消費者契約法による取消しの対象となる、不実告知とは

取引・契約・債権回収
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所 吉村 幸祐弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、不動産販売会社です。
 築浅の中古マンションを販売した顧客のうち2名から、それぞれ、

  1. 「マンションの購入に当たり、担当者Aから『徒歩10分圏内に学校があり、公園も複数ある』との説明を繰り返し受けたため、このマンションを購入したが、実際には、徒歩10分圏内に学校はなく、公園も1つしかなかった。」

  2. 「マンションの購入に当たり、担当者Bから『子供の教育に適した土地である』との説明を繰り返し受けたため、このマンションを購入したが、実際に住んでみると、学校も公園も遠く、子供の教育に適した土地ではないと感じている。」

との理由で、各マンションの売買契約の申込みを取り消したいとの主張を受けています。
 当社の各担当者に確認したところ、いずれもそのような説明をしたことなどないと述べており、顧客にはその旨を丁寧に説明しようと考えていますが、万一、各担当者が、顧客の主張するとおりの対応をしていた場合、マンションの売買契約の申込みはそれぞれ取り消されるのでしょうか。

 担当者Aが主張1のとおり対応していた場合、重要事項につき事実と異なる内容を告げており、契約の申込みを取り消せると判断されるおそれがあります(消費者契約法4条1項1号)。
 他方、担当者Bが主張2のとおり対応していた場合であっても、告知している内容は担当者Bの主観的な評価ですので、事実と異なる内容を告げたものではなく、契約の申込みは取り消せないと判断されるものと考えられます。

解説

目次

  1. 不実告知による取消しとは何か・その要件
  2. 「重要事項について事実と異なることを告げること」(不実告知)とは
    1. 「重要事項」とは
    2. 「事実と異なることを告げること」とは
  3. 担当者Aが主張①のとおり対応していた場合
  4. 担当者Bが主張②のとおり対応していた場合
  5. おわりに

不実告知による取消しとは何か・その要件

 消費者契約法は、

  • 事業者が「勧誘をするに際し」、
  • 重要事項について事実と異なることを告げ」、
  • 消費者が「当該告げられた内容が事実であるとの誤認

をした結果、契約の申込み・承諾の意思表示をしたとき、消費者は、その契約の申込み・承諾を取り消すことができると規定しています(消費者契約法4条1項1号)。なお、この取消権には行使期間がありますが、この点については「平成28年6月公布! 改正消費者契約法のポイントと対策 (第1回)」をご参照ください。
 この類型は、一般的に、「不実告知」として整理されています。

不実告知による取消し

 上記設例における主張①・主張②は、いずれも、「勧誘をするに際し」の要件を満たしますので、担当者AおよびBが、「重要事項について事実と異なることを告げ」たか否かが問題となります

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 (略)
2 • 3 (略)
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 (略)

「重要事項について事実と異なることを告げること」(不実告知)とは

「重要事項」とは

 「重要事項」とは、消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容(消費者契約法4条4項1号)または対価その他の取引条件(同項2号)に関する事項であり、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」(同項柱書)です。

「事実と異なることを告げること」とは

 また、「事実と異なることを告げること」とは、客観的に真実または真正でないことを意味するとされています。たとえ、事業者が、真実または真正でないことを認識していなくても、客観的に真実または真正でないことを告げれば、この要件は満たされます。

 なお、主観的な評価(例えば、「新鮮」「安い」「お買い得」)は、客観的に真実または真正であるか否かを判断することができませんので、それを伝えても「事実と異なることを告げること」には該当しません(以上につき、消費者庁消費者制度課編『逐条解説消費者契約法〔第2版補訂版〕』〔商事法務、2015年〕109頁・110頁)。

担当者Aが主張①のとおり対応していた場合

 設例①の場合、「徒歩10分圏内に学校があり、公園も複数ある」との説明は、これによって消費者が購入するかどうかの判断基準になりますので、消費者契約の目的となるものの内容(重要事項)について事実を告げるものといえます。実際には、徒歩10分圏内に学校はなく、公園も複数はなかったのですから、「重要事項について事実と異なることを告げること」に該当します。

 したがって、担当者Aのこの説明により消費者が誤認したという場合には(この事実は消費者が立証する必要があります)、不実告知がなされたとして、消費者契約法に基づき契約の申込みを取り消せると判断されるおそれがあります

担当者Aが主張①のとおり対応していた場合

担当者Bが主張②のとおり対応していた場合

 次に設例②の場合、「子供の教育に適した土地である」との説明は、主観的な評価を告げることであって、客観的に真実または真正であるか否かを判断することができないことを伝えるものにすぎません。このため、この説明は、「事実と異なることを告げること」には該当しません。

 したがって、仮に担当者Bが主張②のとおり対応していた場合であっても、契約の申込みは取り消せないと判断されると考えられます

担当者Bが主張②のとおり対応していた場合

おわりに

 以上のように、不実告知に該当するか否かは、事実を伝えたものであるか、それとも評価を伝えたものであるかによって判断が分かれることになります。

 したがって、顧客から上記設例のような主張を受けた場合には、担当者が顧客に対して伝えた内容を具体的に確認し、適切に対応する必要があります。この確認・対応を行えるようにするため、業務の通常の過程において、適宜、担当者が顧客と対応した際のやり取りを書面・データ等により記録化することが重要であるといえます。

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