省庁横断でわかる、マイナンバー制度の最新動向
IT・情報セキュリティ
目次
平成28年1月1日から、マイナンバー法が全面的に施行され、本格的な運用が始まった。
その直前、平成27年後半に、各省庁から次々と新しい規定や情報が公開された。前回の「改正マイナンバー法への対応で押さえておくべき3つの重要ポイント」では、平成27年9月に改正されたマイナンバー法の内容を解説したが、今回は、各省庁から公開された情報の中から、実務上の影響が大きい点をピックアップして紹介する。
国税庁の動き
所得税法施行規則の改正(平成27年10月2日)
平成27年10月2日に、所得税法施行規則が改正された。今回の改正により、本人交付用の源泉徴収票などにマイナンバーを記載する義務がなくなった。
これは、実務上の負担を軽くする、非常に大きな影響がある改正だ。
本人交付用の源泉徴収票にマイナンバーを記載する義務がなくなった
改正前の所得税法施行規則では、本人交付用の源泉徴収票などにマイナンバーを記載する義務があった。毎年12月の給与袋に同封する源泉徴収票に、マイナンバーを記載しなければならなかったのである。
そのため、源泉徴収票の社内での流通方法などが、実務上大きな問題となっていた。
しかし、今回の改正により、 税務署に提出する源泉徴収票以外にはマイナンバーを記載する必要がなくなった。大きな負担軽減になるであろう。
支払調書はどう扱えばよいか
なお、支払調書は税務署に提出する義務があるのみであり、本人に交付する義務はない。実務上は支払調書の写しを本人に交付している企業も多いと思われるが、これは本人の確定申告の便宜のためにサービスで交付しているに過ぎない。
したがって、本人に交付する支払調書の写しについては、今回の改正にかかわりなく、マイナンバーを記載して交付することはできないから注意が必要である。
扶養控除等申告書の取り扱いに関するFAQの追加(平成27年10月28日)
平成27年10月28日には、扶養控除等申告書の取り扱いに関して、国税庁のFAQに重要な3点の追加があった。 いずれも、企業側の負担を軽減させる内容だ。
扶養控除等申告書にマイナンバーを記載しなくてよい場合
現行の所得税法では、扶養控除等申告書にマイナンバーを記載して会社に提出する義務が従業員にある。
しかし、従業員が同申告書の余白に「マイナンバーについては給与支払者に提供済みのマイナンバーと相違ない」旨を記載したうえで、会社が、「すでに提供を受けている従業員などのマイナンバーを確認し、確認した旨を同申告書に表示」すれば、同申告書の提出時に従業員などのマイナンバーの記載をしなくてもよいことになった(表1)。
表1 扶養控除等申告書のマイナンバーを記載しない取り扱い(平成28年分)
原則 | FAQにより認められた例外 |
---|---|
従業員がマイナンバー欄にマイナンバーを記載する | ①従業員が余白に「マイナンバーについては給与支払者に提供済みのマイナンバーと相違ない」旨を記載する + ②会社が提供済みのマイナンバーを確認し、確認した旨を表示する |
扶養控除等申告書にマイナンバーのプレ印字も可能
所得税法上、扶養控除等申告書は、従業員自身が記載しなければならないとされている。
しかし、実務上は、会社側で氏名・住所・生年月日などを印字して従業員に交付している例も多くある。そのような会社が、今後、従業員のマイナンバーも印字してもよいか問題となっていた。
この点について、FAQでは「会社が従業員などのマイナンバーを印字し、その印字されたマイナンバーを従業員本人が確認することは、マイナンバー法上可能」という見解を示している(厳密には、国税庁としては所得税法上の見解は示していないということである)。
現状、扶養控除等申告書を会社側がプレ印字する実務は広く行われているから、これを追認する形になったといえる。
扶養控除等申告書は身元確認書類となる
そのうえで、扶養控除等申告書に従業員の氏名、および生年月日または住所を印字して交付し、従業員がその申告書を用いて申告した場合は、本人確認のうち「身元確認」は完了しているという考え方が明確になった。
国税庁告示2号(平成27年1月30日)によれば、個人番号関係事務実施者(民間企業)が、個人識別事項(氏名、および生年月日または住所)を印字した書類を作成して本人に交付または送付し、本人がその書類を使用してマイナンバーを提供した場合には、その書類そのものが身元確認書類となるとされている(第3欄1-5)。
従前は、扶養控除等申告書は従業員自身が記載しなければならないという所得税法の規定から、会社がプレ印字することは認められていないという解釈もあったが、今回、この点が明確化され、会社が同申告書に氏名、および生年月日または住所をプレ印字すれば身元確認書類として認めることになった。
ただし、FAQは、企業が扶養控除等申告書に印字した氏名、および生年月日または住所が従業員本人のものであることを既に確認できていることが前提となるとしているから注意が必要である。
実務はどのように軽減されるか
企業が従業員からマイナンバーを取得する場合、番号確認と身元確認という、厳しい本人確認が求められている。
この点、実務上では非常に大きな負担と考えられていたが、 扶養控除等申告書を身元確認書類として使えることになれば、あとは、番号確認のための通知カードなどを確認するだけでよい。従業員の身元確認書類(運転免許証やパスポート等)を省く有力な方法となるだろう。
※右欄、身元の確認に、印字した扶養控除等申告書が使える
出典:マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります!入門編 平成27年内閣府
所得税法等の改正(平成28年3月31日)
平成28年3月31日に改正された所得税法、同施行令および同施行規則によれば、会社や金融機関が顧客や従業員のマイナンバーなどを記載した帳簿を備えているときは、従業員が勤務先に提出する扶養控除等申告書(この他、退職所得の受給に関する申告書等がある)や顧客が金融機関に提出する告知書等(利子・配当等の受領者の告知や、無記名公社債の利子等に係る告知書等がある)について、マイナンバーの記載は不要とされている。
これにより、従業員や顧客から提出される書類のほとんどにマイナンバーの記載が不要になると考えられ、マイナンバーが記載される場合と比べて、書類の管理コストを削減できることが期待される。
ただし、扶養控除等申告書などについての改正は、来年分(平成29年分)からの取り扱いとなる。
厚生労働省の動き
雇用保険に関するQ&A(平成27年12月18日・平成28年2月8日)
平成27年12月18日および平成28年2月8日に、厚生労働省から「雇用保険業務等における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A」(以下、雇用保険Q&A)や事業主向けのリーフレットなどが更新、公表された。
これらの資料によれば、以前に公表されていた雇用保険分野でのマイナンバーの取り扱い方法からの変更点がある。これらの変更点のうち、企業の実務に影響を与えると考えられる主要なものは、以下のとおりである。
雇用継続給付の申請手続
雇用継続給付(高年齢雇用継続給付、育児休業給付および介護休業給付)の申請手続については、平成28年2月16日以後、原則として事業主を経由して申請を行うこととされ、その事業主は個人番号関係事務実施者(マイナンバー法に基づきマイナンバーを利用できる者)になるとされた(雇用保険Q&A「Q2」、「追加Q4」)。
そのため、事業主が申請手続を行う場合には、従業員からマイナンバーの提供を受ける際に事業主において従業員の本人確認(番号確認および身元確認)を行っておく必要がある(雇用保険Q&A「Q5」)。
在職者のマイナンバー 記載が必要な届出は雇用継続給付のみ
在職者のマイナンバーについて、「平成28年1月からの提出は求めないものの詳細は追って案内する」とされていたが、在職者のマイナンバーを記載する届出は、「雇用継続給付」(高年齢雇用継続給付、育児休業給付及び介護休業給付)のみとされた(雇用保険Q&A「追加Q8」)。
マイナンバーが記載された書類を郵送する場合
マイナンバーが記載された届出書を郵便で送付する場合、従前は、「届出に係る履歴が確認できるような方法(例:書留郵便など)」で行うものとされていたが、実務上の負担が重い旨の批判を受け、「普通郵便でも受理するが、郵送で届出を行う場合は、できるだけ、追跡可能な書留郵便等による方法での届出を行う」ものとされた(雇用保険Q&A「Q14」)。
労災保険に関するQ&A(平成27年12月22日)
平成27年12月22日に、厚生労働省から「労災保険給付業務における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A」(以下、労災Q&A)が更新、公表された。
利用目的から労災保険手続を除外することが必要
労災保険について、マイナンバーの利用目的から除外する必要があるとされた点は、重要なポイントである。
平成27年10月時点では、「労災保険の手続に関してマイナンバー法上の個人番号関係事務実施者にはならない」としたうえで、利用目的の明示などのマイナンバーの取り扱いについては「検討中」としていた。
今回の公表によって「事業主は、マイナンバーを従業員から取得する際の利用目的に労災保険の手続を含めることはできず、労災保険の手続のために、マイナンバーを収集、保管することはできません」(労災Q&A「Q6」)としているので、注意をしてほしい。
労災保険に関して事業主がマイナンバーを取り扱うことができる場合
なお、労災年金の請求人が自ら手続を行うことが困難な場合には、事業主が請求人から委任を受け、請求人の代理人として、マイナンバーを取り扱うことは可能である。事業主が請求手続を行う場合には、役所において、代理権の確認、代理人の身元確認および本人の番号確認を行ってもらう必要がある(労災Q&A「Q6」)。
総務省の動き
地方税法施行規則等の改正(平成27年9月30日)
平成27年9月30日、総務省から地方税法施行規則等の一部を改正する省令が公布された(総務省 新規制定・改正法令・告示 省令の9月30日の欄参照)。これにより、地方税に関して、どの書面にマイナンバーが必要になるか確定した(表2)。
内容を見ると、自社の従業員へ通知する利用目的に、「個人住民税に関する届出・申請事務」を追加することが望ましいと考えられる。
表2 地方税においてマイナンバーが必要となる帳票
(総務省「地方税分野の主な申告手続等における様式【税目別】」などに基づいて構成)
事務手続 | 番号記載 | 番号記載時期 | |
---|---|---|---|
個人 | 法人 | ||
給与支払報告書(総括表) | - | ○ | H29年度以後の年度分の住民税に係る報告書の提出から |
給与支払報告書(個人別明細書) | ○ | ○ | H29年度以後の年度分の住民税に係る報告書の提出から |
給与所得者異動届出書 | ○ | ○ | H29年1月1日以後に給与の支払いを受けなくなった者に係る届出から |
退職所得等の分離課税に係る納入申告書 | - | ○ | H28年1月1日以後に行われる納入申告から |
退職所得申告書(ただし、平成29年分以降は、企業が従業員のマイナンバーなどを記載した帳簿を備えているときは不要) | ○ | ○ | H28年1月1日以後に行われる申告から |
特別徴収切替届出(依頼)書 | ○ | ○ | H29年度以後の年度分の住民税に係る届出から |
給与所得等に係る特別徴収税額の決定・変更通知(特別徴収義務者用) | ○ | ○ | H29年度以後の年度分の住民税に係る通知から |
給与所得等に係る特別徴収税額の決定・変更通知(納税義務者用) | - | - | 当面記載しない |
個人情報保護委員会の動き
番号法ガイドラインQ&Aの改定
個人情報保護委員会からも、特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(以下、番号法ガイドライン)が数回にわたり追加・修正されている。以下、実務に影響を与えるポイントを整理する。
平成27年4月17日改定のポイント
特定個人情報の受渡しに関して配送業者・通信事業者などはマイナンバー法上の委託にあたるか
→委託にあたらない。法律上保存義務がない書類(支払調書など)はマイナンバーを記載したまま最長何年保存できるか
→最長7年間保存できる。
平成27年8月6日改定のポイント
扶養控除等申告書の配偶者・扶養親族の通知カードなどは、会社としてどう扱うか
→会社に本人確認の義務はない(従業員に本人確認をする義務がある)。
しかし、従業員の記載したマイナンバーに間違いがないか確認するため、配偶者・扶養親族の通知カードなどの提出を受けることも可能。事務取扱担当者の位置付けはどうすればよいか
→定期的に発生する事務や、中心となる事務を担当する者のみを事務取扱担当者と位置付けることも考えられる。標的型攻撃への対応はどのようにすればよいか(Q&Aの追加)
→被害を最小化する仕組みを導入し、適切に運用する。
→特定個人情報ファイルを端末に保存する必要がある場合、パスワードの設定などにより秘匿する。
→情報漏えいなどの事案の発生または兆候を把握した場合の、迅速な情報連絡体制についての確認・訓練を行う。
以上の項目は、ガイドラインの技術的安全管理措置には項目としてあがっていなかったが、ガイドラインが事実上修正(追加)されたものとして、社内規程などに盛り込むことが考えられる。
平成27年10月5日改定のポイント
本人交付用の源泉徴収票などにマイナンバーを記載する必要がなくなったことに伴う改定であり、内容は前述した「1.国税庁の動き 所得税法施行規則の改正 本人交付用の源泉徴収票にマイナンバーを記載する義務がなくなった」のとおりである。
おわりに
マイナンバーに関する規制は、実際に始まってからの運用を踏まえて、今後も変更されていくものと予想される。
変更されると予想される規制の内容は、税・社会保障に関わる事務に関するものや、情報セキュリティなど、社内での体制をより強固にしなければならないものまで、様々だ。
企業の実務に関わる方々は、内閣官房の社会保障・税番号制度のウェブサイトと、個人情報保護委員会のウェブサイトを確認するなどして、常に情報をアップデートし、適宜社内への周知、規程の見直しなどに取り組む必要がある。

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