指示・警告上の欠陥の判断基準

取引・契約・債権回収
村松 頼信弁護士 祝田法律事務所

 当社はメーカーですが、製品を販売したところ、利用者が誤って利用して事故が発生してしまいました。製造工程には問題がなく、想定とは異なる使用をされたので当社には責任がないと思うのですが、「指示・警告上の欠陥」にあたるのではないか、との指摘を受けました。「指示・警告上の欠陥」にあたるかどうかの判断基準とはどのようなものなのでしょうか。

 指示・警告上の欠陥が認められるには、以下の①から⑤が満たされる必要があると考えられます。

  1. 製造者に事故の予見可能性、事故の回避可能性が存在すること
  2. 技術的な障害やコスト等による制約のもと、設計によってはそれ以上の安全化は不可能または著しく困難であること
  3. 製造物にそのまま市場に出すには相応しくない危険性が残存していること
  4. 適切な指示・警告によりその危険性を回避可能であること
  5. 指示・警告が適切に行われなかったこと

解説

目次

  1. 指示・警告上の欠陥とは
  2. 欠陥として認められない場合
  3. まとめ

指示・警告上の欠陥とは

 指示・警告上の欠陥とは、製造物責任法上の「欠陥」(製造物責任法2条2項)のうち、有用性ないし効用との関係で除去することができない危険性が存在する製造物について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するために適切な情報を製造者が与えなかった場合の欠陥の類型です。

 製品が合理的な設計に従って製造され、加工されていても、使用・消費の場面で、使用方法によっては事故が起こる危険性がある場合があります。そうした危険性は、製品の特性に根差したものであることも多く、ある製品の特性が事故に結び付くリスクがある場合、事故防止に必要な情報は製造者側のみ知り得る情報であることが少なくありません。

 こうした情報を消費者・利用者側がみずからあらかじめ収集し、把握しておくことは通常はほぼ期待できません。そこで、製造者が、製品の特性に照らした危険をあらかじめ予見できる場合には、製造者は、消費者・利用者に対して、事故につながる危険な用法や、そうした用法から生じ得る事故の内容について注意書等によって具体的に指示・警告することが要請されます。また、そうした指示・警告は、消費者・利用者が、その製品の危険性を把握し、危険な用法を実際に回避しつつ使用することができるような、具体的かつ適切で理解しやすい内容と表示方法とする必要があります。

 製造物責任法にはその具体的な表示方法や表示内容についてまでは規定されていませんが、以下の指針・ガイドライン等も参考になさってください。

参照:消費生活用品の取扱説明書に関する指針 JIS S 0137の「8.警告表示」

参照:取扱説明書ガイドライン(特定非営利活動法人 日本テクニカルデザイナーズ協会)の「3-3-8.【伝える内容】」および「3-3-9.【危険の洗い出し】」(19-20頁)

欠陥として認められない場合

 製造者があらかじめ危険性を予見することを期待できなかった場合(予見可能性がない場合)には、指示・警告の観点から製造者が責任を問われることはありません。

 また、指示・警告によって消費者・利用者が適切に製品を使用できるように誘導し、その製品の危険性を回避することができた(事故の回避可能性があった)と認められる必要性があります。

まとめ

 以上のような指示・警告上の欠陥に関する考え方から、指示・警告上の欠陥が認められるには、以下の①から⑤が満たされる必要があると考えられます。

  1. 製造者に事故の予見可能性、事故の回避可能性が存在すること
  2. 技術的な障害やコスト等による制約のもと、設計によってはそれ以上の安全化は不可能または著しく困難であること
  3. 製造物にそのまま市場に出すには相応しくない危険性が残存していること
  4. 適切な指示・警告によりその危険性を回避可能であること
  5. 指示・警告が適切に行われなかったこと

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