法人保証をとる場合に注意すべきポイントは?
取引・契約・債権回収新しい取引先に対して商品を継続的に販売する予定ですが、信用力に不安があるので、その取引先の関係会社に保証してもらうことになりました。どのような点に留意したらいいでしょうか。
保証は、書面で契約する必要があります。また、保証する金額が保証する関係会社にとって多額といえる場合や、関係会社による保証が利益相反取引となるような場合には、その関係会社の取締役会等の決議が必要ですので、そのような決議があったことを取締役会議事録等で確認するべきです。
解説
はじめに
会社と取引を行うときは、信用を補完するために、保証人をつけることがあります。会社の代表者の個人保証をつけることも多いですが、場合によっては関係会社など法人との間で保証契約を締結することもあります。
本稿では、法人保証をとる場合にどのような点に留意すべきか解説します。
なお、個人保証を取る場合の留意点については、「個人保証をとる場合に注意すべきポイントは?」をご覧ください。
要式行為性
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じません(民法446条2項)。
多額の借財とは
保証する会社が取締役会設置会社である場合、その取締役会は、多額の借財等の重要な業務執行については、その決定を取締役に委任することができず、取締役会の決議を要することとされています(会社法362条4項2号)。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
二 多額の借財
ここでいう「借財」には、保証債務も含まれます。
そして、「多額の借財」にあたるか否かは、当該借財の額、その会社の総資産・経常利益等に占める割合、借財の目的および会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきとされています(東京地裁平成9年3月17日判決・判時1605号141頁)。
このような事情を総合的に考慮して、保証債務が多額の借財にあたると考えられる場合には、保証する会社の取締役会決議が必要となります。
それでは、取締役会決議を欠いて多額の借財を行った場合はどうなるのでしょうか。
判例は、この場合も、原則として有効としつつ、①相手方が決議を経ていないことを知り、または、②知り得べかりしときは無効であるとしています(重要財産処分行為について最高裁昭和40年9月22日判決・民集19巻6号1656頁)。
したがって、保証が「多額の借財」にあたるにもかかわらず、保証する会社が、取締役会決議なく保証した場合でも、原則として有効ですが、債権者が、①保証する会社が取締役会決議なく保証したことを知っていたとき、または、②知り得べかりしとき(知らないことに「過失」があったとき)には、保証は無効となります。
取締役会決議がなされたかどうかについて知らないことに過失があった場合には保証が無効になってしまうので、債権者としては最低限の注意義務を果たしたものとして、保証が「多額の借財」にあたるような場合には、保証する会社の取締役会決議がなされたことを確認するために、取締役会議事録の提出を求めるべきでしょう。
利益相反取引とは
株式会社が、株式会社と取締役との利益が相反する取引をしようとするときは、取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)の承認を要することとされています(会社法365条1項、356条1項2号、3号)。
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
会社法365条
取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
取締役が代表取締役をしている他社の債務を会社が保証する場合、利益相反取引にあたると解されています(最高裁昭和45年4月23日判決・民集24巻4号364頁)。
具体的には、保証する会社の代表取締役が、取引先の代表取締役を兼ねているような場合には、利益相反取引として、保証する会社の取締役会(取締役会非設置会社であれば株主総会)の承認が必要となります。
取締役会の承認を受けた利益相反取引は、有効になります。
取締役会の承認を受けない利益相反取引は、取引の相手方との関係では、取引安全の見地から、①当該取引が利益相反取引に該当すること、および、②取締役会の承認を受けていないことを当該取引の相手方が知っていることを、会社が主張立証してはじめて、会社は当該取引の相手方に対して利益相反取引の無効を主張できます(相対的無効説、最高裁昭和43年12月25日判決・民集22巻13号3511頁)。
したがって、保証する会社の代表取締役が、取引先の代表取締役を兼ねているような場合など、保証が利益相反取引にあたる場合には、保証する会社の取締役会の承認がなされたことを確認するために、取締役会議事録の提出を求めるべきです。
また、決議につき特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法369条2項)。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
決議につき特別利害関係を有する取締役には、取締役会における意見陳述権もなく、退席を要求されれば指示に従わなければならないとされています(江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015)417頁)。また、公正を期する必要上、当然に議長の権限も失います(東京高裁平成8年2月8日判決)。
上述の通り、保証が利益相反取引にあたる場合には、保証する会社の取締役会の承認が必要ですが、その取締役会では、保証する会社の代表取締役等の特別利害関係取締役は、議決に加わることができませんし、議長を務めることもできませんので、これらのことを、取締役会議事録で確認すべきです。

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