グローバルリスクマネジメント

第6回 ロシアへの投資を行う際に知っておきたい現状

国際取引・海外進出

目次

  1. あまり知られていない投資先としてのロシア
  2. ロシア連邦の概要
    1. ロシア連邦の人口、面積など
    2. ロシア連邦の立法、行政、司法
    3. ロシア連邦の法令
  3. ロシア経済や対ロシア投資の現状について
    1. ロシア経済の現状
    2. 対ロシア投資の現状
  4. ロシア連邦における外国投資関連法
    1. 外国企業等による投資に関する規定
    2. ロシアの国家プロジェクトへ参加する企業に関する法律
    3. 投資優遇措置にはどのようなものがあるか
    4. 広がる優遇措置
  5. おわりに

あまり知られていない投資先としてのロシア

 日本人が「ロシア」という言葉を聞いて思い浮かべるのは、ロシア料理や芸術、文学等の文化であったり、シベリアやバイカル湖等の自然・風土、はたまた世界政治や領土問題であったりと多岐にわたり、国としてはそれなりの認知度を有していると思われますが、ロシアのことを「日本企業の投資先」として真っ先にあげる企業はまだまだ少ないのが現状です。
 その要因としては、言語の壁や煩雑・複雑な許認可手続き、汚職などの行政問題、インフラの未整備等々、種々指摘されていますが、ロシアの法制度について日本ではあまり知られていないことも、その一因であると思われます。本稿では、その一部について、ロシア連邦の概要や経済情勢と共にごく簡単に紹介したいと思います。

ロシア連邦の概要

ロシア連邦の人口、面積など

 ロシア連邦は、1991年のソビエト社会主義共和国連邦の崩壊後に、同連邦から離脱したロシア共和国が改称して成立した国家であり、周知のとおり世界最大の国土面積(約1,712万平方キロ)を有し、国内時差が9時間にも及ぶ「大国」です。人口は日本よりも1割強ほど多い、約1億4,654万人程度ですが、142もの民族からなる多民族国家であり、話されている言語も多岐にわたっています。
 ロシアは「連邦」という名のとおり、多数の統治主体が集まる共和制国家であり、22の「共和国」、9つの「地方」、46の「州」、3つの「連邦的意義を有する市」、1つの「自治州」、そして4つの「自治管区」の、全部で85の連邦構成主体が存在しています。

ロシア連邦の立法、行政、司法

 ロシア連邦では、日本と同様に立法権、行政権と司法権の三権分立制が憲法上定められています。立法権を有する立法府は、国家院(下院)と連邦院(上院)からなる二院制連邦会議(国会)として設置され、行政権を有する連邦政府は、大統領機構内閣から構成されています。他方で、司法権が帰属する裁判所は、「連邦」レベルの裁判所「連邦構成主体」レベルの裁判所の2種類に大別されます(「ロシア連邦の裁判制度に関する」連邦憲法的法律(1996年12月31日付第1-FKZ))。ロシアの裁判所の特徴の1つとして、一般の民事事件を取り扱う裁判所とは別に、商事裁判所(紛らわしい用語ですが、「仲裁裁判所」という呼び名もあります)が存在している点があげられます。

ロシア連邦の法令

 ロシア連邦の法令は、連邦レベルと地域レベルとに分けられています。連邦レベルでは、最高規範としてロシア連邦憲法が存在し、次いで連邦憲法的法律と呼ばれる法律があり、その後に(国内法に優先するものとして)国際法の原則および規範、国際条約が位置づけられ、さらに、連邦法、並びにその下位法令として大統領の命令および指令、政府の決定および処分、省庁の法令が続きます。他方で、地域レベルにおける法体系は、ロシア連邦構成主体の憲法および憲章、ロシア連邦構成主体の法律、地域下位法令および地方自治体の法令から構成されています。

ロシア経済や対ロシア投資の現状について

ロシア経済の現状

 ここ数年のロシア経済は、原油価格の低下等を受けたルーブルの急落や、対ロシア経済制裁の影響等もあってマイナス成長が続いていましたが、2017年については、IMFの現時点の予測として、金融緩和と国内需要の緩やかな回復を背景に、プラス1.1%の成長を見込んでおり、ロシア経済開発省も同様にプラス1.5%~2%の成長を予測しています。
 2014年11月にルーブルが変動相場制に移行して以来、同通貨の変動はロシアの主要輸出品目である原油価格の動向と密接にリンクするようになり、2014年後半の原油価格暴落(1バレルあたり115ドルから、30ドルまでの大暴落)を受けたルーブル安は、米ドル建てでの資金調達や原材料輸入を行っていた企業・家計を大きく圧迫していましたが、2017年2月の時点では原油価格が徐々に(約50ドル / バレル)回復・安定基調にあり、ロシア経済も緩やかに回復しつつあるという見方もあります。

対ロシア投資の現状

 このような状況の中で、対ロシア投資(外国直接投資)については、2013年の692億米ドルには遠く及ばないまでも、経済危機の最中にあった2015年の48億米ドルからは徐々に持ち直し、昨年(2016年)の投資額は190億米ドルとなっています
 なお、ロシア経済成長の鈍化のもう1つの要因として、ウクライナ問題に関連して西側諸国が発動した対ロシア経済制裁があげられていますが、IMFの分析によれば、これらの経済制裁がロシア経済成長の鈍化に与える影響は、鈍化要因の4分の1未満に過ぎないとのことであり、他の要因(たとえば原油価格等)が変化(改善)した場合には、ロシア経済も本来の成長曲線に戻る可能性があると言われています。また、ロシアの経済専門家の中には、米国がロシアに課している経済制裁は、新大統領の下でほぼ確実に解除されるとみている者も多くいます。

ロシア連邦における外国投資関連法

外国企業等による投資に関する規定

 ロシア連邦における外国企業等による投資については、主として「ロシア連邦における外国投資に関する」連邦法(1999年7月9日付第160-FZ)(以下、「外国投資法」といいます)に規定されています。
 外国投資法は、全28条から構成され、外国の資金、最先端の技術・設備および経営経験をロシアに導入することを目的とし、また、外国投資および外国投資家の概念(定義)、外国投資に対する法的保護、外国投資・外資企業活動にかかる係争解決方法、外国投資家に与えられる特典、外国投資家に対する規制など、外国投資にかかる事項を規定しています。

ロシアの国家プロジェクトへ参加する企業に関する法律

 このほか、特にロシアの国家プロジェクトへの参加を検討する企業にとって重要な法律として、「国防および国家安全保障の確保のために戦略的意義を有する経済団体への外国投資の実施に関する」連邦法(2008年4月29日付第57-FZ号)(以下、「戦略的企業法」といいます)があげられます。戦略的企業法は、外国投資家または集団による、国防および国家安全保障の確保のために戦略的意義を有する経済団体の定款資本を構成する株式(持分)の取得の形式での投資の実施や、結果的に外国投資家または集団が当該経済団体への支配を確立するその他の取引の実施に関連する関係を規律しており、外国投資家等による当該取引の実行に際しての関連当局の承認を要求しています。
 また、戦略的企業法以外にも、銀行業や保険業、マスメディア等の特定の産業に対する投資を制限する個別の法令が存在しており、投資先の業態に応じた検討が必要となりますが、いわゆる外資規制としてはさほど厳しくはないという印象です。

投資優遇措置にはどのようなものがあるか

 他方で、ロシア連邦においても、外国投資家も対象に含めた投資優遇措置が策定されています。その典型例は、いわゆる「経済特区」に関するものであり、いくつかの根拠法によって、様々な優遇措置が規定されています。
 たとえば、「ロシア連邦における特別経済区に関する」連邦法(2005年7月22日付第116-FZ号)により、特別経済区の制度が導入されており、その後の抜本的な法改正等を経て、現在では、ロシア全土において32以上の技術導入型、生産型、観光型および港湾型の各種の特別経済区が設けられています。
 特別経済区においては、国内の特定の地域において、インフラの整備、関税の減免、法人資産税・土地税・企業利潤税の減免等の措置を適用することによって、海外の投資家のための事業環境の整備が図られています。これまでの日本企業の利用実績としては、横浜ゴム株式会社、三桜工業株式会社、豊田通商株式会社をはじめとする日系企業の子会社があります。

広がる優遇措置

 これらの特別経済区に加え、ロシアでは、「ロシア連邦における優先的社会経済発展区域に関する」連邦法(2014年12月29日付第473-FZ号)に基づき、極東地域、カリーニングラード地域、スヴェルドロフスク地域に優先的発展区域と呼ばれる特区が設置されています。
 このほか、近年においては、経済制裁の対象外となっているアジアとの連携強化をはかるべく、「ウラジオストク自由港に関する」連邦法(2015年7月13日付第212-FZ)に基づくウラジオストク自由港が設置されています。後者は、ロシア沿海地方に港を持つ地域や、国境に接している地域を主な対象とし、入居事業者となる外国投資家に対して優遇措置が提供されるというものですが、ロシア政府による極東経済へのテコ入れをはかる政策として、その効果が期待されているところです。

おわりに

 日本企業にとって、ロシア市場はこれまでは決して一般的なものではなかった感がありますが、経団連が昨年実施した「ロシアのビジネス環境等に関するアンケート(2016年度)結果 − 概要 −」によれば、ロシアにおいてビジネスを「現在行っている」もしくは「今後行う予定がある」企業の77.2%が、「非常に有望である」または「有望である」と回答しており、また、日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した「2016年度ロシア進出日系企業実態調査」 においても、回答企業のうち6割超の企業が、2016年の営業利益見込みは「黒字」と回答し、前年比での営業利益見通しは、8割が「改善」または「横ばい」と回答しています。

【ロシア・ビジネスに対する見方】

出典:経団連「ロシアのビジネス環境等に関するアンケート(2016年度)結果 − 概要 −


【2016年の営業利益見込み(左グラフ) / 2015年実績と比較した2016年の営業利益見込みの変化(右グラフ)】

出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2016年度ロシア進出日系企業実態調査

 中国をはじめとして、昨今において有望とされていた他の新興国の経済成長率が軒並み鈍化する中で、ロシア投資の未来は「まずまず(Не плохо)」と言ったところかもしれませんが、いずれにせよ今後の動向が注目される国であることは間違い無さそうです。

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