システムエンジニア(SE)への専門業務型裁量労働制の導入要件と留意事項

IT・情報セキュリティ
上村 哲史弁護士 森・濱田松本法律事務所 東京オフィス 南谷 健太弁護士 森・濱田松本法律事務所 東京オフィス

 当社で雇用しているシステムエンジニア(SE)の長時間労働が常態化しており、労務管理の一環として勤務状態に合わせた裁量労働制の導入を検討しています。導入にあたっての留意点等はありますか。

 裁量労働制には専門業務型と企画業務型の2種類ありますが、SEに対して導入するとすれば専門業務型が考えられます。
 しかし、専門業務型裁量労働制を導入するためには、対象業務に該当する必要があるだけでなく、健康福祉確保措置・苦情処理実施措置の実施などの厳格な要件をクリアする必要があります。また、専門業務型裁量労働制を導入しても、所定の労働時間の労働をしたものとみなされるだけで、休憩・休日や時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の規制を免れるわけではありませんので、留意する必要があります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 裁量労働制とは
  3. フレックスタイム制、固定残業代制度、高度プロフェッショナル制度との違い
  4. 導入のための要件
    1. 対象業務
    2. みなし労働時間
    3. 健康福祉確保措置・苦情処理実施措置の具体的内容
    4. 時間外労働・休憩時間・休日労働・深夜業の取扱い
    5. その他労使協定の締結時に注意すべき点
  5. まとめ

はじめに

 ソフトウェアベンダにおける開発コストの大部分はSEの人件費が占めていることから、ソフトウェアベンダにおいては、利益率を向上させるため、SEの労働時間を抑えようとするインセンティブが働きます。他方で、近年では労働時間管理が厳格化される傾向にあり、また、サービス残業等に対するレピュテーションリスクも大きくなってきていることから、従前の労働時間の管理体制を維持したままコストを抑えることは難しくなりつつあります。

 このような背景から、長時間労働に伴うコストの増加・法的リスクを避けるべく、SE等を対象とする裁量労働制の導入が検討されることがあります。本稿では、裁量労働制の内容、その導入の要件や留意点を説明します。

裁量労働制とは

 裁量労働制とは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者について、法定の要件の下、1日の労働時間を実際の労働時間にかかわらず、所定の労働時間の労働をしたものとみなす制度で、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。
 専門業務型は、業務の性質上、労働者の裁量が大幅に認められる一定の業務を対象とする一方で、企画業務型は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲の労働者への適用を想定しています。そのため、SEに対して導入するとすれば、専門業務型を検討することになるでしょう

 裁量労働制は、長時間労働の傾向が強く、かつ当該業務に裁量があり労働時間管理が難しい労働者に対しては、これを導入する一定のニーズがあります。しかし、対象業務の制限や導入手続が厳格であることから、積極的に導入されているとは言い難く、導入企業の割合は、令和2年の調査では、専門業務型で1.8%、企画業務型で0.8%となっています 1

フレックスタイム制、固定残業代制度、高度プロフェッショナル制度との違い

 フレックスタイム制は、始終業時刻を労働者の裁量に委ねる制度であり(労働基準法32条の3)、固定残業代制度も法定の時間外の割増賃金に代えて一定額の金銭を支給する制度であるため、いずれも実労働時間に応じた残業代を支払う必要があることには変わりありません。これに対し、裁量労働制は実労働時間数に関係なく一定時間数労働したものとみなされますので、上記の2つの制度とは大きく異なります。
 また、高度プロフェッショナル制度(労働基準法41条の2)は、休憩、休日や時間外・休日・深夜労働の規制(これらは裁量労働制に適用されます)すらも除外される点で、裁量労働制とは異なります。

導入のための要件

 専門業務型裁量労働制を導入するためには、①就業規則・労働協約等に制度の根拠規定を設けることに加えて、②労使協定の締結・労働基準監督署への届出が必要となります
 ①は労働契約上の権利義務を発生させるための要件であり、②は裁量労働制を労働基準法上適法とするための要件になります。労働基準監督署への届出は、裁量労働制の効力が発生するための要件ではありませんが、届出の懈怠(けたい)は罰則(30万円以下の罰金)の適用対象となります(労働基準法120条1号)。なお、②は、事業場ごとに行う必要があります。

 労使協定に定める事項は、次の各項目となります 2

  1. 対象業務
  2. みなし労働時間
  3. 対象業務を遂行する手段および時間配分などの決定などに関し、対象業務に従事する労働者に具体的な指示をしないこと
  4. 健康福祉確保措置の具体的内容
  5. 苦情処理実施措置の具体的内容
  6. 有効期間 3
  7. 時間外労働・休憩時間・休日労働・深夜業の取扱い

対象業務

 導入可能な対象業務は19業務ありますが(労働基準法規則24条の2の2第2項、平成15年10月22日厚労省告示第354号)、SEとの関連では「情報処理システムの分析又は設計の業務」への該当性を検討する場合が多いと思われます 4

 「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、次のとおりであるとされています(昭和63年3月14日基発第150号)5

( i )ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定

( ⅱ )入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等

( ⅲ )システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること

 そのため、プログラミング業務といった労働者の裁量が乏しい業務は、「情報処理システムの分析又は設計の業務」に該当しない可能性が高いので留意が必要です。実際、プログラミング業務について裁量性が乏しいことを理由に「情報処理システムの分析又は設計の業務」への該当性を否定した裁判例として、エーディーディー事件(大阪高裁平成24年7月27日判決・労判1062号63頁)があります。

みなし労働時間

 みなし労働時間の定め方については、法令上の規制はないものの、平均的に当該業務の遂行に必要とされる時間であることが想定されているため(平成12年1月1日基発第1号)、実情に応じた時間を設定する必要があります。
 後述のとおり、時間外労働に関する規制は依然として適用されるため、みなし労働時間が法定労働時間を上回る場合には、上回った労働時間分の割増賃金を支払う必要があります。他方で、実労働時間がみなし労働時間を恒常的に下回ることは上記の定め方に照らして望ましくありません。また、実労働時間がみなし労働時間を上回る状態が恒常化していますと、労働者の不満が溜まり紛争等を誘発する可能性があるため、労使協定締結時に合理的な時間を設定しておく必要があります。

健康福祉確保措置・苦情処理実施措置の具体的内容

 健康福祉確保措置は、専門業務型裁量労働制が長時間労働を伴いやすい業務を対象としていることから、労使協定の規定事項の中でも重要な事項となります。当該措置の具体例としては、以下などがあげられます 6

  • 代休や特別休暇の付与
  • 健康診断の実施
  • 連続する有給休暇の取得推進
  • 健康問題に関する相談窓口の設置
  • 配置転換

 なお、使用者は労働者に対し、健康管理目的で労働時間の把握を行う必要がありますが(労働安全衛生法66条の8の3)、これは裁量労働の対象となる労働者についても同様です。ただし、あくまで健康管理目的に留めるべきであり、それ以上の労働時間管理は、かえって労働者の裁量を否定するものと評価されかねないので注意が必要です。

 苦情処理措置に関しては、労使協定において、苦情申出の窓口・担当者、苦情の範囲、処理手順・方法等について具体的な内容を明らかにする必要があります。当該措置は、使用者の工夫により、苦情申出をしやすくしたり、苦情の範囲について評価・賃金制度および付随する事項まで含めたりするのが望ましいとされています 7

時間外労働・休憩時間・休日労働・深夜業の取扱い

 裁量労働制は、1日の労働時間を実際の労働時間ではなく所定の労働時間の労働をしたものとみなす制度であるため、休憩(労働基準法34条)、休日(同35条)、時間外・休日・深夜労働(同36条、37条)の規制については適用されます。
 そのため、みなし時間が法定労働時間を超える場合(たとえば、9時間/日とするなど)には、36協定の締結が必要であり、超過分について割増賃金を支払う必要があります。また、みなし労働時間の範囲内であっても、深夜割増賃金や法定休日における休日割増賃金を支払う必要があります。

その他労使協定の締結時に注意すべき点

 労使協定の締結にあたっては、労使協定の締結主体として適法に過半数代表者が選出されているかという点がよく問題となります。過半数代表者は、管理監督者でないことおよび民主的手続により選出され使用者の意向に基づいて選出されていないことが必要であり(労働基準法規則6条の2第1項)、これに反する方法で選出された過半数代表者と締結した労使協定は無効となります。
 実際に、労使協定が無効となった裁判例として、フューチャーインフィニティ事件(大阪地裁平成27年2月20日判決・労働判例ジャーナル39号2頁)、乙山彩色工房事件(京都地裁平成29年4月27日判決・労判1168号80頁)などがあります。

まとめ

 以上のとおり、SEに対して専門業務型裁量労働制を導入する一定のニーズがある一方で、導入にあたり注意すべき事項がある点には留意する必要があります。最後に、注意すべき事項のうち、主なものをチェックリストの形にまとめましたので、ご活用ください。

  • 対象業務が法定の19業務(「情報処理システムの分析又は設計の業務」など)に該当するか。
  • みなし労働時間は労使双方にとって合理的な時間となっているか。
  • 就業規則・労働協約等に根拠規定を設けているか。
  • 健康福祉確保措置・苦情処理措置について具体的な内容を労使協定に盛り込んでいるか。
  • 休憩、休日、時間外・休日・深夜労働の規制が適用されることを念頭に置いているか。
  • 労使協定の締結にあたり、過半数代表者が適法に選出されているか。
  • 締結した労使協定を、労働基準監督署へ届け出たか。

  1. 厚生労働省「令和2年就労条件総合調査 結果の概要 労働時間制度」 ↩︎

  2. 厚労省HPに労使協定の様式(様式第13号 専門業務型裁量労働制に関する協定届)が掲載されていますので、ご覧ください。 ↩︎

  3. 不適切に本制度が運用されることを防ぐため、労使協定の有効期間は3年以内とすることが望ましいとされています(平成15年10月22日基発第1022001号)。 ↩︎

  4. 他にも、「システムコンサルタント」「ゲーム用ソフトウェアの創作」への該当性が問題になることも多いと思われ、これらの業務についても厚労省通達(平成14年2月13日基発第0213002号)により行政解釈が示されています。 ↩︎

  5. 同通達では、「情報処理システム」とは、「情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること」とされています。 ↩︎

  6. 詳細は、平成11年12月27日労働省告示第149号「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」をご覧ください。 ↩︎

  7. 詳細は、前掲注6の指針をご覧ください。 ↩︎

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する