めた秘密情報について、不法行為(民法709条)や不競法に基づくものと同等、あるいはそれらを超える手厚い保護を与える機能

 例えば、仮に社内で営業秘密として管理している情報であっても、その開示を受けた取引相手が自由に使用し、さらに第三者に開示できるとすると、その情報が秘密管理されていて、非公知であるとは到底言えないことになります。

 また、不法行為に基づいては、差止請求権は認められませんが、秘密保持契約等の当事者間では、それらの契約上の秘密情報を開示しない義務(不作為義務)の履行を求めるという形で、秘密情報の侵害行為の差止めが可能です。
 さらに、不法行為に基づく損害賠償請求については、特別な損害額の算定方法や推定規定は適用されませんが、秘密保持契約等で同様の定めをしておけば、その適用を受けることが可能となりますし、相手方による秘密情報の不正開示や目的外使用といった義務違反行為を推定する規定を設けることも可能です。

 これに対し、秘密保持契約等の弱点は、原則として、その契約当事者しか拘束されないということにあります。

就業規則等による保護

 在職中の従業員は、労働契約に付随する忠実義務の一種として、当然に、勤務先の営業上の秘密を保持すべき義務を負っています。また、多くの会社では、就業規則に従業員の秘密保持義務が規定され、個々の従業員から秘密保持に関する誓約書や念書の提出を受けているものと思いますが、その場合には、それらの就業規則や誓約書等の規定が労働契約を規律していることになります。

 これに対し、退職後の従業員は、当然に秘密保持義務を負っているわけではありませんので、退職後の秘密保持義務について、就業規則や個別に提出を受けた誓約書等による明確な根拠が必要となります。
 従業員・元従業員が、上記の秘密保持義務に違反した場合、差止請求と債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求が可能であるほか、就業規則の定めに基づき、懲戒処分、解雇処分、退職金の不支給(返還請求)といった処分が可能となります。

個人情報保護法や、その他の法令との関係

個人情報保護法との関係

 貴社が個人情報取扱事業者に当たる場合、個人情報保護法の適用が問題となります。

 個人情報保護法の適用対象となる「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、①当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)、または②個人識別符号が含まれるものを言います(個人情報保護法2条1項)。

 個人情報保護法に基づく各種義務を負う「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者を言いますが(個人情報保護法2条5項)、この「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を、コンピューターを用いて検索することができるように体系的に構成されたもの等を言います(個人情報保護法2条4項)。そのため、貴社の顧客情報データが「個人情報データベース等」に当たる場合、貴社はこれを事業の用に供する者として「個人情報取扱事業者」に当たることとなり、個人情報保護法の適用を受けることになります。

 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データ(個人情報データベース等を構成する個人情報)の漏えい等の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならないとされているほか(個人情報保護法20条)、個人データの安全管理が図られるよう、従業者に対する必要かつ適切な監督等を行わなければならない(個人情報保護法21条)とされています。
 にもかかわらず、個人データが漏えいした場合、場合によっては、それらの規定の違反とされて、罰則の適用を受け、加えて、多数の個人から損害賠償請求を受け、会社の社会的評価・信用が失墜する事態ともなりますので、厳重な注意が必要です。

不正アクセス禁止法との関係

 不正アクセス行為、すなわち、他人のIDやパスワードを悪用し、あるいはコンピュータープログラムの不備を衝くことによって、コンピューターネットワーク(インターネット等のオープンネットワークのほか、社内LANのような外部から独立したネットワークも含みます)を通じて、本来アクセスする権限のないコンピューターを利用する行為は禁止されており、違反者は懲役3年以下または100万円以下の罰金に処せられます(不正アクセス行為の禁止等に関する法律2条4項、3条、11条)。
 不正アクセス行為は、不競法21条1項1号カッコ内で、明示的に「管理侵害行為」の1つとして挙げられており、それにより他人の営業秘密を取得した場合、営業秘密侵害罪と不正アクセス禁止法違反の双方に問われることになります。

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