ベトナムにおける役員の責任とその軽減策

国際取引・海外進出
長岡 隼平弁護士 西村あさひ法律事務所

 当社(日本の会社)は、ベトナムの出資先(ベトナム法上の株式会社)に対して20%の持株比率を保持し、取締役会メンバー1名を派遣していますが、万が一のときに大きな経営責任を負ってしまうのではないかという不安の声があがっています。そもそも、ベトナム法上、取締役会メンバーはどのような法的責任を負い得るのでしょうか。また何らかの法的責任を負う可能性がある場合、当該責任を限定する方策がないか、教えてください。

 ベトナム法上の株式会社における取締役会メンバーは、以下のとおり、常勤か非常勤かにかかわらず、ベトナム法上、会社または第三者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。こうしたリスクに対処するため、出資先の会社との間での責任限定契約の締結や、D&O保険の加入といった責任軽減策が考えられます。

解説

目次

  1. 取締役会メンバーが負い得る法的責任について
    1. 企業法上の責任
    2. その他の責任
  2. 取締役会メンバーの法的責任を限定する手段
    1. 責任限定契約
    2. D&O保険

 近時、日本企業によるベトナム企業への投資手法が多様化するなかで、日本企業が、ベトナムの株式会社の議決権の過半数を握らないマイノリティ株主として資本参加し、1名ないし数名の取締役を派遣して出資先の経営に一定の影響力を行使するというケースも見られるようになってきました。

 そのようなケースにおいて、ベトナムの法制度に必ずしも精通しているわけではない派遣役員が業務遂行の過程で負い得る法的責任についての関心も高まっています。ベトナム法上の株式会社における取締役会メンバーが負い得る法的責任、および、契約等によって当該責任を限定する方策について、解説します。

取締役会メンバーが負い得る法的責任について

企業法上の責任

 ベトナム企業法153.4条は、下記のとおり規定しています。

ベトナム企業法153.4条
取締役会が採択した決議または決定が法令、株主総会の決議または会社の定款の規定に反し、会社に損害を与えた場合、当該決議または決定の採択に賛成した各構成員は、当該決議または決定について連帯して個人責任を負い、会社に対し損害を賠償しなければならない。上記決議または決定の採択に反対した構成員は、責任を免除される。この場合、当該会社の株主は、裁判所に対して、当該決議または決定の実施の中断または当該決議または決定の取消しを要求する権利を有する。

 したがって、常勤か非常勤かにかかわらず、取締役会の構成員は、自らが賛成票を投じた法令・定款違反の取締役会決議により会社に生じた損害を賠償する責任を負います

 ベトナムの株式会社における取締役会メンバーとして選任される日本人の方は、法制度の違いや言語・時間の制約から、すべての決議について、その適法性を常に十分に確認できるとは言い切れないと思われますので、この点はベトナムで日本人役員を選任されるうえで注意すべきリスクであると思われます。

 このほか、取締役会の構成員は、常勤か非常勤かにかかわらず、以下のとおり、企業法上の手続違反等について民事責任を負い得ます。

企業法140.2条
取締役会が規定に従って株主総会の会合の招集を行わない場合、取締役会の会長および各取締役は会社に生じた損害を賠償しなければならない。

企業法149.5条
(株主総会の書面決議の開票手続について)
取締役会の各構成員、開票者および開票監察者は、開票調書の誠実性、正確性について連帯して責任を負い、不誠実、不正確な開票により採択された各決定から発生した損害について連帯して責任を負わなければならない。

企業法136条
(自己株式の買取りまたは配当について)
買取りされる株式の支払いがこの法律第134条1項に違反しまたは配当の支払いがこの法律第135条の規定に違反した場合、各株主は、受け取った金額およびその他の財産を会社へ払い戻さなければならない。株主が会社に払い戻さない場合、全取締役は、払い戻しをしない株主に支払った金額および財産の価額の範囲内で、会社の各債務およびその他の財産義務に対し、共に連帯して責任を負わなければならない。

企業法167.5条
(関係当事者間取引について)
契約締結者、関係する株主、取締役または社長もしくは総社長は、発生した損害を連帯して賠償しなければならず、締結または履行された契約、取引から得た利益を会社に対して返還しなければならない。

その他の責任

 個別の取締役の行為が、会社または第三者に対する不法行為を構成する場合には、当該会社または第三者は、当該取締役に対して、民法上、当該不法行為により被った損害の賠償を求めることができます。

 なお、企業法166条は、株主代表訴訟の制度を定めており、取締役会メンバーが会社に対して何らかの不法行為を行った場合、会社が自ら当該取締役会メンバーを提訴しないとしても、一定の要件を満たす株主が会社に代わって訴訟を提起することも可能です。

取締役会メンバーの法的責任を限定する手段

責任限定契約

 日本の会社法では、非業務執行取締役等の責任軽減策として、一定の場合の任務懈怠責任について、責任に限度額を設ける「責任限定契約」を締結することが認められていますが、ベトナムでは、日本のように、法令上明記された責任限定契約の制度は存在しません

 一方で、責任限定契約を禁止する法令もないため、同契約を締結することで、派遣先の会社が合意通りに制限の範囲内で当該取締役会メンバーへの責任追及をするという運用を実施する限りにおいては、一定のリスクヘッジとして機能し得ると思われます。

 もっとも、具体的に紛争が起きる場面、すなわち、出資先の会社が合意に反して、限定された範囲を超えて当該取締役会メンバーに責任追及を行う場合を想定すると、その場合、すでになされた責任限定契約の締結の有効性が裁判所または仲裁で争われるものと思われますが、(日本のように裁判の公開が進んでいないため、網羅的な先例の調査はできませんが、)実際に裁判所または仲裁廷が、法令上明記されたものでない責任限定契約の有効性を認めない可能性も否定できません。

 また、手続上は、出資先の最高意思決定機関である株主総会において、当該責任限定契約の締結および当該締結を可能とするための定款変更について、承認決議を行うことが安全であると考えられますが、その場合であっても、当該承認を行った株主総会で反対票を投じた株主との関係で当該決議が効力を有するかについては法令上規定がなく、先例もないと思われることから、少数株主が会社の名義で提起する株主代表訴訟のケースでは、責任限定契約の内容が無効とされるリスクもあると思われます。

 結論としては、責任限定契約によるリスクヘッジには一定の意味はありますので、締結されることをお勧めしますが、上記の点には留意が必要です。

D&O保険

 役員が業務の遂行に起因して損害賠償請求を受けた場合に、損害賠償金等の補償が受けられる保険商品は一般にD&O保険と呼ばれ、日系の保険会社からも、ベトナムの会社の役員を対象とするD&O保険が販売されているようです。

 加入者が出資先の会社となる場合、保険料をどちらが負担するか(=出資先の会社が負担するのか、日本側で負担するのか)については、出資先の会社との間での交渉になりますが、責任軽減策の1つとして検討に値するかと思います。

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