AMTメタバース法務研究会設立 仮想空間における法的問題について聞く

IT・情報セキュリティ

目次

  1. AMTメタバース法務研究会の位置付け
  2. クライアントから寄せられる相談、特に問題となっているポイントは
  3. メタバースで日本企業が世界と戦うために必要なこと
  4. メタバースの拡大に法務担当者が取り組むこと

メタバースに関するビジネスが世界中で勢いを増しています。国内ではスタートアップのみならず、大手企業も次々と参入が報じられています。

豊富なコンテンツを保有している日本にとって好機という見方がある一方、「仮想空間ビジネス」の法的側面については、ようやく本格的な検討の必要性が認識されつつある段階です。

このような状況を受け、アンダーソン・毛利・友常法律事務所では2022年4月に「AMTメタバース法務研究会」を設立。仮想空間ビジネスに関連する法的論点の整理や検討を継続的に行うべく、毎月議論を重ねています。

仮想空間におけるビジネスと法的な問題点はどこにあるのでしょうか。研究会が目指す姿について伺いました。
(下尾 裕弁護士はオンライン会議システムから参加)

プロフィール

河合 健弁護士
アンダーソン・毛利・友常 法律事務所外国法共同事業 パートナー 弁護士
主な業務分野は、フィンテック、金融規制、スタートアップ・ベンチャー支援、IT・デジタル関連法務。 自由民主党「NFT政策検討PT」ワーキンググループメンバー、日本デジタル空間経済連盟監事、Metaverse Japanアドバイザー、経済産業省「スタートアップ新市場創出タスクフォース」委員、日本金融サービス仲介業協会監事、大阪府「国際金融都市OSAKA推進委員会」アドバイザー、日本STO協会顧問、日本暗号資産ビジネス協会顧問を務めている。

青木 俊介弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー 弁護士/ニューヨーク州弁護士
国内外の資本市場における証券発行案件をはじめ、フィンテック、金融規制対応、企業買収・企業提携を含む企業法務全般につき幅広く取り扱う。特にセキュリティ・トークン(デジタル証券)に関わる案件を得意とし、キャピタルマーケッツの実務を踏まえたアドバイス、各種研究会への参加等を活発に行っている。

後藤 未来弁護士
弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー 弁護士/ニューヨーク州弁護士
理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)に関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。

長瀨 威志弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー 弁護士/ ニューヨーク州弁護士
⾦融庁総務企画局企業開⽰課に出向した後、国内⼤⼿証券会社法務部に2年間出向。⾦融庁出向は主に開⽰規制に関する法令・ガイドラインの改正、スチュワードシップコードの策定等に携わり、証会社出向中は各種ファイナンス案件、Fintech案件、コーポレート案件へのアドバイスに従事。当事務所復帰後は、暗号資産交換業・デジタル証券、電子マネー決済等のFintech案件を中⼼に取り扱うとともに、国内外の⾦融機関に対するアドバイスを提供。

中崎 尚弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル 弁護士
国内外の個人情報・データ保護法分野(個人情報保護委員会の委託調査を担当)、インターネット案件(オンラインゲームを含む各種サービス立ち上げ支援、ドメイン紛争、電気通信事業法、資金決済法)、知的財産分野(著作権法、商標法、不正競争防止法)その他IT関係法分野を主な業務分野とする。経済産業省・総務省の各委員を歴任。『著作権判例百選 第6版』(有斐閣)、『Q&Aで学ぶGDPRのリスクと対応策』(商事法務)ほか論文・講演多数。

下尾 裕弁護士
弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所 スペシャル・カウンセル 弁護士/ 税理士
東京国税局調査第一部調査審理課出向時に、大規模法人・外国法人の法人税・消費税、さらには国際税務に関する多くの案件に携わる。弁護士復帰後は、税務関連業務として、クロスボーダー案件や金融取引における税務アドバイス、資本政策・ウェルス・マネジメント関連業務を取り扱うほか、紛争処理・不祥事対応等の業務にも広く対応している。

井上 乾介弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル 弁護士/カリフォルニア州弁護士
著作権法(美術、ゲーム、映画、出版等のコンテンツ、ソフトウェア及びインターネット)、商標法、不正競争防止法等の知的財産法分野、個人情報保護法等のデータ保護法分野、その他IT関係法分野を主な業務分野とする。著作権法学会会員、ALAI(国際著作権法学会)会員。

AMTメタバース法務研究会の位置付け

メタバース研究会の位置づけ、先生方が取り扱っているテーマについて教えてください。

井上弁護士:
メタバース研究会ではクライアントの方からご相談をいただくことが多い知的財産、データ保護、電子商取引、金融規制、税務の5分野を扱っており、各分野の専門性を有する弁護士が所属しています。

4月から毎月1回研究会を開催し、経産省の方、河合先生が監事をされている団体の方、一部の官庁の方、またメタバース関連サービスを展開されている事業者の方とも意見交換しています。

研究会の成果は、タイムリーに外部発信を行って議論したいと考えています(なお、メタバース関連の情報発信の一環として、弊所のHP上に特設サイトも開設しております)。ビジネスに関わる人たち、法律関係者の中で議論が広がり、より良いルール、技術的な対応策などのアイディアが生まれてほしいですね。

私はメタバースについて、主に知的財産保護と電子商取引の観点から検討しています。

井上 乾介弁護士

井上 乾介弁護士

後藤弁護士:
私も知財分野を専門にしています。以前から日本と海外のゲーム会社を何社かご支援しているのですが、ここ数年で「自社の取り組みがメタバースに応用できるのではないか」という意識が高まっているのを感じます。

この意識の高まりに伴い、自社のIPを活用して世界と戦っていく機運も高まっています。日本企業が世界で勝つために、様々な法分野の観点から総合的にサポートすることが私どもの役割です。

長瀨弁護士:
私は金融規制、主にブロックチェーンを中心としたフィンテックまわりを担当しています。

メタバース上の金融取引がインターネット上の取引を超えたインフラになったときを想定し、従来の金融取引にはない論点について研究会で議論していければと考えています。

河合弁護士:
私の専門分野は、フィンテック、ブロックチェーン、暗号資産の領域です。

VR、ARとトークン技術が結びついて経済圏として成立し始めており、特に、欧米ではこれまでの閉じられたゲームの世界から、実経済と結びついたものが出てきています。ここから、規制関係を適用する範囲について急速に議論が活発になっています。

また、複合的に物事が進むのがメタバースの特徴です。これまでバラバラに分析していれば足りた、金融、知財、データ保護などの領域が1つのご相談の中に含まれてきます。

領域をまたぐ内容を統合してアドバイスできるようにすることが、この研究会のメインの趣旨です。メタバース関係の団体とも連携し、研究の内容を世の中に出していくことも視野に入れています。

青木弁護士:
私はこれまでキャピタルマーケッツ分野の案件に関わってきました。近年はフィンテック、STOの案件にも取り組んでいます。

メタバースによって資産の性質、コミュニケーションの仕方が変わってきます。良い面もあれば、弊害が生じるかもしれません。未知の部分は多いですが、新しい法律問題を掘り下げていきたいと思っています。

中崎弁護士:
私はゲーム、ソーシャルメディア、ECサイトなどインターネット分野の案件を全般的に扱っており、研究会では個人情報、データ、セキュリティまわりを担当しています。

従前ソーシャルメディアで生じていたユーザー間のトラブルなどの事例をもとに、メタバース上で起きる問題に対して我々がサポートできることは多いと考えています。

中崎 尚弁護士

中崎 尚弁護士

下尾弁護士:
研究会では税務を担当しています。メタバースが発展したとき、物理的国境を前提にルールが決められている国際課税について問題になります。

すでにOECDではデジタル課税に関する議論がなされていますが、この議論は大きな他国籍企業を想定したものでした。議論をしている間に、世の中は進んでいます。経済発展に課税ルールが追いついていない問題が一番大きいと考えています。

おそらく、今後も議論がなされ、ルールが変わっていくことが想定されます。現行のルールに照らしてメタバース内取引の課税関係や問題点を可能な限りで明らかにし、今後の改正の議論に繋げていくことが、この研究会における私自身の役割と思っています。

クライアントから寄せられる相談、特に問題となっているポイントは

メタバースに関するビジネスが急速に台頭してきた背景はどこにあると考えますか?

河合弁護士:
まずは技術の進歩です。2003年頃に登場した「セカンドライフ」が仮想空間上のコミュニケーションの先駆けと言えますが、動きも遅く、使い勝手の悪さがありました。今はVRも進歩していますし、ブロックチェーンも使いやすくなっています。

また、コロナの影響は大きいと思います。デジタル空間で過ごす時間が急速に増えたので、ユーザーの慣れも進んでいます。

リーマンショック後、UberやAirbnbなど様々な産業が出てきました。危機は新しい産業の進展を促すのかもしれません。ヘッドセットなどの機材が使いやすくなると、さらに加速していくと考えています。

河合 健弁護士

河合 健弁護士

どのようなサービスが特に注目を集めていますか?

長瀨弁護士:
Decentraland(ディセントラランド)の土地NFTは注目を集めています。

ファンドを組成してNFTを投機対象として買うこともあれば、現実の不動産と同じように、別の人にライセンスをして、その土地上で仮想空間上の美術館を建てて賃料収入を得るなどの動きが見られます。

中崎弁護士:
仮想空間上の土地の問題についてはセカンドライフの例も参考になります。特に、不動産の侵入についてはセカンドライフでも問題になったのですが、メタバースでも同様です。

むしろ、メタバースの場合は不動産に値段がついているため、保護の必要性がより高まってきます。以前より真面目に議論しなければいけない状況にあります。

セカンドライフについては東大の先端研でコンテンツの保護、ユーザー間のトラブルなど、ルールの在り方について検討するプロジェクトがありました。アメリカや中国では裁判例もあり、参考となる点が多くあります。

先生方にはどのような相談が寄せられているのでしょうか。

長瀨弁護士:
メタバース、Web3.0、NFTという言葉がバズワード化している側面があり、依頼者の方も混同した状態でご相談が寄せられることがあります。

Web3.0といってもサービスの前提が異なれば、法的な論点も変わってきます。1つひとつ、状況や場面を設定して議論しないと、正確な検討はできないと考えています。

中崎弁護士:
メタバース上の情報の流れについてもご相談をいただきます。ユーザーの個人情報やアバターの情報がどこまで保護されるべきなのか。たとえば、取得した情報をブロックチェーン上で流す際、GDPRの削除権への対応をどうすればよいか、などの問題です。

河合弁護士:
金融機関はメタバース上に仮想店舗を開いて投資アドバイスをできるのか、という話もあります。

海外では、JPモルガンが仮想店舗を開いていますが、日本で同じことをやろうとすると金融規制特有の問題が出てきます。

後藤弁護士:
他にも、知財はいろいろな場面で問題になります。

メタバース空間上で使われる技術、デザイン、ブランドについて現行法の中で守れるものと、まだ守れないものがあります。

自社の技術やコンテンツについて、今ある法規制の中でどうやったら守っていけるのか、日本企業としては考えていかなければいません。10年後、20年後を見据えて何をしたらよいのか。ご相談いただいた企業の方と一緒に考えている状態です。

後藤 未来弁護士

後藤 未来弁護士

下尾弁護士:
税務分野では大きな問題が2つあります。

1つは所得税・法人税との関係。メタバース内の取引から生じる所得を国内源泉所得として課税するかどうかという点です。

たとえば、デジタル資産の譲渡対価、ライセンス料の扱いや、流通過程から対価を得るビジネスにおける著作権の扱いなど、各国によって税法上の取り扱いは異なりますし、不透明な部分がたくさん残ります。整備をしていくハードルは非常に高いと思っています。

もう1つは消費税の問題です。これまで、基本的には国内の活動に課税するルールでしたが、メタバース上の活動について国内取引の判定をどのように行うのか、さらには輸出免税をどう考えるか、絶えず議論の対象になってきます。

また、日本特有の問題としては相続税があります。デジタル財産が相続税の対象になると、日本の個人にとっては非常に大きな負担になってきます。

技術・ビジネスの進歩と現行のルールとの乖離が起きているのですね。

下尾弁護士:
税の分野は顕著に乖離が出ています。国境のないメタバース上の人格が匿名で行う取引、特にメタバース内で完結する取引と課税を結びつけていく必要が生じていることは、税のルールにおいて大きな転換点です。

後藤弁護士:
知財に関しては、例えば、意匠法における乖離が指摘できます。現行の意匠法は、基本的にはリアル空間におけるモノを保護する制度となっています。デジタル空間上でのデザインの意匠による保護は、少なくとも日本の現行法の下では、限られた局面でしかなされていません。この点は、今後、法改正の議論もなされる可能性があると思います。

青木弁護士:
金融規制の分野、あるいはキャピタルマーケッツの分野でも、グローバルに解決しなければいけない問題が生じます。

たとえば、メタバース内で証券化商品を発行したとき、当事者全員が違う国の人で、国との関わりがわからないケースもありえます。そのとき、どの国の法律、金融規制を適用していくのかというのは、非常に難しい問題です。

ここまで幅広い問題があるとは想像していませんでした。

青木弁護士:
幅広い問題があるからこそ、伝統的にクロスボーダーの案件を扱ってきた当事務所のノウハウが生きる場面があると思っていますし、我々はそれを楽しみに待っています。

その中で解決できなかったものは、関係者の間でさらに議論をしていくべきですし、我々はそういう線引きができると思います。

青木 俊介弁護士

青木 俊介弁護士

メタバースで日本企業が世界と戦うために必要なこと

メタバース領域の事業で日本企業が世界と戦っていくためには何が必要なのでしょうか。

河合弁護士:
日本はまだまだ大企業が中心の社会です。スタートアップ経済圏と大企業の経済圏がうまく連携していけるかがポイントです。

政府の方針として追い風は吹いています。スタートアップ、Web3.0に対しての支援を通じて、規制緩和やルールの明確化に繋がることが求められます。一定程度、法的な整備ができていないと大企業の参入は難しいでしょう。

井上弁護士:
アメリカのようにスタートアップが立ち上がり、多額の投資を受け、一部の成功した企業によって市場を切り開いていく形もあります。それは、アメリカやシリコンバレーというエコシステムの中でできたものです。このやり方だけが正解というわけではありません。

日本の場合、経産省など外部の方も含めて広く情報共有し、興味を持っている方全般に協力していただきながら議論を進めていくことも重要だと思います。

長瀨弁護士:
私は官庁の方とお話をする機会が多いのですが、皆様すごく前向きです。実務上、障壁になっているものを探り、解決に向けて取り組まれています。

その結果、大企業が参入できるだけのリスク分析ができれば、日本はソフトコンテンツに優れておりますので、勝機は十分にあると見ています。

青木弁護士:
日本企業にとっての足かせを取り払うこと、不明確な点を明確にするだけでもビジネスはやりやすくなります。そのために我々が貢献できることはかなりあると思います。

中崎弁護士:
欧米との関係ではルールづくりの問題があります。GDPRのときはヨーロッパにしてやられたという感覚を世界中で持っていました。

AIやロボットの分野では、日本も積極的に動いていますが、どうしてもヨーロッパとアメリカが先行して動いている印象です。メタバースでは、今度こそルール作りをリードするためにも、日本としての方針を考えることも必要だと思います。

メタバースの拡大に法務担当者が取り組むこと

法務担当者はメタバースの発展にどう取り組むべきでしょうか。

中崎弁護士:
メタバースをご自身で体験することです。契約や利用規約、メタバース内で生じる可能性があるトラブルなど身をもって理解いただけると思います。

井上弁護士:
メタバースの登場によって、いきなり「メタバース法」ができるわけではありません。

電子商取引を例にとれば、インターネット上の電子商取引に関するルールは民法からはじまって、インターネットの特徴を踏まえた議論を積み重ねて作られてきました。この延長線上にメタバースもあると考えています。

議論を積み重ねてきた延長線上にメタバースの問題がある、という考え方を基本として持ちながら、法律がカバーしていないのであれば、自社の利用規約、契約、あるいはオペレーションの対応でリスクヘッジをしてビジネスを伸ばしていく。そういった連続的な思考が重要だと思います。

メタバース、Web3.0、NFTとバズワードになってしまっているが故に、警戒感を感じている方もいるでしょう。

しかし、今のインターネットも徐々に発展してきたように、過剰な期待も過度な警戒もせずに、連続性を意識して、発展する方向性について議論していく形が有益と思っています。

連続性を意識する、ということですね。それでは最後に、今後研究会はどういう形で発展を目指していくか伺えますか。

長瀨弁護士:
メタバースに関するビジネスの進展は非常に速いです。

おそらく、研究会で議論していく過程で想定していなかった新しい事象や問題、テーマが出てくるはずです。たとえば、メタバース上でも経済安全保障の観点からもウォッチが必要なのではないかという話も出てきています。

ビジネスの進展や相談者が抱えている悩みに柔軟に対応できる、即時性の高いものとして続けていきたいですね。

研究会での議論が、メタバース事業に取り組もうとされている事業者にとって道しるべになるよう、研究や発表を続けていければと思っています。

長瀨 威志弁護士

長瀨 威志弁護士

(写真:岩田 伸久、取材・文・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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