任天堂「マリカー」地裁判決勝訴 自社キャラクターが不正に使用されていたらどうする?

知的財産権・エンタメ

目次

  1. 当判決の主要な争点は4つ
  2. 「マリカー」等の文字の使用等は不正競争防止法上認められるか
  3. 著作権法上の侵害は認められるか
  4. 自社のキャラクターの不正使用への対応
  5. キャラクタービジネス展開時に注意すべきポイント

「マリオカート」シリーズなどのゲームソフトの開発・製造を手がける任天堂株式会社が、公道カートのレンタルサービスの株式会社MARIモビリティ開発(元商号:株式会社マリカー)とその代表取締役に対して、知的財産権の侵害行為の差止めと損害賠償を求めていた訴訟で、9月27日、東京地方裁判所は任天堂側の請求を一部認める判決を下した。
マリカー側が任天堂の許諾を得ることなく、「マリオ」等のキャラクターコスチュームを顧客へ貸与等し、そのコスチュームが写った画像や映像を宣伝・営業に利用するなどしている行為を問題視したものだ。
そこで、当判決のポイントや、今後企業がキャラクタービジネスを検討する上での留意点について、高樹町法律事務所の桑野雄一郎弁護士に聞いた。

当判決の主要な争点は4つ

今回、任天堂がMARIモビリティ開発に対して、不正競争行為および著作権侵害行為として提起した訴訟では、どのような論点があるでしょうか。

公表されている判決文 1 では省略されている部分があるので、わかる範囲で説明をします。
判決に示されている論点は合計13個と多岐にわたりますが、侵害の成否についての主要な争点は以下の点です。

1. 不正競争防止法について (1)MARIモビリティ開発による右の行為が不正競争防止法2条1項1号または2号の不正競争に該当するか ①「マリカー」や「MariCar」などの文字(標章)を営業上および商号として使用する行為 争点1
②マリオ等のキャラクターに類似するコスチュームや人形についての以下の行為
ⅰ ウェブサイトに掲載する行為
ⅱ 従業員がコスチュームを着用する行為
ⅲ 人形を店舗に設置する行為
争点2
(2)MARIモビリティ開発による「maricar」を含むドメイン名の使用が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当するか 争点3
2. 著作権法について (1)MARIモビリティ開発がウェブサイトに掲載した写真や動画が、マリオ等のキャラクターの複製物または翻案物にあたるか 争点4
(2)MARIモビリティ開発が貸与しているコスチュームがマリオ等のキャラクターの複製物または翻案物にあたるか

「マリカー」等の文字の使用等は不正競争防止法上認められるか

裁判所は「マリカー」等の文字の使用について、不正競争防止法の観点からはどのような判断を下したのでしょうか。

不正競争防止法上の前記争点1と3では、任天堂は「マリオカート」と「マリカー」の2つが任天堂の商品等表示 2 として需要者(消費者)の間に広く認識され、周知性・著名性を獲得していると主張していました。本件では、これらが商品等表示であること自体は争いがなく、その周知性・著名性が争点となっていました。

この点について裁判所は、日本語を解する者の間では周知性・著名性が認められるが、日本語を解さない者の間では認められないと認定しました。その結果、基本的に任天堂の請求を認め、争点1ではMARIモビリティ開発に対し「マリカー」や「MariCar」などの文字の使用を、争点3では「maricar」などを含むドメイン名の使用を禁止しましたが、その際、日本語を解さない者を対象とすると考えられる「外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシ」や「外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合」が除外されました。
MARIモビリティ開発のビジネスの主要なターゲットが外国人観光客と考えられることからすると、任天堂としては不満の残る内容かもしれません。

裁判所がこうした判断に至った理由を教えてください。

このような判断の背景には、任天堂が「マリオカート」や「マリカー」という日本語表記のみを商品等表示として主張したこともあると思われます。今後任天堂が、英語表記の「MariCar」などを日本国内での日本語を解さない者の間での周知性・著名性のある商品等表示として主張し、それが認められると異なる結論になる可能性もあります。

なお、「マリカー」についてはマリカーが商標登録をしています(商標登録第5860284号)。この商標登録出願については、「マリカー」が任天堂の商品を示すものとして周知であるとして任天堂が異議申立てをしましたが、棄却されています(異議2016-900309)。本件では、MARIモビリティ開発は「マリカー」の使用は登録商標の使用である旨の主張もしていましたが、裁判所は商標登録出願当時既に「マリカー」が周知性・著名性を獲得していたことを理由にMARIモビリティ開発の主張は権利の濫用にあたるとしてこれを排斥しています。つまり、今回の判決は特許庁とは異なる判断をしたわけですので、今後の高裁での判断が注目されるところです。

マリオ等のキャラクターに類似するコスチュームを従業員が着用する行為等については、どう判断されたのですか。

前記争点2については、任天堂はマリオ等のキャラクターが任天堂の商品等表示として周知性・著名性を獲得していると主張していました。ここでも、商品等表示に該当すること自体については争いがなく、周知性・著名性が争点となりましたが、裁判所は外国に在住し日本を訪問する者の間も含めて著名性・周知性を獲得していると認定しました。その結果、任天堂の請求がほぼ全て認められています。

著作権法上の侵害は認められるか

MARIモビリティ開発がウェブサイトに掲載した写真や動画等について、著作権侵害が認められなかったことについては、どのように理解したらよいでしょうか。

任天堂は著作権に基づきMARIモビリティ開発による原告が著作権を有する著作物の複製または翻案、そして複製物または翻案物の自動公衆送信または送信可能化の差止めを請求していました 3。しかし判決では、任天堂が差止めの対象となる行為を具体的に特定しておらず、そのような無限定な内容の行為を差し止める必要性についての立証がなされていないとし、また任天堂が差止めを請求している行為の多くで不正競争防止法に基づいて差止めを認めていることから、判断する必要がないとして棄却しています。
一部には微妙な判断が求められる著作権についての判断を避けたとの指摘もありますが、任天堂が差止めの対象となる行為を具体的に特定すれば何らかの判断が示されていたと考えられます。任天堂が控訴審でどのように主張するかが注目されます。

過去に類似の判断がなされたケースはありますか。

本件で注目されるのは「マリオカート」や「マリカー」というゲームのタイトル、そしてマリオやルイージといったゲームのキャラクターを商品等表示と認定した点です。
キャラクターについては、「ミッキーマウス」などについて商品等表示該当性を認めた裁判例(東京地裁平成2年2月28日判決・判タ724号252頁)や「ポパイ」のキャラクターについての周知性が不正競争防止法上の保護を受け得ないとの理由は見出し難いとした裁判例(東京高裁平成4年5月14日判決・知財集24巻2号385頁)などがあります。

自社のキャラクターの不正使用への対応

自社のキャラクターが不正に使われている場合には、どんな対応をとればよいでしょうか。

キャラクターについては、①著作権による保護、②商標権による保護、③意匠権による保護、④不正競争防止法による保護などが考えられるところです。①では複製権侵害や翻案権侵害による請求をするためには依拠性を立証する必要がある 4、②および③では登録をしていないと基本的に権利が認められない、④については周知性や著名性を立証する必要があるなど、それぞれについて一長一短があります。
また、複製・翻案をした上でその複製物・翻案物の頒布や公衆送信が行われているといった単純な事案であれば著作権法は使いやすいですが、本件のように商品等表示として多種多様な利用が行われている場合には支分権 5 に対応した侵害行為を特定することが難しいものの、その他の法律では使用行為として多様な行為を含めることができます。
ですから、差止め等を請求するにあたっては、最も有効な法的根拠がどれかをよく吟味する必要があります。

もちろん、実際の裁判となれば複数の法的主張をすることになりますが、最も有効と考えられる法律構成があるなら、そこに絞った方が早期に解決が図られる可能性もあります。あまり多彩な法律構成を立ててしまうと、相手方の反論のために相応の期間を設けることを余儀なくされるというデメリットもあることにも留意する必要があります。

本件では訴訟となりましたが、交渉等、その他の方法での解決も考えられますか。

今回のケースではMARIモビリティ開発は確信犯的に行っていましたので、なかなか交渉での解決は難しかっただろうと思います。ただ、一般的には話し合いにより任天堂との関係を全面に出すビジネスをやめてもらう余地はあるでしょう。MARIモビリティ開発も、任天堂のキャラクターなどに限定せず、著作権に留意しつつ様々な仮装をして都会の公道をカートで走ること、それ自体でも十分にビジネスとして成り立つのではないかと考えられます。

また、ケースによってはビジネスとして正式にライセンスをしてしまうという選択肢もあるかもしれません。ただ、本件では、MARIモビリティ開発のビジネスについて、公道でのカートの走行の安全性を危惧する指摘もありましたし、公道を走るということ自体ゲームの世界観にもそぐわないでしょうから、任天堂としてはそのような形での解決は難しかっただろうと思います。

キャラクタービジネス展開時に注意すべきポイント

今後キャラクタービジネスを検討する企業にとって、気をつけた方がよいポイントについて教えてください。

今回の判決では、日本語表記である「マリオカート」や「マリオ」について、日本語を解さない者の間での周知性・著名性が否定されました。日本国内においても外国人観光客を対象とするインバウンド事業の重要性が増してきていますから、外国の方も含めて世界的に展開するキャラクターの名前やゲームなどの作品のタイトルについては、日本国内においても適宜英語表記を併用し、周知性・著名性のある商品等表示として英語表記も主張できるようにすることが必要になってくるかもしれません。

また、今回の事件ではMARIモビリティ開発による「マリオカート」の略称である「マリカー」の商標登録が認められたことが問題を複雑にしました。結果的に登録商標「マリカー」の使用であり不正競争防止法違反にならないとしたMARIモビリティ開発の主張は退けられましたが、おそらく任天堂が「マリカー」を商標登録していたら、MARIモビリティ開発もここまで公然と今回のビジネスを展開することはなかったかもしれません。「ドラクエ(ドラゴンクエスト)」や「アナ雪(アナと雪の女王)」など、キャラクターの名前やゲームなどの作品のタイトルについて、愛称的に略称が使用されることは珍しくありません。場合によってはこれらについても商標登録をすることも必要になってくるかもしれません。


  1. 東京地裁平成30年9月27日判決・平29(ワ)6293号(裁判所ウェブサイト) ↩︎

  2. 商品等表示とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう(不正競争防止法2条1項1号) ↩︎

  3. 複製については「著作権の基本(1)広義と狭義の著作権とは?」、翻案については「著作権の基本(2)二次利用する際に注意すべき点」、差止めについては「著作権侵害をされた場合の民事・刑事における対応策」を参照のこと ↩︎

  4. 依拠性については「著作権侵害の判断基準(デザインの「パクリ」を題材に)」を参照のこと ↩︎

  5. 支分権とは複製権や譲渡権などの個々の著作権のこと ↩︎

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