グローバルで勝ち残る企業に必要な競争力とは
コーポレート・M&A
Appleは、iPhoneやiPadなどの部品サプライヤーであるイビデンがApple向けの生産を100%再生可能エネルギーで行うことを約束する日本初の企業になる旨を3月8日に発表した。イビデンは、国内最大級の水上太陽光発電システムを含め、20ヶ所以上の再生可能エネルギーによる発電所に投資するとしている。
Appleは以前から部品・設備等のメーカーに再生可能エネルギーの利用を促しており、持続可能な開発に力を入れている企業としても名高い。Appleとそのサプライヤーで、2018年末までに年間毎時25億kW以上の再生可能エネルギーを創出する目標を掲げるなど、サステナブルな経営を行うリーダーとしての存在を、世界で高めている。
一方、イビデンは岐阜県大垣市に拠点があるCPUなどのチップのパッケージ等を製造している企業だ。「イビ」は揖斐川の「揖斐」で、1912年に「揖斐川電力株式会社」として創立され105年もの歴史のある企業である。国内最大級の水上太陽光発電システムもこの揖斐川の水運で使用していた貯木場を使用し、過去の歴史やノウハウに捉われることなく時代のニーズにうまく呼応し、再生可能エネルギーの創出に成功している。
さて、この興味深いニュースを企業のIR担当者やCSR担当者、経営企画の担当者はどう見るであろう。他社だから出来る好事例であり自社では無理だろう、と安易にやり過ごしてはいないだろうか。もし、自社製品の納入先から厳しい環境規制を申し渡されたら、すぐに対応できるだろうか? 自社の問題に置き換えてみると、大きなリスクとして認識され、他社の好事例だと済ませている場合ではないことが誰しも明確に分かる。
今、企業に求められているのは稼ぐ力であり、必要なのはグローバル企業の中で打ち勝てる「競争力」だ。リスクである、と感じる事への対応は、自社の競争力の強化に必ずや繋がるのではないか。もちろん、これは環境問題だけではない。今注目が高まっているのがSDGsだ。グローバルイシューだからと言って取り合わないでいれば、自社の競争力は同業他社と比較して見劣りすることになるだろう。日本企業らしい慈愛に満ちた社会貢献活動だけではなく、調達方針や人事方針の見直しなどバリューチェーン全体における自社の社会・環境に与えるインパクトを理解し、経営戦略にSDGsの課題を取り入れることで、グローバルで戦える企業となるのではないか。世界のアジェンダを経営戦略に取り込むことは、決して簡単なことではないが、 自社がグローバルな戦いの中で生き残る強い企業になるためには、苦労する価値があるのではないだろうか。
2月末、SDGsの達成に向けて取り組む企業事例を紹介した「SDG Industry Matrix(産業別SDG手引き)」の日本語訳が国連グローバル・コンパクトとKPMGにより発行された。現時点では「製造業」「金融サービス」など4つのファイルが公開されているが、この後も順次業態別の手引きが公開される予定だ。また、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのアンケート調査の途中結果によると、SDGsの期待効果としてビジネスチャンスと捉える企業は2015年では25%程度だったものが2016年では57%となっているそうだ。敏感な企業は既に動き始めているということだろう。
イビデンのように世界で勝ち残るための機会を創出できるか否かは、世界の課題をいかに自社の「自分事」に出来るかにかかっている。

宝印刷グループ 株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所