商標としての使用(商標的使用論)

知的財産権・エンタメ
上田 亮祐弁護士 弁護士法人イノベンティア

 当社は、指定商品を洋服(第25類)として、当社オリジナルキャラクターのイラストを商標登録しています。近頃、Y社が製造するTシャツに、当社の登録商標と同一のイラストが大きくプリントされ、小売店で販売されるようになりました。この場合、Y社によるTシャツの製造や、Y社および小売店によるTシャツの販売を、商標権侵害を理由に差し止めることはできますか。

 商標権侵害の成立には、商標が、出所を明示する(自他商品を識別する)ものとして用いられていることが必要になります。そのため、商品の顧客が当該イラストによってその出所を識別できるといえるかぎり、商標権侵害が成立します。これに対して、イラストに意匠的効果や装飾的効果しかなく、出所表示機能や自他商品識別機能が発揮されていない場合には、商標権侵害は成立せず、Tシャツの製造・販売を差し止めることはできません。

解説

目次

  1. 商標法上の「使用」
  2. 商標の機能と商標としての使用
  3. 意匠的・装飾的効果
    1. 意匠的・装飾的効果と商標的使用論との関係
    2. 意匠的・装飾的効果に関する裁判例
  4. 説明的・記述的表示
    1. 説明的・記述的表示と商標的使用論との関係
    2. 説明的・記述的表示に関する裁判例
  5. 著作物の題号の表示
    1. 著作物の題号の表示と商標的使用論との関係
    2. 著作物の題号に関する裁判例
  6. まとめ

商標法上の「使用」

 商標登録がされた場合、「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有」します(商標法25条、参考:「商標権の効力(専用権と禁止権)」)。そして、商標権者が権利を専有する「使用」の意味として、同法2条3項各号が様々な行為を定義しています。

 設例において、Y社によるイラストがプリントされたTシャツを製造する行為は、商品に標章を付する行為(商標法2条3項1号)として、商標法上の「使用」に該当します。
 また、Y社および小売店の各販売行為は、標章を付したものを譲渡等する行為(同項2号)として、やはり「使用」に該当します。

商標の機能と商標としての使用

 Y社や小売店の行為が「使用」に該当する場合、それぞれに対して商標権侵害が成立することになりそうです。
 しかし、商標権は、商品に付されたイラストなど商標そのものを保護するものではなく、商標に化体した営業上の信用を保護するものです。商標には自他商品・役務識別機能 1 ないし出所表示機能 2 があり、これらの機能が発揮されて初めて、商標に化体した営業上の信用が害される可能性が生じます。
 そこで、上記の機能が発揮されなければ、たとえ形式的には「使用」に該当する場合でも、商標として使用されているとはいえず、商標権の効力は及ばないと考えられています。このような考え方は商標的使用論と呼ばれ、実務でも定着しています。

 なお、平成26年(2014年)には、商標法26条1項6号が新設され、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には商標権の効力が及ばないものとされました。これは、商標的使用論を明文化するものではありますが、商標的使用論が問題となるすべての場面に適用できるものではありません。
 たとえば、商品の原材料を記述するために商標登録された名称を使用する場合(下記 4)、登録商標が他者の業務にかかる商品であると認識できる態様で使用されており、同号は適用できません。しかし、この場合にも商標的使用論が問題となります。

 以下では、商標としての使用の有無が問題となる場面を概観します。

意匠的・装飾的効果

意匠的・装飾的効果と商標的使用論との関係

 まず、設例の場面のように、意匠的・装飾的効果と商標的使用の関係が問題となる場合が想定できます

 設例の場合、自社で製造している製品がY社の製品と同様、登録商標のイラストを大きくプリントしているとか、イラストそれ自体が特徴的などといった事情があれば、顧客はそのようなイラストをもって、商品の出所を把握している(出所表示機能)といえる可能性が高く、商標的使用が認められやすいと思われます。
 これに対して、イラストによって自他商品を識別したり出所を把握したりできない場合には、Y社のプリントには意匠的・装飾的な意味しかないことになります。したがって、商標として使用されているとはいえず、商標権侵害は成立しないことになります 3

意匠的・装飾的効果に関する裁判例

 ポパイアンダーシャツ事件大阪地裁昭和51年2月24日判決・無体裁集8巻1号102頁は、原告の登録商標に類似したイラストが、被告の製造・販売するアンダーシャツの胸部中央、ほとんど全面にわたりに大きくプリントされていたことから、原告がアンダーシャツの製造・販売等の差止めを求めた事案でした。

 同事件において裁判所は、「登録商標の機能と関わり合いがない使用態様のものは、特別の事情がない限り、登録商標の正当な権利行使、すなわち、出所表示、広告、品質保証等の本来の商標の経済的機能の発揮に不当な影響を及ぼすことはない」と判示して、商標的使用論を採用しました。
 そして、被服において出所表示機能等を果たす商標は、えり吊りネームや包装袋等に表示されるのが通常であって、被服の目立つ位置に付される場合にも前面や背部を覆うように大きく表示されることはないのが現状であること、被告が製造・販売するシャツのプリントはその装飾的・意匠的効果から顧客の購買意欲を喚起する目的で表示されており、一般顧客もそのプリントを商品の製造源・出所の目印と判断するとはいえないこと等を指摘して、商標権侵害を否定しました。

 このように、同事件では、被告の製造していたTシャツのイラストは、商品の出所を示す目的ではなく、顧客の購買意欲を喚起する目的で付されており、商標として使用されているものとは認められませんでした。
 ただし、装飾的・意匠的効果が認められることから、ただちに商標的な使用が否定されることにはなりません。装飾的な効果と商標としての機能を同時に発揮することもあり得、そのような場合には、商標的な使用が認められます。ポパイアンダーシャツ事件において裁判所が、商品の製造源・出所に関する一般顧客の認識に言及しているのは、その点を考慮したものと思われます。

 ポパイアンダーシャツ事件とは対照的に、装飾的な効果と商標の機能の両立を認めた裁判例も存在します。

 ルイ・ヴィトン事件大阪地裁昭和62年3月18日判決・無体裁集19巻1号66頁では、「L」と「V」を図案化した著名な標章を、被告がかばんの表面全体にわたって模様のように表示しました。

ルイ・ヴィトン事件の原告商標と被告標章

 裁判所は、このような模様についても、自他商品識別機能を有するかぎり、商標としての使用にあたる旨判示しました。これに対して被告は控訴・上告しましたが、いずれも棄却されています(大阪高裁昭和62年7月15日判決・無体裁集19巻2号256頁、最高裁昭和63年1月19日判決)。

説明的・記述的表示

説明的・記述的表示と商標的使用論との関係

 商品の内容や性質を説明的に記述する際、その説明の中に商標登録された商品名等が含まれているということがあります

 下記「タカラ本みりん入り事件」のように、商品の原材料や品質等を説明する際、商標登録された名称が使用されるようなケースでは、当該登録商標は説明的・記述的に用いられているに過ぎず、自他商品識別機能・出所表示機能が発揮されない態様で使用されている場合が多いと考えられます。
 このような場合も、自他商品識別機能ないし出所表示機能が発揮されていない以上、商標的使用は認められません。
 ただし、商品の性質や表示の態様によっては、商品や出所の混同が生じる可能性も存在するため、商標としての使用の有無は、個別の事情を具体的に検討する必要があります。

説明的・記述的表示に関する裁判例

 タカラ本みりん入り事件東京地裁平成13年1月22日判決・判時1738号107頁は、原告が「宝」「タカラ」等の登録商標を有していたところ、被告が販売していた「煮魚お魚つゆ」「煮物万能だし」「煮物白だし」の容器に「タカラ本みりん入り」との表示を付したため、原告が商標権侵害を主張して、これらの商品の販売差止めおよび損害賠償を求めました。なお、被告商品に表示されている「タカラ本みりん」は、被告が製造・販売している商品です。

 裁判所は、「『タカラ本みりん入り』の表示部分は、専ら被告商品に『タカラ本みりん』が原料ないし素材として入っていることを示す記述的表示であって、商標として(すなわち自他商品の識別機能を果たす態様で)使用されたものではない」と判示しました。
 このような判示にあたって、裁判所は、被告商品の商品名の表示と「タカラ本みりん入り」の表示の大小や位置関係、商品の性質(「だし」や「つゆ」等の調味料にみりんを入れることは自然であること等)から想定される一般需要者の認識、「タカラ本みりん」が被告の商品として日本国内で著名なことなど、様々な事情を考慮しています。

著作物の題号の表示

著作物の題号の表示と商標的使用論との関係

 書籍のタイトル(題号)に、商標登録されている文字列を用いるケースにおいても、商標的な使用が問題となります

 このようなケースでは多くの場合、書籍の内容を説明するために当該文字列が用いられているに過ぎず、書籍の出所を表示したり自他商品を識別したりするものとして用いられているとはいえません。
 したがって、こういった場面で商標的使用がされていると主張することは難しいといえます。

著作物の題号に関する裁判例

 POS事件・東京地裁昭和63年9月16日判決・無体裁集20巻3号444頁は、「POS」という文字について原告が商標登録していたところ、被告が「POS実践マニュアル」などタイトルに「POS」の文字が含まれた書籍を出版し販売していたため、原告が商標使用の差止めおよび損害賠償を求めた事案です。
 裁判所は、被告の出版する書籍のタイトルに表示されている「POS」という文字について、「いずれも単に書籍の内容を示す題号として被告書籍に表示されているものであつて、出所表示機能を有しない態様で被告書籍に表示されているものというべきである」として、商標権侵害を否定しました。

まとめ

 商標的使用の有無が問題となる事案は様々な類型のものがあり、どのように自他商品(役務)識別機能ないし出所表示機能が発揮され得るかは、当該事案ごとに異なります。 そのため、商標的使用の有無は、個別具体的に検討する必要があります。


  1. 自他商品・役務識別機能とは、自己の商品・役務の目印として、他者の商品・役務と区別する機能を指します。 ↩︎

  2. 出所表示機能とは、同一の商標が使用されている商品・役務は、同一の人・法人が製造・販売・サービスの提供を行っていることを表示する機能を指します。 ↩︎

  3. 商標権侵害が成立しない場合でも別途、著作権侵害が問題となり得ます。 ↩︎

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