システム開発における仕事の完成の判断基準

IT・情報セキュリティ
尾城 亮輔弁護士 尾城法律事務所

 当社はベンダーです。現在、システム開発プロジェクトが完了し、お客様(ユーザー)にてシステムの稼働が始まりました。しかし、その後、ユーザーからは、不具合が多くて使い物にならないから、システムは未完成であり、請負報酬の支払いはしないといわれています。当社は、報酬を支払ってもらうことはできるのでしょうか。

 システム開発における仕事の完成は、「仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否か」を基準として判断するのが一般的です。通常、システムがベンダーによって検収され、稼働をしている場合には、仕事の完成が認められ、報酬請求権が発生すると考えられます(もっとも、不具合がある場合には、瑕疵担保責任の問題が発生します)。

解説

目次

  1. 請負契約の報酬請求権
  2. システム開発における「完成」の判断
    1. 最終工程説
    2. 成果物が検収または稼働されている場合
    3. 成果物が検収も稼働もされていない場合
  3. まとめ

請負契約の報酬請求権

 請負契約は、完成した目的物を引き渡すことで報酬を請求することができるようになりますので、仕事が完成しない限り、報酬を請求することができません。仮に前払いの特約を締結していたとしても、仕事が完成しなかった場合には、原則として前払金を返還しなければならなくなります。
 また、仕事が完成したあとに不具合が生じたとしても、それは瑕疵担保の問題となり、契約が解除される場合は、契約の内容を達成できない重大な瑕疵があった場合に限られることとなります。

*この点は、平成29年の民法改正により変更され、平成32年4月1日の施行後は解除の要件は完成の前後で同一となります。

システム開発における「完成」の判断

最終工程説

 システム開発では、仕事の完成の有無は、「仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべき」とされています(東京地裁平成14年4月22日判決・判タ1127号161頁など)。

 この平成14年の東京地判の事件では、「本件システム開発業務は、大別して、①要件定義、概要設計、②詳細設計、③プログラミング、④結合テスト、⑤検証、総合テスト、⑥本稼働、⑦ドキュメント作成、提出、⑧ネットワーク回線工事、⑨データ移行という工程が予定されていた」と認定していたうえで、ベンダーが、前記各工程を終了し、ユーザーに対して、各サブシステムやドキュメント等を納品し、当該システムを本格稼働させ、約1年にわたり使用を継続していたことから、仕事の完成を認めています。

 この事件では、実際にシステムを稼働したあとに、システムの速度が非常に遅い等の問題があることが指摘されており、ユーザーは、このような不具合がある以上、完成は認められない旨の主張をしましたが、裁判所は上記のように述べて完成を認めました(ただし、この事件では、契約の目的を達成することのできない重大な瑕疵があるとして、結論として契約の解除を認めています)。

 このように、納品された成果物に不具合があることを基準とするのではなく、予定された最後の工程を終えているかを基準に考えるというのが、システム開発の完成の有無を判断する際の基本的な考え方になります。

成果物が検収または稼働されている場合

 「予定された最後の工程まで終了したか否か」が基準になると説明しましたが、具体的なプロジェクトではどのように判断をすべきでしょうか。
 この点、まず、ユーザーが検収をしている場合またはシステムを実業務に使用している(稼働させている)場合には、システムの完成が認められるのが一般的です

 システムの稼働が完成の根拠となるのは、システムが稼働されているということは、プロジェクトの最終工程まで終了していることを推認させる事実であると考えられるためです。もっとも、稼働をしていれば常に完成が認められるわけではありません。たとえば、プロジェクト全体が遅延をしたことから、ごく一部の機能のみを切り出して稼働させることとしたが、他のほとんどの機能は未構築であるという場合には、システム全体を構築するという仕事は完成していないという評価になると考えられます。

 また、「検収」とは、納品された成果物を点検して受領することをいいますが、検収がなされているということは、通常、ユーザーにより仕事の完成が確認されているということを意味しますから、検収書が発行されていることは、仕事の完成を推認する有力な事実となります。

 もっとも、検収書が発行されていても、それが便宜的・形式的なものであれば、仕事の完成が認められない場合もあり得るので、検収前の開発状況や検収書発行に至るまでの経緯(稼働判定がどのように行われたかなど)についてもあわせて検討することが必要になります。

成果物が検収も稼働もされていない場合

 それでは、成果物が検収も稼働もされていない場合にはどのように考えるべきでしょうか。たとえば、システムの重要機能が欠落しており、ユーザーが検収を拒絶したというような場合には、ベンダーの仕事の完成を認めることはできないものと考えられます

 一方、プロジェクトの最終段階で行うことが予定されていたユーザーテストを実施している最中に、ユーザーが作業を中断してしまったという場合、「予定された最後の工程」が終了していないので、ベンダーの仕事は完成していないとされてしまうのでしょうか。

 システム開発は、ベンダーとユーザーが共同して相互に作業を分担します。たとえば、システムで使用するデータの整備やシステムを使用する従業員の配置・教育等の準備作業(このような作業を「ユーザー作業」といいます)が、ユーザーによって行われなければ、システムを稼働させることはできませんし、開発中に、ユーザー作業が完了しなければ、ベンダーも次の工程を進めることができないということはしばしば発生します。

 このため、仮にシステムが稼働せず、ユーザーによる検収が行われていなかったとしても、ベンダーにて、ユーザー作業を前提とせずに行うことのできる作業を完了し、ベンダーがユーザー作業に協力する姿勢を見せているにもかかわらず、ユーザーがユーザー作業を行わないという場合には、「予定された最後の工程まで一応終了した」として、ベンダーによる仕事の完成を認めることができると考えます(理論的には、民法493条の「債務の履行について債権者の行為を要するとき」にあたると整理することができると考えられます)。

まとめ

 仕事の完成の有無は、「仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべき」と考えられていますが、具体的なあてはめの段階でどのように考えるかは、まだ明確になっていない点も少なくありません。検収がある場合でも、検収前の開発状況や検収書発行に至るまでの経緯が問題となりますし、検収がない場合でも、ユーザー作業の実施状況などを評価した結果、完成が認められることがあります。このように、完成の有無の判断は、プロジェクトの状況に即して行うことが求められます。

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