株主代表訴訟とは? 提訴請求の要件、流れ、会社側の対応など
コーポレート・M&A 更新当社は、これまで積極的な買収を行ってきましたが、各買収先の収益性は想定を下回っており、昨年には減損処理の結果、大幅な損失を計上してしまいました。この損失に関し、株主の方から当社監査役宛てで、担当取締役らの責任を追及する訴えの提起を求める通知が届きました。また、もし当社が各取締役の責任を追及しない場合は、株主代表訴訟を提起するとの内容も記載されています。
株主代表訴訟とはどのような制度なのか、また、当社としてどう対応すべきか教えてください。
株主代表訴訟とは、株主が、会社の代わりに役員その他一定の者の責任を追及する訴訟です。
株主は、会社に対して、一定の要件の下、役員等に対する責任追及等の訴えを提起することを請求することができます。この請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合、株主は株主代表訴訟を提起することが可能です。
会社は、株主が問題としている内容を精査したうえで、提訴請求に応じるのか否か、応じない場合は株主代表訴訟にどう関与するのか等の対応方針を検討することになります。
解説
目次
株主代表訴訟とは
概要
役員等が適正な業務を行わなかった場合には、当該役員等は任務懈怠責任(会社法423条1項)を負います。このような任務懈怠責任等のほか、役員等は会社に対して取引債務その他さまざまな責任を負うことがあります。
本来であれば、会社と役員等との間で委任関係があるので、会社が役員等に対して当該責任を追及することが原則です。しかし、責任を追及するべき会社側の役員等と責任を負う役員等の間には、同僚意識や上下関係があることも多く、会社が役員等の責任を追及することは事実上期待できないことが多いです。
そこで、会社法では、会社が役員その他一定の者の責任を追及しようとしない場合に、株主が会社の利益のために原告となり、役員等を被告として責任追及をする「株主による責任追及等の訴え」(同法847条)が認められており、一般的にこの訴えは株主代表訴訟と呼ばれています(同法847条1項)。
株主代表訴訟において役員等に損害賠償義務が認められる場合、裁判所は、被告である役員等に、(原告である株主ではなく)会社に対して賠償することを命じる判決を言い渡すことになります。
なお、株主代表訴訟の判決の効力は、勝訴・敗訴にかかわらず会社に及び(民事訴訟法115条1項2号)、他の株主も判決の効力に拘束されることになります。
株主代表訴訟が利用される場面
上述のとおり、株主は、株主代表訴訟を提起して勝訴したとしても、役員等から直接損害賠償を受けることはできません。
他方、株主が役員等から直接損害賠償を受けることができる請求としては、不法行為(民法709条)または役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)に基づく損害賠償請求が考えられます。たとえば、会社の違法な株券の不発行により株式を譲渡できなかったなど、会社の損害とは無関係に株主に損害が発生した場合、株主は、役員等に対して、不法行為等に基づく損害賠償請求をなし得ます。
もっとも、上場会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど、全株主が平等に不利益を受けた場合、特段の事情のない限り、株主代表訴訟を提起するべきとして、株主が役員等に対して直接損害賠償請求することは認められないとされています。その理由としては、①会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること、②株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると、取締役は、会社と株主に対し二重の責任を負うことになりかねず、株主相互間でも不平等を生じ得ること等が挙げられています(東京高裁平成17年1月18日判決・金判1209号10頁)。
このように役員等に直接損害賠償請求をすることができないケースでは、株主としては、株主代表訴訟等により、役員等に会社対して損害を賠償させることで、株主の損害(株式の価値)を回復させることを検討することになります。
株主代表訴訟の対象となる責任の範囲
一般的に株主代表訴訟において追及されるのは、役員等の任務懈怠に関する責任(会社法423条1項)が多いですが、対象となる責任の範囲は、会社法上の責任に限られません。売買契約等により生じる役員等の会社に対する取引債務も含まれるとされており、株主代表訴訟の対象となる責任の範囲は広範です。
一方で、判例上、所有権に基づく登記移転義務に関しては代表訴訟を提起できないとされており(最高裁(三小)平成21年3月10日判決・民集63巻3号361頁)、すべての債務が株主代表訴訟の対象になるわけではありません。
近時の株主代表訴訟の特徴と裁判例
今までに起こされた株主代表訴訟には、たとえば以下のような裁判例があります。会社に生じた損害について責任追及するため、賠償金額が高額になるケースも散見されます。
事件名 | 裁判例 | 概要 |
---|---|---|
東京電力株主代表訴訟 | 東京地裁令和4年7月13日判決 | 東京電力の株主である原告らが、取締役であった被告らにおいて、福島県沖で大規模地震が発生し、福島第一原発に原子炉から放射性物質を大量に放出する事故が発生することを予見し得たから、その防止に必要な対策を速やかに講ずべきであったのに、これを怠った取締役としての善管注意義務違反等の任務懈怠があるとして損害賠償を求めた事例。 裁判所は、取締役4名の任務懈怠を認定し、13兆3,210億円の損害賠償義務を認めた。 |
世紀東急工業株主代表訴訟事件 | 東京地裁令和4年3月28日判決 | 同業他社との合板の販売価格を引き上げる旨の合意を認識し、その実行に関与した取締役について、法令(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)遵守義務に違反したとして会社に対する責任が認められた事例。 取締役の法令遵守義務違反と会社による課徴金額の納付との間に相当因果関係があるとされ、取締役らに18億3,417万円の損害賠償義務を認めた。 |
オリンパス事件 | 東京高裁令和元年5月16日判決・判時2459号17頁 | 剰余金の配当等がその効力を生ずる日における分配可能額を超えて行われたものと認められたことから、各期末配当議案を定時株主総会に上程する取締役会決議に賛成していた取締役、中間配当・自己株式取得についての取締役会決議に賛成していた取締役に会社法462条1項に基づく支払義務等があるとされた事例。 裁判所は、取締役3名に対して、594億円の損害賠償義務を認めた。 |
提訴請求とは
株主は、株主代表訴訟を提起するに先立ち、原則として、まず会社に役員等の責任を追及する訴えを提起するよう請求する必要があります(会社法847条1項および3項)。これを提訴請求といいます。
提訴請求の日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合に、株主は株主代表訴訟を提起することができます(会社法847条3項)。
このような提訴請求に関する要件は、会社に訴え提起を検討する機会を与える趣旨で設けられています。会社は、提訴請求書面を検討し、事実関係や法適用の調査を進めたうえで、訴えを提起するかどうかを決定することになります。その決定は、株主代表訴訟を避けるためにも、提訴請求から60日以内に行うことが望ましいと考えられます。
なお、60日間の検討期間が経過すると会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、株主は提訴請求をせずに、ただちに株主代表訴訟を提起することができます(会社法847条5項)。
訴訟請求の流れ
提訴請求の要件
保有要件を満たす株主であること
提訴請求ができる者は、原則として6か月前(定款で下回る期間を定める場合には、その期間)から引き続き株式を有する株主に限られます(会社法847条1項)。ただし、非公開会社 1 では6か月前からの保有要件は不要で、保有期間にかかわらず株主であれば可能です(同条2項)。
また、公開会社・非公開会社にかかわらず、責任追及する役員等の責任の発生の当時において、すでに株主であったことは必要ありません。
さらに、株式数に関しては制限がなく、1株以上保有している者であれば提訴請求することが可能です。なお、単元株制度 2 が用いられている会社では、単元株式数に満たない数の株式を有する株主(単元未満株主)が提訴請求できないことを定款で定めることができます(会社法847条1項、189条2項)。
なお、提訴請求後に株主代表訴訟を提起した株主は、株主代表訴訟中を通じて株主であることが必要です(会社法851条参照)。株主代表訴訟の途中で原告が所有する全株式を譲渡した場合、株主代表訴訟は原告適格を欠くとして不適法却下されます。
不正な利益を図る等の目的でないこと
株主代表訴訟を提起できるのは、責任追及等の訴えが当該株主もしくは第三者の不正な利益を図りまたは当該株式会社に損害を加えることを目的でない場合に限られます(会社法847条1項ただし書)。
法令で定める書面により請求すること
提訴請求は、①被告となるべき者、②請求の趣旨および請求を特定するのに必要な事実を記載して、書面で行う必要があります(会社法847条1項、会社法施行規則217条1号・2号)。
提訴請求の書面の宛先は、会社法上の受領権者とする必要があります。たとえば、監査役設置会社においては、取締役を被告とする提訴請求は、監査役に対してなされる必要があり(会社法386条2項1号)、他方、監査役を被告とする提訴請求は、代表取締役を宛先とすることになります(同法349条4項)。
提訴請求を受けた会社の対応
提訴請求を受領した監査役や代表取締役等は、提訴請求が上述3の要件を充足しているか確認し、提訴請求に記載された事実の調査や法的検討を行ったうえで、会社を代表して役員等の責任追及等の訴えを提起するか判断することになります。
役員による不合理な提訴・不提訴の判断は、善管注意義務違反とされる可能性もあるため、慎重に行うことが必要です(東京地裁平成16年7月28日・判タ1228号269頁参照)。
提訴請求に応じない場合
会社は、提訴請求から60日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、株主または提訴請求記載の被告となるべき者からの請求があったとき、提訴請求者に対して、遅滞なく、当該訴えを提起しない理由を、書面または電磁的方法により通知する必要があります(会社法847条4項、会社法施行規則218条)。通知には、①会社が行った調査の内容、②被告となるべき者の責任の有無についての判断およびその理由、③被告となるべき者に責任があると判断した場合において訴えを提起しないときはその理由を記載します(会社法施行規則218条)
この通知を怠った場合または不正の通知をした場合、当該監査役等は、100万円以下の過料を科される可能性があります(会社法976条2号)。
提訴請求に応じる場合
会社は、提訴請求に応じて責任追及等の訴えを提起した場合、原則として、遅滞なく、その旨を公告するか、株主に通知することが必要です(会社法849条5項)。ただし、非公開会社の場合には、公告は認められず、株主への通知が必要となります(同条9項)。
公告もしくは通知を怠った場合または不正の公告もしくは通知をした場合、不提訴理由の通知と同様、100万円以下の過料を科される可能性があります(会社法976条2号)。
株主代表訴訟提起後、会社が株主代表訴訟に関与する方法
会社が提訴請求に応じず、株主が株主代表訴訟を提起した場合、訴訟の原告は株主、被告は役員等になります。会社は判決の効力を受けるものの(民事訴訟法115条1項2号)、訴訟手続そのものには関与しないことになります。
しかし、会社の意思決定に関連して株主代表訴訟が提起されている場合に、被告側(役員等)に加勢して、意思決定の正当性を訴訟の場で明らかにすることを会社が望む場合もしばしばあります。このような場合、会社は被告側(役員等)に補助参加することができます(会社法849条1項)。ただし、取締役、執行役等の側に補助参加する場合には、監査役等の同意が必要となる点に注意が必要です(同条3項)。
また、会社が株主側に与して役員等の責任を追及したいという場合も想定できないわけではありません(ただし、会社が提訴請求に応じていないことからすればこのようなケースは多くないと思われます)。この場合でも会社は、共同訴訟参加または補助参加という形で原告側(株主)に与して訴訟に関与することができます(会社法849条1項)。
会社としては、株主代表訴訟の訴訟経過をモニタリングしながら、訴訟への関与の是非および関与方法を検討することになります。
株主代表訴訟の終了によって生じる法律関係
和解
株主代表訴訟において、訴訟上の和解をすることもできます。
株主代表訴訟で和解をした場合、会社が和解の当事者でないときは、会社は、裁判所から、和解の内容を通知され、当該和解に異議があれば2週間以内に異議を述べるべき旨の催告を受けることになります(会社法850条2項)。
会社は、当該催告に対して異議を述べない場合、和解の内容を承認したものとみなされ、和解について、確定判決と同一の効果が会社に及ぶことになります(会社法850条3項・1項ただし書、民事訴訟法267条)。
判決
(1)株主が勝訴した場合
株主が勝訴した場合(一部勝訴の場合を含む)、1で述べたとおり、株主は、株主代表訴訟を提起して勝訴したとしても、役員等から直接損害賠償を受けることはできません。
もっとも、会社は株主の負担により利益を得たことになるため、株主は、会社に対して、株主代表訴訟に関し支出した必要費用(訴訟費用を除く)の額または弁護士報酬の額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができます(会社法852条1項)。
(2)株主が敗訴した場合
株主が敗訴した場合、株主は、悪意があった場合を除き、株式会社に対し、株主代表訴訟によって生じた損害を賠償する義務を負うことはありません(会社法852条2項)。
会社や役員等が取り得る対策
会社は、提訴請求を受けた場合に、60日以内に、責任追及等の訴えを提起するか否かを判断し、訴えを提起する場合には訴状や証拠等の作成を行わなければならず、スピーディーな対応が求められることになります。したがって、会社としては、提訴請求を受けた場合の対処フローについて、十分に検討しておく必要があります。
また、役員等に不祥事があり、提訴請求を受けることが予想される場合には、社内で事実関係等を把握・整理しておき、速やかに提訴・不提訴の判断ができるように準備しておくことが重要です。
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