秘密保持契約書の作成・レビューにおける留意点
取引・契約・債権回収秘密保持契約書を作成・レビューする際に留意すべき点を教えてください。
秘密情報開示の目的、秘密保持義務を負う当事者、秘密情報の対象範囲、秘密情報の取扱い、秘密情報の返還・破棄、違反の場合の効果、秘密保持義務の期間の定め方などに留意して作成・レビューすることが望まれます。
解説
目次
秘密保持契約書とは
必要となる場面
秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)とは、秘密情報の受領者に、秘密保持義務(守秘義務)を課すことを内容とする契約書です。
会社が他の会社と新たな商品の共同研究開発を検討する場合や業務提携を検討する場合、その検討の前提として、会社は、当該他の会社に対して、自社の持つ秘密情報を開示することが必要となる場面があります。
このような場面において、会社が開示した秘密情報が開示先の会社によって第三者に漏えいし、会社が思わぬ損害を被ってしまう事態が生じかねません。そういった事態を防止するために、秘密情報の開示前にあらかじめ秘密保持契約書を結んでおくことが必要となります。
ひな形について
企業間取引には、多かれ少なかれ会社の秘密情報を開示する場面が少なくないため、秘密保持契約書は、企業間取引の場面では非常に頻繁に締結されています。そのため、秘密保持契約書のひな形は多く出回っており、インターネットなどから容易に入手することが可能です。
もっとも、当該ひな形の品質が担保されているわけではありませんので、安易なひな形利用は避けるべきです。ひな形を利用するのであれば、経済産業省が公開しているひな形(「秘密情報の保護ハンドブック〜企業価値向上に向けて〜」参考資料2(2016年2月))などを参考に、事案に即した修正を加えるのがよいと思います。
秘密情報開示の目的
秘密保持契約書の締結に際しては、上記に述べたような共同研究開発や業務提携等の秘密情報を開示する目的となる検討事項があるのが通常です。
秘密情報開示の目的は、秘密保持契約の適用の際の指針や基準になりうるため、秘密情報を用いる検討事項を契約書上明記しておくことは、とても重要です。
秘密保持義務を負う当事者
前提となる検討事項の内容によっては、秘密情報を相手方に開示するのが一方当事者に限られ、秘密保持義務を、秘密情報の受領側当事者のみに負わせることを内容とする秘密保持契約書を結ぶことで足りる場合もあるでしょう。
このような場合、「秘密保持誓約書」という表題で、受領側当事者のみが押印する形式の書式を利用する場合もあります。
ただし、秘密情報を用いて検討する事項がある事実それ自体を秘密としておきたい場合には、当事者双方がその事実についての秘密保持義務を負う形としなければ実効性がなくなりますので、たとえ、一方当事者のみが秘密情報を開示するだけであっても、双方が秘密保持義務を負う形式(つまり、誓約書ではなく契約書の形式)を採用する必要がある点には注意が必要です。
秘密情報の対象範囲
「秘密情報」のバリエーション
秘密保持契約書の作成・レビューにおいて最も重要な事項が“何を秘密情報として扱うか”という秘密情報の対象範囲です。
秘密情報の対象範囲のバリエーション例としては、以下のようなものが考えられます。
本契約において「秘密情報」とは、別紙のとおりとする。
秘密保持義務の対象となる「秘密情報」は明確である方がよいため、①のように定めることができれば最も望ましいです。しかし、事前に別紙に開示するすべての秘密情報をリスト化しておくことは予測可能性の観点から難しく、また、適宜更新するとしてもタイムリーに更新をしなければ意味をなさないため煩雑です。
本契約において「秘密情報」とは、相手方から開示を受けた技術上または営業上の一切の秘密、本契約の存在及び内容その他一切の秘密をいう。
②は、一見、秘密の対象範囲が広く、開示側当事者からは安心感があるようにも思えますが、何が「秘密情報」にあたるのか明確でなく、当事者間に認識の齟齬が生じることが懸念されます。
本契約において「秘密情報」とは、相手方から開示を受けた情報のうち、開示の際に秘密である旨を明示された技術上または営業上の一切の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。
③は、明示を前提としているため、「秘密情報」にあたるかどうか明確となることが期待できますが、明示の方法を限定しておらず、口頭での説明であっても明示にあたると読めることから、当事者間において「言った言わない」の争いが生じるリスクが考えられます。
本契約において「秘密情報」とは、相手方から開示を受けた技術上または営業上の情報のうち、以下のいずれかに該当するものをいう。
- 文書、電子媒体その他の有体物に化体された情報として開示された場合には、秘密であると明記がされているもの
- 口頭・視覚的な開示を含む無形の情報として開示された場合には、開示の際にそれが秘密であることを明示され、かつ、開示から15日以内に当該情報の内容を記載した書面を秘密である旨の表示をして通知を受けたもの
この点、④は、明確であり、かつ、③と異なり、書面上の証拠も残るため最も優れているように思えますが、開示側当事者において、実際の開示場面においては明示を怠るケースも珍しくありません。企業においては、法務部門が秘密保持契約書を作成する一方で、実際に秘密情報を開示するのは事業部門であるという場合が多いですが、実際に秘密情報を開示する担当者が、秘密である旨の明示が必要であるということを理解していなければ、せっかく秘密保持契約書を取り交わしても意味がないという事態になりかねません。
秘密情報の対象範囲に限った話ではありませんが、実際に情報を開示する部門担当者における履行可能性を踏まえて契約条項を定める必要があります。
「秘密情報」の除外事由
秘密情報の対象範囲を定めるにあたっては、「秘密情報」にあたらない除外事由を設けておくことが一般的です。除外事由は、ほぼ定型化されており、どの秘密保持契約書においてもほとんど共通した内容が記載されています。
- 開示を受けたときに既に自ら所有していたもの。
- 開示を受けたときに既に公知であったもの。
- 開示を受けた後、自己の責によらず公知となったもの。
- 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に入手したもの。
- 相手方から開示を受けた秘密によらず独自に開発したもの。
なお、秘密保持契約書の中には、これらに加えて、「官公庁の要求または裁判所の命令によって開示することを要求されたもの。」を除外事由としているものがありますが、官公庁等から開示要求を受けた場合に、それらの情報が一律に「秘密情報」から除外されるのは相当ではなく、「秘密情報」には該当するものの、例外的に官公庁等への開示が許される、という規定の仕方が望ましいと考えます。
秘密情報の取扱い
秘密情報の取扱いとしては、まず、受領側当事者が秘密保持義務を負うこと、すなわち、「秘密情報」を第三者に開示・漏えいしてはならない、という受領側当事者の義務を定めることが必要です。その際、「秘密情報」それ自体だけでなく、その複製物や複写物についても「秘密情報」と同様に取り扱うように定めておく必要があります。
また、受領側当事者自身が「秘密情報」を使用する場合であっても、前提となる検討事項の目的以外に使用されることを防止すべく、「秘密情報」の目的外使用を禁止する文言を規定しておくことも必要でしょう。
加えて、「秘密情報」の複製物や複写物を、受領側当事者が自由に作成できるとするのではなく、開示側当事者の承諾を必要とする条項を設けることもあります。秘匿性の高い情報を開示する場合には、こういった条項を設けることも検討するべきことになります。
さらに、例外的に第三者への開示を許容する場合の手続き(開示側当事者の書面による同意など)を定めておく場合もあります。
秘密情報の返還・破棄
秘密保持契約の終了時や契約期間中であっても不要となった「秘密情報」がある場合には、ただちに開示側当事者に返還し、または廃棄を求めることができるようにしておくことが、「秘密情報」の拡散防止リスクの低減に役立つこととなります。
したがって、開示側当事者から、返還・廃棄を求めることができる条項を設けておくことが望まれます。
また、拡散防止リスク低減の観点からは、「秘密情報」の複製物や複写物も廃棄・消去を求めるように定めておくことが必要です。
加えて、受領側当事者に廃棄・消去を証明する書面を提出する義務を定めておくとより実効的な契約書となります。
違反の場合の効果
受領側当事者が秘密保持義務に違反した場合の効果を規定することが望まれます。
損害賠償義務を定めておくことが一般的ですが、損害賠償義務に加えて、情報拡散等の損害拡大防止に協力する義務を定めておく場合や、情報漏えいのリスクがあるときの行為の差止めを規定しておく場合もあります。
秘密保持義務の期間
秘密保持契約の契約期間
秘密保持契約書の契約期間を定める際には、開示する秘密情報を用いて検討する事項の内容など、秘密情報開示の目的に応じて定めることが望ましいです。
また、当初の契約期間終了後も秘密保持契約を維持する必要に備え、以下のような自動更新条項を設ける場合もあります。
「秘密情報」の管理は、受領当事者にとってコストになり、契約期間の継続中には、契約違反のリスクを負い続けることとなります。そのため、永久に秘密保持義務を負わせ続けるような条項など受領当事者に過重な義務を負わせる内容を定めておくと、裁判所によって義務の内容を限定される可能性があります。
情報は時間の経過と共に陳腐化するものですから、やみくもに長期間を定めるのではなく、検討事項の内容など、秘密情報開示の目的に合わせて適切な期間を設定することが望まれます。
契約終了後の存続期間
また、秘密保持契約の契約終了後といえども、以下のような条項を設けて秘密保持義務を引き続き負い続けるように規定する秘密保持契約書も見られます。秘密保持義務を存続させる関係で、同時に、違反の場合の効果や専属的合意管轄などの条項も存続させるのが一般的です。
秘密保持義務をあまりに長い期間負わせ続ける契約書が望ましくない点は、前項で述べたとおりです。

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