株主総会資料の新たな電子提供制度とは インターネットを活用した株主総会情報の提供を促進
コーポレート・M&A
※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュース No.138」の「特集」の内容を転載したものです。
株主総会資料の電子提供
会社法研究会(座長・神田秀樹学習院大学教授)は、平成28年1月第1回会議以後、本年3月2日の第14回会議までの検討結果について報告書を取りまとめ、旬刊商事法務No.2129(平成29年3月25日号)ならびに(公益社団法人)商事法務研究会のウェブサイトで公表しましたので、同報告書の概要をご紹介するとともに、特に株主総会実務に大きな影響が予想される「株主総会資料の電子提供」についてご案内いたします。
なお、本年2月9日開催の法制審議会総会において、会社法制(企業統治等関係)の見直しについて諮問(諮問第104号)されていますので、今後は法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会で会社法改正の検討が進められることとなります。
報告書の概要
報告書で取り上げている項目は大きく8つあります。それぞれの概要は下表のとおりです。
項目 | 概要 | ||
第1 | 株主総会資料の電子提供 | 株主の個別の承諾を得ずに株主総会資料をインターネットを利用して提供するための新たな電子提供制度を設けることとしてはどうか。 |
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一定の範囲の株式会社に対して新たな電子提供制度を利用することを強制するかどうか、株主が株主総会情報を記載した書面の提供を請求することができる権利(書面請求権)を保障するかどうかなどは引き続き検討することとしてはどうか。 | |||
第2 | 株主提案権の濫用的な行使の制限 | 役員の選任及び解任に関するものを除き、取締役会設置会社において議案要領通知請求権(会社法305条)に基づき株主が同一の株主総会に提案することができる議案の数を制限することとしてはどうか。 | |
株主が株主提案権を濫用したものとしてその権利の行使が認められない場合に関する規定を設ける方向で規律を見直すこととし、どのような規律とすることが適切であるかについて、引き続き検討することとしてはどうか。 | |||
第3 | 取締役会の決議事項 | 監査役会設置会社において、モニタリングモデルを採用できるように、取締役会の決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるようにすべきかどうかについては、引き続き検討することが相当である。 | |
第4 | 取締役の報酬 | 取締役の報酬、賞与、その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益に係る株主総会の決議や開示に関する規律については、株式報酬等のインセンティブ報酬を付与する場合の手続や開示に関する規律と併せて見直しをすることを引き続き検討することとしてはどうか。 | |
第5 | 役員の責任 | 会社補償(役員に対する責任追及等に関して役員が要した費用等を株式会社が当該役員に対して負担することをいう。)に関する規定を設けることについて、引き続き検討することとしてはどうか。 | |
概要として、D&O保険契約の締結に必要な手続を以下のようにすることについて、引き続き検討することとしてはどうか。 | |||
ア | 取締役会設置会社においては、D&O保険契約の内容の決定は、取締役会の決議によらなければならず、その決定を取締役等に委任することができない。 | ||
イ | 取締役または執行役を被保険者とするD&O保険契約の締結には、利益相反取引規制を適用しない。 | ||
第6 | 社債 | 社債管理者を設置することを要しない社債について、会社が社債権者のために第三者に対し、当該第三者との間の契約により一定の権限を付与し社債管理業務を委託することができる制度を設けることとしてはどうか。 | |
第7 | 責任追及等の訴え | 株式会社が取締役(監査等委員または監査委員である取締役を除く。)または執行役に対する責任追及等の訴えに係る訴訟における和解に当事者として参加する場合において株式会社を代表する者および必要な手続に関する規定を設けることについては、引き続き検討することとしてはどうか。 | |
株式会社の利益に反する株主による責任追及等の訴えを制限する措置の要否や、株主による資料収集に関する会社法の規律の見直しなど、その他の責任追及等の訴えに関する規律の見直しについては、引き続き検討することが相当である。 | |||
第8 | 社外取締役 | 社外取締役を置くことの義務付け等の措置を講ずるかどうかについては、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、引き続き検討することとしてはどうか。 |
株主総会資料の新たな電子提供制度の概要
(1)現在の株主総会資料の電子提供制度
会社法上、株主総会情報は、原則として書面により提供しなければなりませんが、一定の要件を満たす場合には、①電磁的方法による提供制度(会社法299条3項)や②ウェブ開示によるみなし提供制度(会社法施行規則94条1項等)により、株主総会情報をインターネット等を用いた方法により提供することができます。ただし、①は株主の個別の承諾を得る必要があることからほとんど利用されていませんし、②は利用会社が増加傾向にあるものの対象範囲が株主総会情報のうち一部の事項に限定されていて、インターネットを活用した株主総会情報の提供を促進していくことには限界があります。
(2)新たな電子提供制度
新たな電子提供制度の概要は、以下の1から3に掲げるとおりです。
- 株主総会の招集に際して株主に対して提供しなければならない全ての情報(株主総会情報)をインターネットのウェブサイト上に掲載する。
- 株主に対し、株主総会情報を掲載したウェブサイトのURL等を書面により通知する(この通知をアクセス通知という)。
- 1および2の措置を採った場合には、株主に対し、1の株主総会情報を適法に提供したこととする。
新たな電子提供制度を一定の範囲の株式会社に対して強制するかどうか、利用に際して定款の定めを必要とするかどうか、株主に書面請求権を保障するかどうか、書面請求権を認める場合の請求対象書類の範囲、その在り方(行使方法、行使時期等)、アクセス通知に同封できる書類を制限するかどうか、会社が株主に対して株主総会情報を記載した書面一式を任意に送付すること(フルセットデリバリー)ができることとするかどうか、ウェブサイトへの掲載の中断に関する規定を設けるかどうかなど、制度の詳細は今後の検討に委ねられます。
【新たな電子提供制度のイメージ】
三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務コンサルティング室
03-6250-4354