消費者契約法により無効とされる、消費者の利益を一方的に害する条項とは

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、家電量販店を運営しています。
 この度、ウォーターサーバー・水宅配のレンタル業を営んでいる会社のM&Aの話がありました。当社としては、この会社を買収した暁には、冷蔵庫をご購入いただいたお客様を対象に、「冷蔵庫配送時にウォーターサーバーを設置し、特にお断りの連絡がなければ同サーバーのレンタルを行う」という契約条項を設け、ウォーターサーバーの有料レンタルサービスを提供することを考えています。M&Aの話を進めるかどうかの検討に当たり、このサービス・契約条項について、消費者契約法上、何か問題がないか、教えてください。

 貴社が検討している契約条項は、消費者契約法10条に基づき無効と判断される可能性があります。

解説

目次

  1. 無効とされる消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)とは
  2. 10条前段要件を満たすか
    1. 10条前段要件の具体的内容は
    2. 補足:消費者契約法の改正等
  3. 10条後段要件を満たすか
    1. 条文の解釈
    2. 設例の検討

無効とされる消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)とは

 消費者契約法は、事業者と消費者との間に情報の質・量、交渉力に構造的な格差があることから、事業者の損害賠償の責任を免除する条項を無効とすること(同法8条)、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等を無効とすること(同法9条)のほか、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とすることを定めています(同法10条)。

消費者契約法が定める無効となる条項

 具体的には、消費者契約法10条は、次の①および②の要件を満たす契約条項を無効とすると規定しています。

  1. 「民法、商法(略)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であること(以下「10条前段要件」といいます。)

  2. 民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であること(以下「10条後段要件」といいます。)

 上記設例における条項は、消費者契約法8条および同法9条が無効とする類型ではありませんので、同法10条により無効となるかが問題となります。そこで、以下では、10条前段要件および10条後段要件を満たすかについて検討します。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 民法 、商法 (明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

10条前段要件を満たすか

10条前段要件の具体的内容は

(1) 条文の解釈

 「民法、商法(略)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」とは、当該条項がなければ適用されるルールと比較して、消費者の権利を制限しまたは義務を加重するものであると解されています(平成27年12月「消費者契約法専門調査会報告書」〔消費者委員会消費者契約法専門調査会〕第2の6(3)イ)。

 なお、「公の秩序に関しない規定」には、明文の規定(法令に明示的に示された規定)に限らず、一般的な法理等も含まれると解されています(最高裁も、同様の見解を明らかにしています〔最高裁平成23年7月15日判決・民集65巻5号2269頁〕)。

(2) 設例の検討

 上記の設例についてみると、本来、消費者契約は、消費者から申込みをしたものでない限り、①消費者が承諾の通知を発した時、または、②申込者の意思表示や取引上の慣行により承諾の通知を必要としない場合に承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立します(民法526条)。

 これに対し、「冷蔵庫配送時にウォーターサーバーを設置し、特にお断りの連絡がなければ同サーバーのレンタルを行う」という契約条項は、「特にお断りの連絡がな」いという消費者の不作為をもって、有料でのウォーターサーバーレンタル契約について①消費者が承諾の通知を(発していないのに)発した、または、②承諾の意思表示と認めるべき事実が(ないのに)あったものとみなそうとするものです。
 したがって、前記の条項は、当該条項がなければ適用されるルールと比較して、消費者の権利を制限しまたは義務を加重するものであり、10条前段要件を満たすと考えられます。

10条前段要件

補足:消費者契約法の改正等

 平成28年5月25日に成立し、同年6月3日に公布された「消費者契約法の一部を改正する法律」(以下当該改正法による改正後の消費者契約法を「改正後消費者契約法」といいます)により、10条前段要件を満たす条項の具体例として、消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み・承諾をしたとみなすものが追記されることとなりました。
 具体的な条文は以下のとおりです。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 前記改正後消費者契約法の施行日は、平成29年6月4日とされています(同法附則1条本文)。ただし、この改正は、前記(1)のように、消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み・承諾をしたとみなす条項は10条前段要件を満たすことを、条文で改めて明らかにしたものですし、施行前であっても、前記(1)のとおり、上記設例の条項が10条前段要件を満たすと考えられることには変わりありません

10条後段要件を満たすか

条文の解釈

 「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するか否かは、「消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべき」(前掲最高裁平成23年7月15日判決)と解されています。

設例の検討

 したがって、上記の設例における条項が10条後段要件を満たすかは個別事案における様々な事情を踏まえた上で判断されることとなりますが、当該条項は、消費者が積極的な行為を何もしていないにもかかわらず無条件に契約を成立させ、当該契約成立後には当該消費者の認識にかかわらず当該契約に基づく代金支払いを負担させるものです。このため、消費者に不測の損害を与える可能性があり、10条後段要件を満たし、無効と判断される可能性があると考えられます。

 平成27年12月「消費者契約法専門調査会報告書」(消費者委員会消費者契約法専門調査会)も、「Aという商品を購入したところ、その契約に、特段の連絡がなければ全く関係のないBという別の商品の定期購入の契約を締結したものとみなすという契約条項があった場合のように、消費者が、何もしていないにもかかわらず、新たに債務を負うことになる意思表示を擬制されるような場合」は、「無効となる可能性が比較的高い」と示しています。

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