取引先から債権回収するための方法は?

取引・契約・債権回収
西中 宇紘弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 当社(X社)は、取引先であるY社に対してある当社商品を販売して引き渡したのですが、Y社は資金繰りが苦しいといって一向に代金を支払ってくれません。先日もY社に代金を支払うよう申し入れをしましたが、任意に支払をしてくる様子はありませんでした。代金債権を回収する何か良い方法はないでしょうか。

 金銭債権の債権回収の方法としては、次のような流れが一般的です。
 まずは、債務者に対して金銭債務の支払を求める内容の催告書を弁護士名での内容証明郵便にて送付し、債務者の反応を見ます。債務者の反応がない、または債務者が支払を拒否するようであれば、金銭債務の支払を求めて訴訟の提起を行います。訴訟において勝訴判決を取得しても債務者が任意での支払をしない場合は、当該判決を債務名義として債務者所有の財産に対して強制執行を行い、強制的に債権を回収します。
 以上の流れの他、事案に応じて催告書の発送をせずにいきなり仮差押をするケースや、訴訟に先駆けて支払督促を行うケース、通常訴訟ではなく少額訴訟を提起するケース、手形・小切手訴訟を提起するケース等もあります。

解説

目次

  1. 金銭債務の支払がされない場合の対応
  2. 弁護士名での催告書発送
    1. 催告書を発送することの意義とは
    2. 期限の利益喪失通知をあわせて行う
    3. 次の手段は?
  3. 通常訴訟、少額訴訟、手形・小切手訴訟、支払督促
  4. 強制執行
  5. 保全(仮差押え)
  6. まとめ

金銭債務の支払がされない場合の対応

 取引先である債務者に対し、請求書を送付し、当事者間で支払について折衝したにもかかわらず、債務者が任意で金銭債務の支払をしない場合、どのような対応が考えられるでしょうか。
 基本的には以下のような順序で、対応をしていくことが一般的です。以下、順番に解説します。

弁護士名での催告書発送

催告書を発送することの意義とは

 任意で支払いに応じない相手方に対する債権回収の方法として、まず考えられるのは、弁護士名での催告書の発送です。

 この催告書を発送することの意義は、債務者に法律の専門家である弁護士に委任したこと、及び支払がない場合には法的措置をとる意思があることを伝え、本腰を入れて債権回収に取り組むという姿勢を見せることで債務者の任意での債務の履行を引き出すところにあります。
 そのため、債務者にインパクトを与える目的と、後々の訴訟において催告書を発送した事実を主張・立証する必要性も考慮して、配達証明付内容証明郵便で催告書を発送することが通常です。

期限の利益喪失通知をあわせて行う

 また、貸金債権の請求の場合等、債権の請求の前提として債務者の期限の利益を奪う必要がある場合には、催告書に「支払が無い場合には期限の利益を喪失させる」旨の意思表示も盛り込むことで、期限の利益の喪失通知を兼ねることもあります。

次の手段は?

 もっとも、弁護士名での催告書を送付したとしても債務者からの反応がない場合や、反応があったとしても任意での支払を拒絶する場合には、次の方法を考える必要があります。

通常訴訟、少額訴訟、手形・小切手訴訟、支払督促

 催告書を発送しても債務者が任意での金銭債務の支払を拒絶する場合、債権者として次に考えられる債権回収の方策としては、通常訴訟の提起少額訴訟の提起手形・小切手訴訟の提起支払督促の申立てがあります。

 この中では、通常訴訟を提起するのが原則です。通常訴訟には、請求する債権の金額や種類に制限はありません。

 債権が60万円以下の金銭支払を目的とするものである場合には、少額訴訟(民事訴訟法368条以下)の手続を利用することも考えられます。
 少額訴訟手続においては、原則として1回の口頭弁論期日で結審して即日判決が下るため、迅速な解決が図れる可能性があります。もっとも、被告たる債務者が訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をした場合は通常訴訟に移行することになることや、訴訟提起までの準備事項は通常訴訟とほぼ変わりはないことから、弁護士が受任した事件について少額訴訟を提起するケースはそれほど多くないのが実情です。

 また、債権が、手形・小切手による金銭支払請求とこれに附帯する法定利率による損害賠償請求である場合は、簡易・迅速な略式訴訟手続として、手形・小切手訴訟の手続を利用することも考えられます(民事訴訟法350条以下)。

 さらに、金銭その他の代替物の一定の数量の給付を求める場合であれば、支払督促の申立てを行うことも考えられます(民事訴訟法382条以下)。
 支払督促は、債務者が異議を述べない限り書面による審査のみで簡易に債務名義を取得することができる方法です。支払督促は、書類審査だけであり、また費用も通常訴訟の約半分で済みますので、債権回収案件では通常訴訟に先駆けて行うケースもあります。
 もっとも、債務者が異議を述べた場合には通常訴訟に移行すること、書面審理であるため手続内での債務者との折衝ができないこと、債務者の居住先が不明である場合は行うことができないこと、相手方が遠方に居住している場合には異議を出された際に遠方の裁判所に事件が係属してしまい日当・交通費にて多額の費用を要することになること等を考慮して、個別具体的に当該事案において支払督促を行うかどうかを判断することになります。

通常訴訟 請求する債権の金額や種類に制限なく利用可能
少額訴訟 債権が60万円以下の金銭支払を目的とするものである場合に利用可能
原則として1回の口頭弁論期日で結審して即日判決が下るため、迅速な解決が図れる
手形・小切手訴訟 手形・小切手による金銭支払請求とこれに附帯する法定利率による損害賠償請求である場合に利用可能
支払督促 書類審査のみで、費用も通常訴訟の約半分で済む

強制執行

 上記3で記載した法的手続を経て勝訴判決等の債務名義を取得したにもかかわらず、債務者が任意での支払をしない場合は、強制執行を検討することになります。

 金銭の支払を目的とする債権を実現するための強制執行手続である金銭執行は、判決等の債務名義に基づいて、債務者の財産を強制的に換価して債権の回収を図る手続です。種類としては、何を対象として執行を行うかによって、大きく不動産に対する執行(不動産執行)、船舶に対する強制執行(船舶執行)、動産に対する強制執行(動産執行)、債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)に区分されます。

不動産執行 不動産に対する強制執行 不動産は価値が大きく換価した場合に回収できる金額が大きい
債務者が隠すことが困難であり債権者として把握しやすい
船舶執行 船舶に対する強制執行 債務者が船舶を所有していることを把握している場合には有効
動産執行 動産に対する強制執行 債務者が高価な動産を所有していることを把握している場合には有効
債権回収の実行性が乏しいためあまり使われない
動産を差し押さえて債務者に対して心理的なプレッシャーを与える意味が大きい
債権執行等 強制執行 債権もその額面や性質、第三債務者の資力等によっては回収できる金額を大きい場合がある取引先が債務者であれば、債務者の有する債権(例えば、売掛債権や預金債権等)の把握が比較的容易

 いずれの強制執行を行うかは、債権者が把握している債務者の財産の内容によることになります。強制執行の対象となり得る財産としては、不動産は価値が大きく換価した場合に回収できる金額が大きいこと、債務者が隠すことが困難であり債権者として把握しやすいこと等から、まずは不動産を検討することが多いです。
 次いで債権に対する強制執行を検討することも多いです。債権もその額面や性質、第三債務者の資力等によっては回収できる金額を大きい場合があること、設例におけるように取引先が債務者であれば、債務者の有する債権(例えば、売掛債権や預金債権等)の把握が比較的容易であること等がその理由です。
 この他、債務者が高価な動産を所有していることを把握している場合には、動産執行も考えられるところではありますが、動産は換価しても価値が低い場合が多く債権回収の実効性が乏しいことから、動産執行を行うケースはそれほど多くはありません。むしろ、動産執行は、動産を差し押さえて債務者に対して心理的なプレッシャーを与える意味が大きいように思います。  

保全(仮差押え)

 上記のとおり債権回収をするに当たっては債務者に対して種々のアプローチを行うことになりますが、これらのアプローチには当然一定の期間を要します。とすると、催告や訴訟をしている内に、最終的には強制執行の対象としようと考えていた債務者の財産につき、債務者が費消・隠匿したり、第三者に移転したりして、債務名義を取得していざ強制執行をしようという段階には強制執行の対象とできる債務者の財産が存在しなくなってしまっていたという事態が生じるおそれがあります。

 そこで、債務者による財産の費消・隠匿、第三者への移転等の恐れが見込まれる場合には、債務者に催告書発送や訴訟による請求をする前に、債務者の財産に対して仮差押(民事保全法20条1項)を行い、債務者の財産処分を禁止して執行対象財産を保全しておく必要がある場合があります。

まとめ

 以上のとおり、金銭債権を強制的に回収する方法には、様々な手続がありますが、具体的にどのような債権回収手段を選択して実行するかは、債権額、債権の性質、債務者の属性、債務者の資力・財産状況、強制執行の対象となる財産の有無、法的措置にかかる費用等の諸般の事情を総合考慮して個別具体的に検討し判断することになります。

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