請負と雇用は税務上どのような違いがあるか

税務
安積 健 辻・本郷 税理士法人

 当社は株式会社A社の専属下請会社であり、建設工事業を営む未上場会社です。各現場の業務に従事する複数の作業員と1日の労務に係る対価の額を口頭で約束し(契約書は交わしていません)、報酬を支払っています。報酬については、源泉徴収の必要性を認識してはおりません。税務上、何か問題になるようなことはありますか。

 労務に係る対価の額について口頭で約束し、特に契約書は交わしていないとのことですが、税務上、契約内容が請負に該当する場合と雇用に該当する場合では、課税関係を異にする場面があります。したがって、契約内容や事実関係を確認したうえで、請負契約、雇用契約のいずれに該当するかを判断し、課税関係を当てはめる必要があります。

解説

目次

  1. 請負契約と雇用契約の意義と税務上の相違点
    1. 請負契約、雇用契約の意義
    2. 消費税に関する相違点
    3. 源泉所得税に関する相違点
  2. 請負と雇用の区分
    1. 消費税法における区分
    2. 裁判例、裁決例における判断
  3. まとめ

 世の中には、売買契約書、交換契約書、賃貸借契約書、消費貸借契約書、請負契約書、雇用契約書、委任契約書など様々な種類の契約書が存在します。たとえば、売買契約書であれば、売買を前提とした法律関係や課税関係が構成されるのが通常です。しかしながら、税務上は、契約書の名称に関わらず、その内容に応じて、つまり実態を検討したうえで、その内容に相応しい課税関係を当てはめることが行われる場合もあります。

 設例では口頭のみの約束ですが、その契約内容の実態が請負であれば、それに従った課税関係となり、その実態が雇用であれば、それに従った課税関係を当てはめることになります。特に、請負契約と雇用契約では、課税関係が異なる場面が存在するため、注意が必要です。そこで、本稿では、請負と雇用で課税関係を異にする点を明らかにしたうえで、両者の区別をどのように考えればよいかについて解説します。

請負契約と雇用契約の意義と税務上の相違点

請負契約、雇用契約の意義

 請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することをいいます(民法632条)これに対し、雇用とは、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することをいいます(民法623条)。民法上は、このように請負の場合は、仕事の完成ないしその結果に対して報酬が支払われるのに対し、雇用の場合は、労働自体に対する対価として報酬が支払われるという相違があります。

消費税に関する相違点

 請負、雇用いずれも相手方に報酬を支払うことになりますが、消費税の取扱いが異なります。消費税では、事業を行う個人が事業として行う役務の提供に係る報酬については、課税の対象とされるのに対し(消費税法4条1項)、雇用主に従属して行う役務の提供に係る報酬については、課税の対象外とされます。事業とは、役務の提供が反復、継続、独立して行われることであり、事業を行う個人とは、自己の計算において独立して事業を行う者をいいます(消費税法基本通達5−1−1、1−1−1)。その結果、請負に係る報酬は課税、雇用に係る報酬は課税対象外となります。

源泉所得税に関する相違点

 雇用契約に基づく給与については、その支払時に所得税の源泉徴収義務が生じます(所得税法6条)。請負契約に基づく報酬については、講演料や弁護士報酬など一定のものに該当する場合を除き、源泉徴収の必要はありません(所得税法204条)。

請負と雇用の区分

消費税法における区分

 消費税法基本通達によると、両者の区別は、一義的には、請負契約または雇用契約のいずれの契約に基づいて行う役務の提供であるかどうかにより判定することになりますが、このような契約の有無が明らかでない場合には、たとえば、次の事項を総合勘案して判定することになります(消費税法基本通達1-1-1)。

請負 雇用
その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替が許容されるかどうか 許容される 許容されない
役務の提供にあたり事業者の指揮監督を受けるかどうか 指揮監督を受けない 指揮監督を受ける
まだ引渡しを完了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利としてすでに提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか 報酬の請求をなすことができな 報酬の請求をなすことができる
役務の提供に係る材料または用具等を供与されているかどうか 供与されていない(個人で持ち込んでいる) 供与されている

裁判例、裁決例における判断

 報酬の支払に関する消費税や源泉所得税の取扱いについて争われた裁判例や裁決例を見ると、過去の最高裁判所の判決に示された考え方を基に請負と雇用を区別していることがわかります。この最高裁判所の裁判例では、事業所得と給与所得の区分が争点になっており、判断の一応の基準として下記の通り判示しています(最高裁昭和56年4月24日判決・民集 35巻3号672頁)。

事業所得 自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性および有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう。
給与所得 雇用契約またはこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうものと区別することが相当であり、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的または時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務または役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

 設例の場合、契約書は作成していないとのことですが、上記の記載内容を参考に、請負、雇用のいずれに該当するかを判定したうえで、税務の取扱いを考える必要があります。なお、過去の裁決例においては、業務委託契約書が作成されている場合においても、その内容を検討のうえ、雇用契約に基づき非独立的に提供された労務の対価として得られるものとして給与に該当すると判断されたものもあります。

まとめ

 契約は原則として当事者の合意があれば成立しますが、当事者間で契約内容についてトラブルが生じないようにするためには、契約書の作成は重要です。請負と雇用では、消費税と源泉所得税において税務上の取扱いが異なるため、いずれに該当するかは慎重な判断が要求されます。

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