インターネット上の違法行為に対する米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用状況と国内手続との比較

IT・情報セキュリティ

 どのような事例において米国の証拠開示制度(ディスカバリー)が活用されていますか。
 また、2020年8月31日にプロバイダ責任制限法の総務省令が改正され、開示対象に「発信者の電話番号」が追加されましたが、インターネット上の違法行為に対して、同法に基づく開示請求と米国の証拠開示制度(ディスカバリー)とは、どちらが有効ですか。

 現状で最も多い活用事例は、病院・クリニックに対するGoogle Maps上の誹謗中傷事例です。
 また、上記改正によっても、依然として米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の方が有効といえます。

解説

目次

  1. 本稿の概要
  2. 米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用状況
  3. 国内手続との比較

本稿の概要

 別稿「サイバー犯罪における米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用」において、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の一般的な要件および利点をご紹介しました。
 本稿では、まず同制度の具体的な活用状況を紹介のうえ、次に2020年8月31日改正で開示対象に「発信者の電話番号」が追加されたプロバイダ責任制限法に基づく開示請求と米国の証拠開示制度(ディスカバリー)との比較を紹介します。

米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用状況

 2019年1月1日から本稿執筆時点である2020年11月16日までの約2年間の裁判例を調査したところ、民事手続合衆国連邦法典第28編1782(a)(標題「外国及び国際法廷並びにその当事者のための援助」)、いわゆる証拠開示制度(ディスカバリー)を活用した日本国内の事例は少なくとも20件確認できました。
 利用者の属性でみると、20件中15件が病院またはクリニックであり、残り5件が一般の事業会社または個人でした。
 また、媒体別にみると、Google Mapsが20件中12件であり、残りがTwitter、Cloudflare、YouTube等と続いています。  これらの情報を踏まえると、日本国内のインターネット上の違法行為事例に対して、少なからず証拠開示制度(ディスカバリー)が活用されており、最も多い活用類型は、病院またはクリニックに対するGoogle Maps上の誹謗中傷であることがわかります。
 日本国内のGoogle Maps上の誹謗中傷に対して、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)が活用される理由は、別稿「Googleのサービスを利用したインターネット上の違法行為に対する米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用」で紹介したとおり、早期に投稿者のアカウントに係るIP アドレスに加え、SMS用認証番号がGoogleから開示される利点があるためと考えます。

国内手続との比較

 では、この利点は、現在も有効といえるでしょうか。
 すなわち、2020年8月31日にプロバイダ責任制限法の総務省令が改正され、開示対象に「発信者の電話番号」が追加されました。一見すると、もはや米国の証拠開示制度(ディスカバリー)を活用する実益はなくなったように思えます。
 ところが、本稿執筆時点では米国の証拠開示制度(ディスカバリー)を活用する実益は失われていません。
 その理由は、プロバイダ責任制限法に基づくコンテンツプロバイダに対する電話番号の開示請求については、仮処分手続を活用できない運用だからです。
 というのも、電話番号はIPアドレスと異なり、「早期に開示しないと消えてしまう」性質の情報ではないため、「保全の必要」が認められていません。
 そうなると、コンテンツプロバイダに対して電話番号を開示させるためには、仮処分手続ではなく、訴訟手続を利用せざるを得ません。Googleを始めとする海外法人を相手とする場合には、さらに海外送達に時間を要しますので、結局は1年程度かかります。
 他方で、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)は、上手くいけば最短3週間程度でGoogleから電話番号を含むアカウント情報の開示を受けることがあります。(別稿「Googleのサービスを利用したインターネット上の違法行為に対する米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用」参照。)。
 電話番号の開示請求について、仮処分手続を利用できるようになれば、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)を活用する実益はかなり小さくなることが予想されますが、実務上そうではないというのが現状です。

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