システムエンジニア(SE)の偽装請負に関する判断基準とリスク

IT・情報セキュリティ
上村 哲史弁護士 森・濱田松本法律事務所 東京オフィス 南谷 健太弁護士 森・濱田松本法律事務所 東京オフィス

 システム開発等を行うベンダ企業である当社は、ユーザとの間でシステムエンジニアリングサービス(SES)の契約を締結し、当社にて雇用しているSEをユーザに常駐させて作業を行わせています。このような作業形態について、偽装請負の可能性があるという話を聞いたことがあります。具体的にどのような場合に偽装請負と判断され、どのようなペナルティを受けるのでしょうか。

 ユーザにSEを常駐して作業をさせる形態がすべて法的に問題となるわけではありません。しかし、ユーザがSEに直接作業を指示したり、SEの労働時間を管理するなどの事実が認められたりするなど、ユーザから当該SEへの指揮命令関係が認められる場合には、「労働者派遣」や「労働者供給」に該当し、労働者派遣法や職業安定法上の罰則や行政監督の対象となる可能性があります。

解説

目次

  1. システム開発におけるSEの勤務形態と偽装請負
  2. 請負契約・準委任契約と労働者派遣・労働者供給との違い
  3. 偽装請負の判断基準
    1. 厚生労働省における判断基準
    2. SES契約における偽装請負の考え方
  4. 偽装請負と判断された場合のリスク
    1. ベンダ側のリスク
    2. ユーザ側のリスク
  5. おわりに(チェックリスト)

システム開発におけるSEの勤務形態と偽装請負

 偽装請負とは、一般に、形式上は請負契約・準委任契約の形態を取っているものの、その実質は労働者派遣・労働者供給に該当するものをいいます。
 システム開発等を行うベンダ企業(以下「ベンダ」といいます)がユーザ企業(以下「ユーザ」といいます)との間でSES契約等を締結し、ユーザから委託を受けてシステム開発等の業務を行う場合において、ユーザに開発環境が用意されているなどの理由から、ベンダのSEがユーザの社内等に常駐して作業等を行うことが多く見られます。その際、SEがユーザから具体的な指示を受けて作業をするケースも散見されます。
 このようなSEの作業形態は、設例にもあるとおり、偽装請負と判断され、法的リスクを抱える可能性があります。

請負契約・準委任契約と労働者派遣・労働者供給との違い

 上記のSES契約等について、通常は請負契約または準委任契約として整理されることが多いですが、偽装請負への該当性を考えるにあたり、これらの契約と労働者派遣・労働者供給との違いを知っておくことが有用です。
 請負契約とは、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約をいいます(民法632条)。請負契約では、請負人は、一定の納期までに納品物を作成して納品するなど、一定の仕事を完成させる義務を負っています。準委任契約とは、当事者の一方が相手方に「法律行為でない事務を委託」する契約をいいます(民法656条)。準委任契約では、受託者は、仕事を完成させる義務を負っておらず、善良な監理者の注意をもって委任事務を遂行すれば足ります。請負と準委任とは性質の異なる契約ですが、いずれもベンダ側(請負人・受託者)がユーザ側(注文者・委託者)から独立しており、ベンダ側がユーザ側から指揮命令を受けずに業務の遂行・仕事の完成を行う点では共通しています。

 これに対し、労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをい」い(職業安定法4条7号)、原則として労働者供給事業を行うこと、および当該事業者から共有される労働者を受け入れることは禁止されています(同法44条)。労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係のもとに、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」ものをいい(労働者派遣法2条1号)、労働者供給に該当する類型のうち、供給元・労働者との間に労働契約がある一定の類型を例外的に適法とするものです。
 したがって、請負契約・準委任契約に該当するか、労働者派遣・労働者供給に該当するかは、ユーザ側から当該SEが指揮命令を受ける関係にあるかによって決定されることとなります。

偽装請負の判断基準

 ベンダの雇用するSEがユーザの社内に常駐して作業を行うこと自体は、機密保持や作業効率等の観点から一定の合理性があり、それだけでただちに具体的な指揮命令関係にあるとして、偽装請負と評価されるわけではありません。では、具体的に指揮命令を受ける関係にあると判断されるのはどのような場合でしょうか。

厚生労働省における判断基準

 判断にあたり参考となるものとして、厚生労働省から「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正平成24年厚生労働省告示第518号。以下「37号告示」といいます)が公表されており、当該告示の中で、労働者派遣と請負契約(準委任契約も含みますが、以下では単に「請負」といいます)の区別の基準が示されています。
 37号告示は、主に以下の2点のいずれにも該当する場合について、(偽装請負ではない)請負により行われる事業としています(37号告示2条)1

  1. 請負事業主が、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること
  2. 請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理すること

 また、37条告示では、①②に該当するための要素もあわせて示されています。

 ①に該当するためには、( i )業務遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと、( ii )労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うこと、( iii )企業における秩序維持・確保等のための指示その他の管理を自ら行うことが求められます。

 ②に該当するためには、( i )業務処理に要する資金をすべて自らの責任のもと調達かつ支弁すること、( ii )業務処理について民法等の法律に規定された事業主としてすべての責任を負うこと、( iii )自己の責任・負担で準備・調達した資材・機械等により業務処理をしたり、専門的な技術・経験に基づいて業務処理をするなど、単に肉体的な労働力を提供するものでないことが求められます。

 さらに、37号告示に関しては、2つのQ&A(「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集(第2集)」)が公表されており、上記①②の基準に関する具体的な解釈が示されています 2

 たとえば、クレーム対応にあたり、作業工程の見直しや欠陥商品の再制作等の発注に関わる要求・注文をすることは、請負契約の当事者間で行われるため、発注者から請負労働者への直接の命令ではなく、発注者から請負労働者に対し直接工程変更や再制作を指示しない限り、偽装請負に該当しないとされています。
 また、作業工程の指示として、発注者が業務の作業工程に関し、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定する場合は偽装請負となると解されており、当該指示が口頭に限らず文書等に示され、請負事業主が当該指示どおり作業を行っている場合においても同様とされています。

 なお、労働者供給についても、職業安定法施行規則4条において、労働者供給と請負とを区別する基準が提示されていますが、その内容はおおよそ上記の①②と同様です。そのため、基本的には、37号告示の①②に照らし請負に該当しない場合で、かつ供給元・労働者との間に労働契約がある場合は労働者派遣、それ以外の場合は労働者供給に該当すると整理できると考えられます。

SES契約における偽装請負の考え方

 37号告示の基準からすると、ベンダの雇用するSEがユーザの社内に常駐して作業を行う場合において、たとえば、以下の場合等には、偽装請負と判断されやすくなると考えられます

  • ユーザがSEに対し業務方法に関する技術指導・教育等を行ったり、作業工程の作成・調整・SEへの指示等を行ったり、ユーザがSEの能力評価等を行っていたりする場合(①( i ))
  • SEの作業日数・作業時間の管理等をユーザが実施している場合(①( ii ))
  • ユーザがSEの作業員数の決定、配置および変更を行っている場合(①( iii ))
  • ユーザがSEに対し、業務の処理に必要な機材等の供給を行っている場合(②( i ))

 もっとも、①( i )との関係では、厚労省からは、技術指導が一律に偽装請負となるわけではないとの見解が示されています。ユーザがSEに対し、どこまで技術指導等を行うことができるのかが問題となりますが、厚労省の見解によれば、たとえば、ベンダがユーザの新設備を借り受けて初めて使用する場合等において、業務処理の開始に先立ち、当該設備の貸主であるユーザが、借主であるベンダの監督のもとで、SEに当該設備の操作方法等について説明を行う場合等には、偽装請負と判断されるものではないとされています 3

 また、②( iii )との関係では、システム開発等の場合、SEが業務遂行にあたっての専門的な知識を有している場合があるため、かかるSEが、ユーザの担当者とコミュニケーションを取りながら共同してプロジェクトを進めていくような事例であれば、外形的にユーザ側から当該SEに対する指示と思わしき言動があったとしても、37号告示の②に照らして、偽装請負に該当しないと評価できるケースも一定数存在するものと考えられます。しかし、かかる場合であっても、37号告示における他の要素に関し、直前の囲みに示したような事情が見受けられるのであれば、偽装請負に該当する可能性が否定できない点には留意が必要です。

偽装請負と判断された場合のリスク

ベンダ側のリスク

 偽装請負が労働者派遣に該当する場合、ベンダが派遣事業の許可を得ていなければ、罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象となります(労働者派遣法59条2号)。また、派遣事業の許可を得ていた場合でも、偽装請負の場合には、労働者派遣契約の締結(同法26条)といった派遣元事業主に求められる義務を履行していないため、厚生労働大臣の指導・助言(同法48条1項)、改善措置命令(同法49条)、是正措置勧告(従わない場合には企業名公表)(同法49条の2)といった種々の行政監督の対象となります。
 また、労働者供給に該当する場合には、労働者供給事業の禁止に反するものとして、罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象となります(職業安定法64条9号)。

ユーザ側のリスク

 ユーザ側にとっても、偽装請負と判断されることは法的リスクを伴います。ベンダが派遣事業の許可を得ていない場合、労働者派遣事業主以外から派遣労働者を受け入れたこととなり、労働者派遣法24条の2に違反するため、上記4-1のような種々の行政監督の対象となります。また、ベンダが派遣事業の許可を得ていた場合でも、派遣先事業主として、労働者派遣法上求められている義務を履行していないため、上記4-1の行政監督の対象となります。

 また、労働者派遣法の義務を免れることを目的として、偽装請負による労働者派遣を受け入れた場合には、当該偽装請負が開始した時点で、当該役務の提供を受ける事業主(ユーザ)が、派遣労働者(SE)に対し、派遣元(ベンダ)における労働条件と同一の労働条件で直接雇用の申込みをしたものとみなされる(労働者派遣法40条の6第1項5号)ことにも注意が必要です。派遣労働者が当該申込を承諾する意思表示をした場合、派遣労働者と派遣先との間で労働契約が成立することとなります。

 労働者派遣法40条の6第1項5号に基づくみなし申込の効力については、近時裁判例による判断が相次いでおり 4、生産管理システムのパッケージソフトのカスタマイズ業務等に従事したシステムエンジニアについて、上記が争点となった事例も出ています(結論としては、具体的な事情に照らして成立を否定しています)5。また、実際にみなし申込みの効力発生を認めた事例もあります(もっとも、法定期間内に労働者からの承諾の意思表示がなかったものとして、最終的には労働契約の成立を否定しています)6

おわりに(チェックリスト)

 以上のとおり、偽装請負として労働者派遣・労働者供給に該当する場合とそのリスクについて概説しました。個別具体的な事情に応じて偽装請負に該当する可能性が異なり得るため、現状のSEの勤務形態等に照らして偽装請負に該当する可能性がある場合には、SEやユーザの担当者からヒアリングをして、詳細な状況を確認することが望ましいといえます。たとえば、以下のリストに列挙した各事項への回答の多くが「ユーザ」となる場合には、偽装請負にあたる可能性が高いと思われますので、今一度勤務形態等の見直しが必要となるでしょう。

【チェックリスト】
  • 作業員数の決定、配置および変更を誰が実施しているか
  • SEに対する業務方法に関する技術指導・教育等を誰が実施しているか
  • 作業工程の作成・調整・対応方針等の決定・SEへの指示を誰が行っているか
  • SEの能力評価を誰が行っているか
  • SEの労働者の労働時間管理を誰が行っているか
  • 業務の処理に必要な機材等の供給を誰から受けているか

  1. ただし、①②のいずれに該当しても、法の規定を免れるために故意に偽装されたものであり、当該事業の真の目的が労働者派遣事業を行うことにある場合には、労働者派遣と判断されます(37号告示3条)。 ↩︎

  2. そのほか、厚生労働省・都道府県労働局が37号告示やQ&A等をまとめた「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」も参考になります。 ↩︎

  3. 厚生労働省から公表されている「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に係る疑義応答集について」では、「『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』(37号告示)に関する疑義応答集」のQ10(請負業務において発注者が行う技術指導)・Q11(請負業務の内容が変更した場合の技術指導)の考え方が、システム開発を請負業務とする場合にも当てはまるとの見解が示されています。 ↩︎

  4. 東リ事件(神戸地裁令和2年3月13日判決・労判1223号27頁)、AQソリューションズ事件(東京地裁令和2年6月11日判決・労判1233号26頁)、日本貨物検数協会事件(名古屋地裁令和2年7月20日判決・労判1228号33頁) ↩︎

  5. 前掲注4)AQソリューションズ事件 ↩︎

  6. 前掲注4)日本貨物検数協会事件 ↩︎

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