設計上の欠陥の判断基準
取引・契約・債権回収当社が製造した部品をメーカーに納入したところ、メーカーから部品に「設計上の欠陥」があり、事故が発生したと主張して、当社に製造物責任としての損害賠償を求めてきました。当社は設計・仕様どおりに部品を製造しており落ち度はないと考えているのですが、「設計上の欠陥」の判断基準とはどのようなものなのでしょうか。
設計上の欠陥の判断基準としては、需要者側事業者と製造業者とが同業種であり、同種の製品を取り扱っている場合には、同一の知見・専門性を有することを理由に、欠陥が否定される方向に考慮されることになります。
他方で、被害者である事業者(需要者側事業者)と製造業者とが異なる業種であり、経験および情報の収集・分析能力の格差が存在し、需要者側事業者に十分な専門的知識および能力が存在しない場合には、需要者側事業者が期待する安全性を製品が有しているか否かを考慮して設計上の欠陥の有無を判断することになります。
具体的には、①需要者側事業者が期待する安全性、②製造物の用途、③カタログや仕様書の記載、④製造業者の認識などを考慮して、製造者が一定の条件下で製造物を使用可能であると保証した範囲を判断し、その保証範囲内で事故を回避する安全な設計がなされてない場合には、設計上の欠陥が認められると考えられます。
解説
設計上の欠陥とは
設計上の欠陥とは、製造物責任法上の「欠陥」(製造物責任法2条2項)の中でも、製造物の設計段階で十分に安全性に配慮しなかったために製造される製造物全体が安全性に欠ける結果となった場合を意味します。
設計上の欠陥の判断にあたっては、どのような設計が適切であったかを判断する必要があるため、消費者期待基準(通常の消費者が期待する安全性を製品が有しているか否かの基準)や、危険効用基準(製品の有する効用を危険が上回るか否かの基準)が用いられます。
製造物責任法を適用する現在までの裁判例の中で、危険効用基準を採用して欠陥の有無を判断するものは、医薬品の分野、特に医薬品の有効性に関する欠陥判断に限られています。
そこで、医薬品分野を除き、設計上の欠陥は、消費者期待基準によって判断されます。欠陥判断の基本となる考え方は、一般社会通念、つまり製造者、販売者、消費者などをも含む社会一般の健全な常識としての通念であることから、設計上の欠陥の判断につき消費者期待基準を採用するにあたっては、製品使用者が、①消費者、②事業活動を行う者、または、③特定分野の専門家のいずれなのかに応じて、誰のどのような期待を基準とするかに着目する必要があります。
事業活動を行う者の期待が基準となるケース
このうち、②事業活動を行う者の期待が基準となるのは、被害者が事業者(需要者側事業者)であって、事業者間で製造物責任が問題となるケースです。
まず、同業種の事業者間では、製造者側と需要者側が同種の製品を扱い、同等の知見・専門性を有することから、欠陥が否定される方向に考慮されます。
次に、異業種の事業者間では、消費者及および事業者間に比肩する経験および情報の収集・分析能力の格差が存在するため、製造物責任法の実質的公平の観点から需要者側事業者の期待を考慮して設計上の欠陥の判断をすることになります。
需要者側事業者の期待が考慮された裁判例
需要者側事業者の期待が欠陥判断において考慮された裁判例として、東京地裁平成15年7月31日判決・判時1842号84頁があります。この裁判例の概要は以下のとおりです。
原告Xが被告Yの製造するスイッチを使用してカーオーディオ製品を製造したところ、そのスイッチが短絡する不具合が生じたことによりカーオーディオ製品を設置した自動車のバッテリーが上がる等の事故が発生しました。
<裁判所の判断>
Xがスイッチのカタログの用例からスイッチをカーオーディオ製品の部品として使用可能であると考え、またスイッチのカタログや仕様書に記載された使用周囲温度および使用周囲湿度の範囲内で使用可能であることが保証されていると認識していたこと、Yもスイッチが自動車に搭載する電子機器の部品に適さないとの認識はなく、むしろYが不具合に関する打合せでXから説明を受けた温度および湿度等の使用条件に問題がないことを確認していることから、Yが一定の温度および湿度の使用条件下においてスイッチの継続的な動作を保証したと認定し、その保証範囲内の温度および湿度の使用条件下で不具合が発生したことをもって設計上の欠陥が存在すると判断しました。
この裁判例は、スイッチの用途、カタログや仕様書の記載、X側の認識および製造者(Y)の認識等を検討して保証範囲内での使用であると判断したものであり、自動車の車内では使用中に高温多湿となりスイッチの短絡事故が起こりうるところ、その使用環境でも短絡事故を回避できるよう安全な設計をしておくべきであったとして欠陥を認めた裁判例として位置付けられています。
このように、製造者が一定の条件下で製造物を使用可能であると保証した範囲において事故を回避する安全な設計がなされていなかった場合に設計上の欠陥が認められているところ、その保証範囲は、需要者側事業者が期待する安全性を始め、その製造物の用途、カタログや仕様書の記載、製造者の認識等を考慮して判断されています。

祝田法律事務所