統合報告書において第三者意見をどう活用するべきか
コーポレート・M&A
統合報告書の発行件数が年々加速度的に伸びている。IR協議会や他の機関による統合思考を中心としたIR活動の表彰制度も始まっている。レポートの内容も年々充実し、外部からの評価もレポートの発展に貢献しているといえそうだ。レポートの構成に外部からの視点による第三者意見を掲載する事例も30社ほどに見られ、その有効性について考えてみた。
多くの企業はこれまでもCSR報告書を発行し、巻末に第三者意見を掲載してきた。統合報告書にも同様な考えにより掲載している事例がある。執筆をされている方々は、大学教授、研究機関、専門コンサルなど多岐に渡っている。また、第三者意見とは別に監査法人系の機関から第三者保証を受けて報告書に掲載している例も見られるようになった。ただし保証の対象は環境・社会パフォーマンス指標に限定されている。その意味でも「意見書」と「保証書」とは同じではない。
発行会社が第三者意見に期待するのは、 ESG・CSR活動で良い点と不足している課題点を外部から指摘してもらうことにより、改善のポイントが見えてくることにある。活動の目標はきちんと設定されているか、重要な課題にステークホルダーの視点はあるか、 PDCAは確立されているか等を社外からの評価により確認することができる。また、良い点と認識された活動は、これまでの方向性の正しさを再認識する手立てになるだろう。しかし、貴重な指摘を受けていながら自社に都合の悪い点は意見書に書かないように求める事例もあるようだ。耳が痛い意見に眉をひそめることなく評価を真摯に受け止め、指摘事項は、今後の活動の改善に大きく役立つチャンスと捉えるべきだ。
意見書はレポートの読書感想文ではないことを認識しておかなければならない。執筆者は、 企業からの説明を受け、現場を見学して従業員に声を聴くこともある。ステークホルダーを代表しているともいえる立場として意見交換を行い、内容を適切に評価し執筆を行う。この工程を経ることでレポートの客観性を高めることができるようになる。特に統合報告書の主な読者は投資家となるため、情報の信頼性を高めることは重要だ。これらを踏まえ、前述した第三者による「保証書」を掲載する事例も増加傾向にある。
財務諸表の監査報告書は取締役会あてに発行されるが、統合報告書での第三者保証書は取締役社長に対し発行され、責任者が明確になっている。統合報告書に関する保証の在り方については、IAASB(国際監査・保証基準審議会)が 検討を始めている。統合報告書は、制度化された法定開示書類とは異なり、投資家とのコミュニケーションツールとして位置づけされ、それぞれの事業会社の自由度が必要と考えられる。
日本における統合報告書の歴史は、約10年になる。IIRCが2013年にフレームワークを発表してからは、わずか3年余りである。一方、金融商品取引法(旧証券取引法)は、制定されて70年近くの歴史があり、法定開示書類ではこの間整備が進んだ。この状況を考えれば、両者はまだまだ比較にならない。統合報告書の発行が増加したとはいえ、まだ上場会社全体の8%程度に過ぎない。この段階で「保証」を求めれば報告書の発行にブレーキをかけてしまう懸念がある。 しばらくは、各企業の創造性を制限すること無く「第三者意見」を活用し、対話のための報告書の発行を優先すべき時期と考える。

宝印刷グループ 株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所